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神冀礼装、顕現せし英雄船団

 しかしイアソンはリュウの実力を知っている。大したことない相手。剣を構え応戦する。剣と槍。リーチの差は明白だが、技量でその差は埋める。そう確信していた。

 刃と刃交わる時、イアソンはその過ちに気がつく。ゾッとした。気配が急に変わった。


 老人の細腕、槍を持つことすら難しいであろうその身体。突き刺してきた槍の軌道が変わった。指先僅かの動きで、目標を変えたのだ。槍が突いたのはイアソンではなく、槍を払おうとしたイアソンの持つ剣そのもの。

 例え膂力に差があろうとも、その力点や呼吸、リズムが狂えばいとも容易く制する。それが武術というもの。


 イアソンの剣が弾かれる。巧みに操られた槍技により。そしてリュウは槍を縦に回転させ、穂先が反転、槍の石突をそのままイアソンに叩きつける。ミキミキッと音がして、イアソンの腹部に叩きつけられたのだ。


 「鴻鵠流こうこくりゅう───黄龍尾払こうりゅうびはらい。イアソンとやら、武器に救われたな。」


 黄龍尾払とは本来両刃の槍をもってして使う技。本来であれば今の時点でイアソンは絶命していた。片刃の槍故に致命傷だけは避けた。しかし……。


 「ごほっ!ごほっ……!なんだと……なんだ今の……実力を隠していたのか。今の、今の動きは……。」


 槍術の達人と引けをとらない動きだった。いや、あれほどの技は俺の仲間にもいたか分からない。それくらい練度の高い技を、あの老人は突然こなしたのだ!気配が、まるで別人、別物であった!


 「んん~?どうしたイアソンちゃん?こんな老人一人、余裕で殺せるんじゃあないのぉ?」


 再び槍を構える。追撃は来なかった。リュウもまた計りかねているのだ。イアソンの実力を。彼の本質はアルゴー号の船長。それで十中八九合っているはずだと確信しているのだ。即ち、船のない彼は多少武勇の優れるだけの戦士。負けるはずがない。

 だが、どうも得体の知れない。同じなのだ。この男は、心の本質は真逆だとわかった上で、やはり自分と同じだと何故だかリュウの魂、本能、危機管理が疼いているのだ!


 「はは……参ったな……そのとおりだ。傲慢だった……だって、だって。」


 挑発をものともしない。だがやはり、この男は危険。

 リュウは自然と身構えていた。警告、危険、鳥肌。本能が、"彼ら"が訴え続ける。今はまずい、様子見しろ、退け!

 それは無理だった。今ここでやらねば、何かがまずいと確信したのだ。


 呼吸を整える。丹田に意識を集中。龍脈の流れを意識。槍の穂先に何かが集う。それは言葉では説明しきれない力。

 槍の飾り布が舞う。そしてリュウ全体を覆った。一瞬、お互いの視界が遮られる。それが蒼龍牙突の真骨頂。その一瞬を狙い、蒼龍の如く貫くのだ!


 「鴻鵠流こうこくりゅう蒼龍牙突そうりゅうがとつ!!」


 一閃であった!その一撃蒼龍の如く!降り注ぐ雨粒はリュウの掴む槍を中心に周囲を吹き飛ばす!爆発的な気の解放!巨大な質量が超高速で通過したかのようだ!轟音、圧倒的水圧!その瞬間だけ、周囲一体の雨粒は消滅した!その先にいるのは未だうずくまるイアソン!あわや絶対絶命である!


 「───璽律回路発現、リミッター開放、アクセスコードプロセス……承認。」


 激突!イアソンの呟きを無視してリュウはその豪槍を叩き込んだ!圧倒的衝撃波!吹き飛ばされた雨粒が周辺の建物を粉砕する!イアソンは間違いなく即死!そう誰もが感じられずにはいられなかったのだ!


 イアソンにとって本当の宝とは何だったか。彼が彼たらぬものとは何か。それは、輝かしき栄光の日々……ではない。大事なのは過程。数多の豪傑、英雄たちに慕われ、そして彼らと過ごした日々。英傑とは皆、癖が強いものだ。だが彼らがイアソンと共にいるときだけは心が一つであった。

 それは死後も変わらない。いつもイアソンの傍で心の支えとして在り続ける。

 イアソンの肉体には三つの祝福が刻まれていた。それは彼を寵愛する三女神の奇跡。奇跡は具現化し、彼の切り札として、限定的に発揮する!


 「装着>プロセスコート。」


 そのコードを解除すると刻印は一時的にイアソンの肉体から剥離。そして変形する。それはスーツのようだった。限定的に、神々の顕現を行使する神代礼装。憑依装着カテホメノシス。それがイアソンの身体に装着される。

 姿が変わった。一瞬にして。まるで変身であると、リュウは感じる。しかし槍を止めはしない!このまま押し切るのだ!叩き込むは渾身の一撃!!


 「!?…貴様……!何者だ……!!?」


 明らかな異変。手応えがおかしい。槍が……掴まれている。掴まれた槍が動かない。イアソンに掴まれているのだ、その圧倒的な膂力によって!


 「……もろい。」


 鳥肌。身体中の毛穴が逆立つ。圧倒的圧力!自然と溢れ出てくる神気!大気が震えている、この存在は何者だ、これは何だ、この男は誰だ。イアソンは確かに恐るべき異郷者であった。だがこれは……"規格"が違う。文字通り"次元"が違う。


 そのまま、掴まれた槍を引っ張られる。リュウは悟った。「まずい」と。既に遅く、手遅れだった。掴まれて無理やり引っ張られて身体が浮く。一瞬、自由の効かない身体に、無慈悲にイアソンは剣閃を放つ。両断。技と呼んで良いのかも分からない、乱暴な一撃。リュウの胴体は二つに分かれ切り離された。


 切り離された肉体。

 確実なる死。

 だがイアソンの目は、眼光は、捉えていた。

 「この男はまだ死んでいない」と。


 「はっ!ははは!!はははははははは!!なんだ!!やっぱりそうだ!!お前は俺と同じだよイアソン!!」


 掴んでいた槍が変形を始めた。変形機構のある機械槍。得体の知れない武器であると見て、イアソンは手放し距離をとる。

 金属音と共に変形を始めた槍は剣へと姿を変えた。あれは装飾過多な槍ではない。変形武器!用途に応じて変形するギミックを有したものだ。


 「アケローン……いやケルベロス……?どれも違う、だがこれは……人ではない。」

 「気づいたかイアソン?お仲間に、教えてもらったかぁ!?」


 切断されたはずのリュウの胴体は何事もないようにもとに戻る。まるで何事もなかったかのように。不死ではない。不死の怪物は何度も見たことがあるからだ。明らかに違う。いや、それよりも……。


 「そうか、俺たちに気がついていたか。なるほど、同じとはそういうことか。」


 リュウは笑う。

 そう、二人の本質は似ている。イアソンはその神代礼装を装着することで、一時的にかつての仲間たちの力を憑依させる。それは単純に技法だけではない。力、記憶、すべてを再現するのだ!

 対してリュウがもつ力とは……似ている。似ているのだがその本質は違う。後天的なもの……!

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