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蠢き出す悪意

 アークベインに搭載されたエンジンの動力源は世界の魂そのものである。膨大なエネルギーを獲得し、最大出力で稼働するのだ。

 感じる。皆の思いだけではない、世界の残照を。そしてもう二度と戻ることのない情景を!不退転の決意、背水の陣!今、文字通り全てを!最後の戦いのために叩き込むのだ!


 無造作にその鋼の拳がオルヴェリンに炸裂する。甲高い金属音をあげ、オルヴェリンは揺れた!


 「聞けオルヴェリン!俺の……いや"俺たち"の名は魔王!お前たちが虐げてきたものたちを束ねる王!これは嘆きだ!俺たち世界の全てが!お前を斃せと嘆き叫ぶ!!受けろ、束ねし決意、力に変えたこの一撃をッッ!!」


 大型兵器オルヴェリンが光りだす。先程と同じものだ。破壊の光、ビーム砲が発射される!


 「先程と同じ小手先が……俺たちに通用すると思うなァ!!」


 肩から取り出したのはガルバルテイン。アークベインに格納された剣である!その剣でビーム砲ごとオルヴェリンを叩きつける!ビーム砲は弾かれる。その剣によって!


 出力が先程のものとは段違いだった。それだけではない、俊敏性がまるで違う。小手先がまるで通じない。それはあの時、初めて出会った時よりも大きく性能が上がっている。

 その力はまさしく、届くだろう。我らの悲願へと。


 「素晴らしい……エムナさん……あなたはここまで読んでいたのですか?ならば……!」


 ノイマンは操縦盤を操作する。その速度はとてつもない早さであっという間にプログラムが組み込まれていく。

 

 「聞こえますか魔王とやら、私の名はノイマン!異郷者ノイマン!素晴らしい、素晴らしいですよその力!」

 「ノイマン……だと!?い、いや……貴様が……貴様がそれを造り上げたというのか!よりにもよって貴様が!!」

 「いいえ、違いますとも!ですが今はその問答が惜しい!これから私はこの兵器を一時的に無力化します!抑えられる時間はおそらく数秒!その間に、あの時見せたあの技で、武装で、全力を叩き込むのです!今ならばできるはずだ!」


 ノイマンがプログラムコードをその場で書いたのは、その策を絶対に知られないため。通常ならば不可能である早さをノイマンは可能とする。即席の妨害プログラム。兵器オルヴェリンの機能を停止させるのだ。


 「さぁリビルド!コンパイル!」


 コードが完成し、スイッチを押そうとしたときだった。腕を何者かに掴まれている。馬鹿な、ここには誰もいないはず……アリスくん以外。


 「駄目ですよぉノイマンさぁん、そんなことしたらぁ、オルヴェリンが壊れちゃうじゃないですかぁ。」


 ノイマンの想像どおり、それはアリスであった。しかし、その目は完全に正気を失っていた。よだれを垂らし、信じられぬ力でノイマンを掴んでいる。ノイマンは学者だが筋トレは欠かさない。それが健康の秘訣だからだ。故に事務職の女性に力負けすることなどそんなには無いはずだ。だが現に、とてつもない力で握られている。


 「水よ、この者の意識を封じろ。」


 無詠唱水属性魔法。対象の生命反応を一時的にロストさせる高位魔法。ノイマンが学んだこの世界の科学である。だが……。


 「効きませぇん、まほう?そんなもの無意味なんです……ねぇノイマンさん……私たちを裏切る気だったんですかぁ?いつからぁ?」


 魔法が通じない……だと。いや通じないというより、干渉直前で無力化された。ノイマンの力量不足とかそういう次元の問題ではない。魔法そのものを彼女は否定したのだ。


 信じられない力で押し倒される。操作パネルが遠のく。あとはボタンを押すだけだというのに……天才とはいえ物理で責められると弱い!


