表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/114

魔の喚び声

 「それがお主が欲した力だというのならば……ブシドーを舐め過ぎだ!まだあの時、騎士として立ちふさがった時の方が強敵地味ていたぞ!!」


 獣が振るう太刀筋など簡単に見切ることができる。これは戦いではない。介錯である。魔道に落ちた哀れなものへの。

 剛剣が振り下ろされる。容易い太刀筋だった。躱して、振り下ろしきった瞬間を狙い……。


 「ぬぅ!?」


 信じられぬ挙動だった。振り下ろされた剣は地面に叩きつけられ、そしてゼロコンマ、時間差なく、振り上げる。ありえぬ剣術。体重、重力を乗せられないその動きでは敵を斬ることも困難。しかし、信じられない膂力がそれを必殺の一撃とした!

 サムライブレードとぶつかりあう!弾け飛ぶ火花!この女、リノンは膂力だけでブシドーと張り合っているのだ!


 「まるで猪よ!膂力だけでブシドーと渡り合うその力!大したものではあるが、心も技もない!心技体!三位一体こそが武の正道と知れ!」


 再度振り下ろされた剣を躱し、宗十郎はそのまま切り返す!その豪胆な性格から勘違いされがちだが、彼は細川幽斎の弟子である!剛剣ではなく冴えわたる剣技こそが彼が修めた剣技!

 切断!リノンの腹部から血飛沫が巻き散らかす!手応えありと見た!


 「……いや、これは何だ。それは一体、何なのだ。」


 振り向きざまに残心。その一連の所作の中で、見慣れぬものを見た。血飛沫。真っ赤な血液である。当然だ。しかしなんだ、目の前で流しているのは青白い液体。血飛沫では……ない。当然それは、サムライブレードにもこびりついていた。

 宗十郎はブシドーとしての本能でその液体は危険とみなし、すぐさま放出のエンチャント。サムライブレードにこびりついた液体を吹き飛ばした。

 そして再度、リノンを見る。腹部、宗十郎が切りつけた部分。苦しみながら青白い液体がボトボトと流れ落ちている。宗十郎はブシドーサーチを行った。この奇妙な存在を知るために。


 「……!うっ、ぐっ……!ぬぅぅぅ!!」


 嘔吐感。目眩。気持ち悪さ。

 サーチした瞬間、そんな不快な感情が脳内を駆け巡った。

 なんだこれは、なんなんだこれは。理解できず口元を抑える。そこに影。リノンが青白い液体を垂らしながら、近づいていた。


 「しま───。」


 轟音。叩きつけられる。圧倒的膂力をもって激震が響き渡る。

 完全に意識の範囲外だった。意味不明の存在に、心ここにあらずだったのだ。

 防御は最低限。本能的に展開していたブシドーで、絶命は免れた。だが頭部ダメージが深刻!脳震盪により意識が集中しない!そこに追撃の返しの刃が走るのだ!

 こうなっては是非もない!全身全霊でブシドーを集中させ防御態勢!受け止めるのだ!

 その一撃、受け止めることを覚悟した宗十郎だったが、ここで肩透かし!その返しの一撃は大きく外れる!バランスを崩し、リノンは転倒したのだ。

 その後ろにはカーチェが立っていた。足を斬ったのだ。宗十郎しか見えていない彼女の隙を突いて。


 常人なら既に絶命してもおかしくないほどの腹部の傷。宗十郎のサムライブレードは甚大なるダメージをリノンに与えている。だというのにその闘志は不滅。足が斬られたことすら自覚せず這って宗十郎へと向かっている!

 そしてこれは即ち、痛覚などとうに消え失せていたということだ!痛みとは肉体の危険信号!肉体の限界すら自覚せず戦い続けた当然の帰結である!


 「宗十郎ォ……!私を見下すな……!」


 青白い液体はなおも流れ続ける。ボタボタと。まるでヒルのようだった。


 「もうよせ!リノン!……もう良いんだ!そこまでして……戦う必要なんてなかったのに!!」


 カーチェは叫ぶ。原型を失ったリノンを止めようと。その声にリノンはピクリと動きを止めて周囲を見渡す。


 「カーチェ……様?カーチェ様!どこですか!?私は大丈夫です!ああ、卑劣な異郷者はまだここに残っています!カーチェ様!カーチェ様!どうか、どうか逃げてください!!」


 リノンは叫ぶ。カーチェの無事を願いながら。自分のことなど構いなしに、カーチェを逃がそうと。

 胸が締め付けられる思いだった。リノンは今も必死に自分に対して逃げろと叫んでいる。目の前に、先程からずっと目の前にいるというのに。

 彼女にはもう自分は見えていない。聞こえた声だけを頼りに、自身の致命傷を無視して、自分の安全を第一に叫んでいる。


 「あぁ、分かった。すぐに一帯から立ち去ろう。感謝するリノン。だからお前も早く逃げるんだ。」

 「カーチェ様!カーチェ様!早く逃げてください!逃げて!!」


 雨は降り注ぐ。地面は青白い不気味な液体に染まっていく。最早、カーチェの声すら届かず、ただひたすらに叫び続けている。


 戦い終わり勝者となれど、決して敗者への礼節忘れるべからず。それこそがブシドーの掟……なのだが。此度はあまりにも奇妙、もしもこの青白い液体が血液だとするのなら明らかに致死量。だというのにリノンはまだ生きている。

