竜虎相搏!迅雷の如し
「……何を言っているんだ宗十郎?出鱈目に決まっているだろう……いやもしかすると宗十郎を陥れる罠の可能性だってある。メスゴブリンは見初めたオスと交配するためなら何でもすると聞いているぞ。」
「出鱈目ならばそれで良い。この者たちを苦しめ続けた悪鬼羅刹がいなかったということだからな。それにカーチェよ。これは他人事ではない。もしも真実ならば……いずれこの神とやらはオルヴェリンの敵となるぞ。」
その言葉にカーチェはようやく現状を理解する。確かにその通りだ。毎日人間を食らっていた怪物……ここのゴブリンたちが人を攫っていた理由がもしもそうならば……ゴブリンがいなくなり、安定した餌を得られなくなった怪物がすることは……より多くの餌を求めること。
「宗十郎、本気ですか?神は私たちゴブリンの精鋭が挑んでも勝てなかった相手。別に逃げることは恥ではないです。あなたはそこの女と違いオルヴェリンなどどうでもいいのでしょう?神が活動していない……どこか遠くに逃げれば良いのです。」
「貴様は知能が高いようだが、人の心の内までは察せぬようだな。オルヴェリンの為などというのは方便だ。元より拙者は、何年も貴様たちを苦しめ続けた外道を義憤の念に駆られ倒そうというのだ。単刀直入に言うと貴様の為に力を貸す。故に貴様は黙って案内すればそれで良い。」
その言葉にカーチェは「なっ……!」と抗議の言葉をあげようとするが抑えた。方便であっても神とやらがオルヴェリンの脅威になりうるのは事実。そして神とやらは今すぐにでも動き出そうとしているのならば、口論している暇はない。一刻も早くに対策をとるべきだからだ。
「わ、分かりました。神はこの先の生贄祭壇の奥に───。」
突然の地響き。周囲一体が震え上がり土砂がパラパラと天井から落ちてくる。何かが近づいてきている。とてつもなく大きなものが。
宗十郎はブシドーによりその存在を真っ先に感知した。それは真っ直ぐにこちらに向かっているだけではない。道中のゴブリンたちを捕食しながら来ているのだ!そこに分別はない!例えるのならば災害そのもの!
「案内は不要のようだ、来るぞ!総員構えよ!!」
宗十郎が叫んだ瞬間、壁が爆発した。そして中から現れるは巨大な怪生物!強靭な顎と巨大な目玉が宗十郎たちと目が合うのだ!あの顎だ、あの巨大な顎でこの洞窟を掘削し、ゴブリンたちを喰らいつくしたのだ!
「貴様が神とやらか!我こそは千刃宗十郎!貴様に立ち会いを申す!ブシドーであるならば正々堂々、この一騎打ち、受けて立つが良い!!」
怪生物は宗十郎を無視し触手を伸ばす。触腕とも呼べるかその腕は、宗十郎含むこの場、全生物を狙っていた!だがそのようなことは決して許されない。目の前にいるのはブシドー。かような触腕などものともしないのだから!
宗十郎はサムライブレードを振り回し触腕を全て切断!瞬く間もなく一瞬のことであった。出血!斬られた触腕から青色の血液が流れるのだ!怪生物の血液である!
「痴れ者がッ!名も名乗らず攻撃とは恥を知れ!!此度は貴様との戦い、受けて立つと申しているのだ!ならば名を名乗れ怪物よ!!それとも名も無き怪物として、拙者に斬られることを所望か!」
宗十郎は確信した。この生き物には理性が存在する。であるならば対話が可能であることを!ブシドーとしての直感がそう訴えるのだ!