 ノイマンがアリスに責められている間、オルヴェリンの動きが停止した。制御が外れたからだ。

 オルヴェリンの様子がおかしい。魔王は感じていた。動きが急に止まった。先程のノイマンとやらの言葉は正しいのか……罠かもしれないと思い、迂闊に飛び込めなかった。

 しかし、その様子は急変する。オルヴェリンの外部を覆う装甲が剥がれていく。ボロボロと……まるで拘束具が外されるかのように。


 「……それがお前の本当の姿ということか。」


 青白く発光した巨大な胴体。無数の目玉。蠢く触手。それは地下深くまで延びていた。おぞましい怪物。

 触手が数本伸びる!アークベインに向けて放たれるのだ!まるで槍のような鞭のような動き、その巨体に似合わぬ迅速な動きに対応しきれず、衝撃が入る!


 「ぐぅ……!パワーが桁違いに上がっている……!だがなぁ!!」


 ガルバルテインを掲げた。ガルバルテインは杖の役割も果たすのだ!魔王はガルバルテインを通じて魔法を解き放つ!触手すべてを焼き焦がす雷の魔法だ!雷雨はオルヴェリンに向けて龍のように向かっていく!

 だが……その直前で霧散した。何もなかったかのように。


 「魔法が通じない……だと……だったら、直接叩きつけるッ!!」


 背部に搭載されたバーニアユニットに出力を集中!バーニアより噴射されるのは通常のバーナーではない。アーカムの科学技術と魔法技術が融合されたいわばハイブリッド!風魔法と重力魔法を纏い急加速するのだ!

 更にガルバルテインにエネルギー充填、輝きを纏い、その威力は乗算的に加速する!


 「砕けろ!ガルバルテインッッ!!」


 閃光、そのガルバルテインに込められたエネルギーが衝撃波としてオルヴェリンに叩きつけられたのだ!溢れ出したエネルギーは周囲に流動し撒き散らす!

 だが気が付いた。魔王が叩きつけている相手はオルヴェリンに間違いないのだが、無数の触手に阻まれている。言うならば防御形態!


 「だから何だ!このままぶち抜く!!」


 魔王は操縦桿を押しこむ。事実、触手は少しずつ焼ききれている!完全に威力で上回っている!そう確信した!

 しかし突然の衝撃、横から叩きつけられる!別の触手が伸びて横から叩きつけたのだ!地響きを鳴らしてアークベインは転がる。


 「手数が多い……!せめて動きが止まれば……。」


 最大の一撃を叩きつけられるのに。それで一瞬で終わらせる。しかし、敵は無数の触手。迂闊には放てない。このままではジリ貧なのだ。


 ───どうしてこんなことに。

 アリスは嘆いていた。自分の人生に。

 ただ普通の幸せが欲しかっただけだった。そしてそれは目前だった。憧れのオルヴェリン中央庁での勤務!花形!人生の絶頂期はつい数時間前だった。


 ノイマンが何やら魔王とかいう異郷者に向けて放送を使って話している。オルヴェリンという兵器を無力化するらしい。あれ?ノイマンはオルヴェリンの立役者で……どうしてそんなことを?

 アリスは疑問に感じたがそれ以上、深くは考えなかった。異郷者には関わらない。それが彼女の人生で学んだ人生の幸福ルートの攻略情報だからだ。


 「早く終わらないかなぁ……ひっ!」


 そう呟いていると、突然天井、地面から青白く輝く蛇のようなものが生えてきた。いや触手?


 「なにこれきもい……近寄らないでおこ……。」


 距離をとろうとした、その時だった!触手の一部が切り離されてアリスの頭部に衝突!


 「んん!?んー!!んーんー!!」


 ノイマンに助けを求めるも口が塞がれて声が届かない。ノイマンは何やらキーボードをカタカタ打ち込んでいてこっちには目もくれない。さっきまでは無理やり連れ出してきたくせに!

 だが、そんな考えはすぐに危機感へと変わった。先程の触手が近づいてきて、自分の身体に絡んできている。気持ちが悪い……いや、それだけじゃない!


 「んーー!!んーーー!!」


 何かが注入されている。それは肉体にとかではない。自我に何かが侵食されていくような感覚!そして気づいたのだ、これは魔物、魔獣の類、精神寄生体!自分が殺される。精神的に殺される。嫌だ、嫌だ嫌だ死にたくない。ノイマンに手を伸ばすが、まるでこちらには気がついてくれない。助けて、助けて、助けて……。

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