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原初焦がす開闢の炎

 アリスの肉体は完全に乗っ取られてしまった。謎の存在によって。洗脳、人体改造の一歩手前。ノイマンを押し倒しているアリスは、思ってもいないことが次々と勝手に自分の口から喋りだして、恐怖を感じた。


 (違う……!わたしはまだここにいる……!気づいてノイマンさん……助けて……このままじゃあ私は……。)


 最早、精神も完全に乗っ取られるのも時間の問題。にじむインクのようにじわじわと乗っ取られていく感覚が怖くてたまらなかった。自分の知らない自分が生まれてきていて、恐ろしくて泣き叫びたいのに、泣け叫ぶことすらできないのが怖くて怖くて仕方ない。


 「まぁどうでもいいですぅ、裏切る気なら今ここでしんでくださぁい。」


 手が勝手にペンを掴む。狙いはノイマンの喉笛。


 (いやだ……たすけて……たすけて……たすけて……ください……。)


 精神が、心が少しずつ沈んでいくのがわかる。取り返しのつかないことになっていくのがわかる。

 そんなアリスの心境を察したかのように、ノイマンは笑みを浮かべて答えた。


 「案ずるなアリスくん。君は私が助け出そう!怯える心配は何もない!!」


 え……?

 心が通じた?ノイマンさんは心が読める異郷者だった?天才だからそういうこともできるの?アリスの心に希望の火が灯る。


 「君の幸福は私が、天才が傍にいたことだ!そして……お前の不幸は数ある異郷者の中でも私が相手だったということだ!天才に……不可能などないのだ!!」


 ノイマンはポケットに入れていた薬瓶をアリスにぶっかけた。薬液はアリスに触れた瞬間に浸透!とてつもなく強力な薬品であることは明白!


 「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」


 アリスは叫ぶ。いや、正確にはアリスを乗っ取った者が叫んだのだ!


 「消え失せろ!ここは貴様のいて良い世界ではない!!」


 ノイマンはトドメの一撃とばかりに別の薬瓶を取り出し、のたうちまわるアリスにかけた。


 「あああ……あ?あ……わ、わたし戻ってる……あ、あ……わあぁぁぁぁん!!の、ノイマン様、わたし、わたし……!!」


 涙を流して泣き叫ぶアリス。自分の身体を動かせ、自由に喋れて、涙を零すことがどれだけありがたいことなのか身に沁みたのだ。すがりつくようにノイマンに抱きつこうとする。


 「汚いからやめたまえ!」

 「えぇー…………。」


 ノイマンは華麗にそれを躱して、逆に注意した。そして元の席に駆け戻る。


 「邪魔は入ったが、誤差レベル!さぁ魔王よ、やれ!叩き込んでやれぇ!!」


 ノイマンの放送とともにオルヴェリンの動きが止まる。青白い光が急に弱まる。明らかに今までと違う様子。


 「……。ああ、お前の言うことは信用できる。なにせ他ならぬ"ノイマン"の言葉なのだからな!!」


 アークベインは腹部の前に両手部を当てる。腹部に熱量が集中。それを抱えるかのように、両手で包み込む。手部に装備された融合炉は熱量を爆発的に暴走、制御するのだ。それはまさしく世界を燃やす大火を包み込んだ爆発的熱量。それを内包したエネルギー球が、少しずつ、だが確実に形となる。

 乗算虚数図式とはアークベインに搭載されたアーカム独自回路。魔力と連鎖的に反応させ分子運動を暴走させる。魂の一撃。右手が輝き出す。それはあの時、不発に終わった一撃。アークベインの最終兵器にして対オルヴェリンのためだけに搭載された専用武装。


 動きを止めたオルヴェリンに向かい駆け出す。今度は邪魔はさせない。今、渾身の一撃を、悠久の思いとともに叩き込むのだ!


 「ヘルモクロス・ディウクリス・アムラウト!!」


 着弾。

 瞬間、発生する核融合に等しい灼熱世界。膨張し続ける分子運動は圧倒的物量となりて敵を灼き尽くす!それは煉獄の業火!ゴッドブレス!世界は一瞬収束する。膨大な質量がブラックホールを擬似的に発生させたのだ。

 悍ましいほどの叫び声。断末魔!魔王は握りしめた操縦桿に力を籠める。破滅的エネルギーはコクピットの防護装置を破壊寸前にまで追い込める。モニターには危険信号が羅列し、限界が近い。既にリミッターは全解除。ここで、止めるわけにはいかないのだ!


 「ぶち破れぇぇぇぇえッ!!!」


 アークベインのマニピュレータ、その鋼の手がオルヴェリンのコアを掴む。そして───握り潰す。爆燃とともに。巨大な光の柱が立ち昇った。

 世界は晴れる。そこには悍ましき青白い発光兵器オルヴェリンの姿はない。大地に立つ、機械巨人アークベインの勇姿だけが、ただ立っていた。


 「反応なし……。エクセレント。素晴らしいぞ魔王、アークベイン。そして同志、友よ。終わったぞ。何もかも……。」


 ノイマンは感極まった表情を浮かべる。アリスはノイマンとそんなに親しくはないが、彼がそんな表情を浮かべたのは初めてだった。


 「の、ノイマンさん終わったんですか……?これで全部……?」

 「……どうだろうか。ひとまずはエムナさんに連絡をとらないとな。先程の戦いは彼も見ているだろうし。」


 携帯電話を取り出す。エムナに連絡……しようと思ったら着信が来ていた。気づかないほどに熱中していたのかと反省する。内容はメッセージだ。


 『俺は殺される。油断するな我が同志ノイマン。敵は既に別の手をとった。』


 「……は?」


 思わず出た言葉。それは、稀代の天才ノイマンですら想定の範囲外であった、異常事態を示すものだった。

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