「何か戯言をほざく、活きの良い餌がいるかと思えば……名を名乗れだと?驕るなよ、貴様のような小物が、我と同じ立場で会話をするなど笑止千万。弁えろ、下等生物が。」
「ほう、なるほど。つまり、実力を示せということか。よかろう!ではその時には改めて問わせてもらうぞ、貴様の名を!!」
宗十郎は構える。狙いは怪生物。妖退治は初めてであるが生き物であるならば殺せるはずだ。ブシドーたるもの妖の一つ殺してこそ箔がつくもの。
「愚かな。実力を見せる?既に我が胃袋の中にいる貴様がか?」
カーチェは気が付いた。今は頭部しか見せないこの怪生物。胴体はどこにいったのか。違和感に気づいたのだ!視線を感じる!ゴブリンではない、一つ二つ……無数の目玉が自分を見ている!そう!気がついたのだ!既にこの部屋は……怪生物の巨大な胴体に囲まれていることに!!あまりにも巨大なその胴体は、部屋の四方を完全に囲っていたのだ!!
壁が崩れてその胴体が露わになる!それは目玉、目玉、目玉!無数の目玉!そして鱗!悍ましく発狂しかねないその姿に思わずカーチェは顔を背ける。だが四方八方、怪生物に包まれているこの状況、目をそらしたところでまた別の目玉と目が遭うのだ!!
「あ、あああぁぁぁあ゛ぁ゛ぁ゛゛ぁあ゛!!」
いくつものゴブリンが叫びだす!怪生物のおぞましい神気に触れて発狂したのだ!よせば良いのに、出口求めて駆け出した!だが哀れ!出口は既に怪生物の肉体!触腕が伸びてゴブリンをつかみ取り、どこからか出てきた口の中に入る。捕食されたのだ!ゴブリンは丸呑みにされ踊り食いだ!
「愚か者め、このような者に正気を失うとは、ブシドーが足りん。舐めるなよ怪生物よ!このようなものは、我が祖国では日常茶飯事!児戯と知れ!かようなことなど……ニンジャ一人にも劣る子供だましである!!」
サムライブレードにブシドーを注入する。ブシドー殺法の真骨頂である!バイオテクノロジーの最先端を行くサムライブレードはその組み込まれたナノマシンにより、ブシドーのブシドーソウルを吸収し力へと変える!ニンジャであればニンジャブレードとなるのだが、宗十郎はブシドーである!
「貴様のような妖もまた、ブシドー数千年の歴史において既に討伐の記録はある!受けるがよい、此れはかつての妖バスターであるライコーの御業……秘中の秘、シークレットサービスである!!」
ライコーとは正式名称ゲンジ・ライコー!かつて宗十郎の国に実在した妖バスターである!その倒してきた数は公式記録で万を超えるとされるが定かではない!だが確かなことはライコーのブシドーは妖を倒すことに特化したものであり、現代に至るまでブシドー殺法タクティクスとして、伝承されているということなのだ!
「受けよ!これこそがライコー秘伝の奥義!!」
ナノマシンは高速展開され、注入されたブシドーは大気中のクーロン力と連動し、サムライブレードに収束していく!更に高速展開するナノマシンによりその電荷は極限までに高められ、一種の天災的超常現象を引き起こすのだ!その輝きはまさしく雷光!サムライブレードに限界的にチャージされた電気エネルギーは雷となりて展開されていく!その技の名を……。
「雷光ブレイド!!」
雷エネルギーは数億ボルトの電気エネルギーとなりて大気中の絶縁を破壊し拡散していく!恐ろしきはこれら全てにブシドーが込められているということだ!それは即ち、雷もまたブシドー!ブシドーであるということは、無秩序に周囲の味方を傷つけることは決してないということだ!
轟くような激音、衝撃波。カーチェは唖然としていた。意味がわからなかった。目の前の男は剣士だと思っていたのだが、魔術師の類だったのか?そう思わせるくらいの壊滅的な力。周囲一体は、自分たちを除き、雷撃で爆心地のように黒く炭化していた。
怪生物が迂闊だったのは目玉というあからさまな生物としての急所を露出していたことだった。雷光ブレイドによりその目玉は全てブシドー電気により焼却され潰されていた。恐るべきは怪生物に非ず。異邦の力、ブシドーの力である。