 最初に連想したのは吉村である。だが、吉村の血は間違いなく赤かった。このような奇妙な存在ではなかった。

 胸騒ぎがする。このことを伝えるべく師匠の元へ戻るか、あるいは先に進みイアソンに伝えるか。何かがおかしい。


 「リノンとやら、答えろ。貴様のその施術誰がした。」


 宗十郎はサムライブレードを突きつけて問いかけるが返事はない。

 その姿が痛ましくて、カーチェはリノンを抱きかかえようとする。しかし止められた。宗十郎にだ。


 「よせ、アレに近づくな。」

 「宗十郎、何をする!?もうリノンには戦闘能力はない!せめて最後くらいは看取ってやるのが人というものだろう!」

 「確かにそうだ。"リノンには"戦闘能力はない。しかしあの青白い液体。あれは駄目だ。ブシドーセンスが告げている!あれはカーチェ、お前には絶対に触れさせない!この生命にかえても!!」


 突然の真剣な物言いにカーチェは思わず黙り込む。初めてかもしれない。彼のこのような真剣な物言いは。


 「カーチェ……様?いるんですか……寒い、寒いんです……。ああ、ここはどこですか。私は一体……嫌だ、一人は嫌だ……助けて……助けて……ください……。」


 思えばリノンは昔からそうだった。共に騎士として鍛錬をし、辛い時、悩みを聞いてあげたこともある。ただの同僚ではない。大切な後輩でもあるのだ。そんな彼女が今、自分を必要としている。最早助からない命、せめて最後くらいは!

 反射的に駆け出す。だが宗十郎は許さなかった。カーチェを羽交い締めにして無理やり抑え込む。


 「離せ宗十郎!!貴様には分からんだろうがリノンは私にとって妹のようなもの!!例え袂分かれようとも、死に際くらいは共にいさせてくれ!!」


 「───お前は誰だ。」


 ───え?

 カーチェは宗十郎の言葉に耳を疑った。しかしそれは自分に言った言葉でないことがすぐに分かる。宗十郎は自分を羽交い締めにしている。今も絶対に離さないという強い意思のもとに、その強い力で。そしてじっと睨んでいるのだ。リノンに対して。


 「宗十郎……!許さない……殺す……!宗十郎コロス!」

 「猿芝居はやめろ。外道め。俺はリノンのことなど、ほとんど知らぬ。しかし、今のお前の言葉はまるで別人。死に際に心変わりすることは確かにあるだろう。だが……だがリノンは、自分の身よりもカーチェの安全を優先する!そこに嘘偽りはなく、ただ純粋なものだ!それを、助けて……だと?よくもそのような心にもない言葉を放てるものだ。魂の叫び読める相手を見るのは初めてか、この詐欺師風情がッッ!!」


 ブシドーとは魂と魂のぶつかり合いである。故に、その心の内。最後の時に残す詩は大事とするのだ。これを辞世の句という。死の間際、人は今まで取り繕っていたものを捨て去り、本心を言い放つものだ。

 リノンにとってそれは、最後の最後で、カーチェの安全を祈るものだった!決して無様に助けを求めることではない!

 故に宗十郎は怒りを感じたのだ。リノンの想い、最後の最後まで、命尽き果てようともカーチェの安全を祈ったその崇高たる精神を侮辱したからだ!リノンの身体に混ざっている何かに対して、怒りを感じたのだ!!


 「コロ……ス!ソウジュコロ……!コロコロロ!!アハ、アハハハハ!!キャハハハハハハ!!」


 やはり意思疎通は不可能。リノンの瞳には狂気が宿っていた。最早、彼女には何も見えていない。目の前の俺ですら、何なのかも分かっていないのではないかと思うくらい。

 サムライブレードに介錯モードをエンチャントする。ただで死なぬならば、トドメを刺すだけのこと。


 「安心せよリノン。貴様の仇はとる。貴様の魂を凌辱した輩は、必ず俺が殺す。故に眠れ。安らかに。」


 サムライブレードを突き刺した。消滅、リノンは生命活動を停止し、絶命したのだった。

 リノンの豹変からカーチェは愕然としていた。腰が抜けていた。力が入らない。


 「何が、何が起きているのだ……私の都市で……私が生まれたこの都市で……。」

 「知らぬ。だが、一つだけ確かに言えることがある。リノンとやらは、最後までお前のことを慕っていた。命よりも大切な存在だと思っていた。それは紛れもない真実だ。後悔しろと言いたいのではない。いずれは衝突していた運命。ならば……無駄にするな。二度とこのようなことを起こさないためにも。」


 後味の悪い戦いだったと思った。だが時間は限られている。二人は駆け出す。イアソンを追って目指すはオルヴェリン中央庁へと!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、レビューなどを頂けると作者の私は大変うれしいです。
更新報告用Twitterアカウントです。たまに作品の内容についても呟きます。
https://twitter.com/WHITEMoca_2
過去作品(完結済み)
追放令嬢は王の道を行く
メンヘラ転生
未来の記憶と謎のチートスキル


小説家になろう 勝手にランキング
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