燃え盛る都市
アルゴー号は地響きを立てて都市へと墜落した。しかしながら乗員は全員無傷!アルゴー号が最後の力振り絞りクッションとなったのだ!
皆、緊張した表情で船から降りる。足を踏みしめる。ついにここまで来たのだ。難攻不落、絶対不滅の人間都市オルヴェリン。
「よくやった相棒……。しばらく休んでいてくれ。後は俺が、俺たちがやりとげる。」
イアソンは労いの言葉をアルゴー号にかける。傍に居たいのは山々だが、この戦いで自分は抜けるわけにはいかない。故にここでアルゴー号とは一時のお別れなのだ。
「全員気を抜くな!急ぎ壕を作れ!敵は種子島を持っている、格好の的だぞ!」
幽斎は叫んだのと同時だった。銃声。そして金属音。宗十郎がサムライブレードで弾いたのだ!遠くにいるのは狙撃兵!
そう、忘れてはならない。こちらの武器は剣や斧、槍に弓。対して相手は最新型種子島。武器の優劣は既に決まっている。
「師匠、軍の指揮は頼みました。拙者は敵の気を引き付ける故に。」
「うむ……ふふっ……この世界の者たちに見せてやるが良いシュウ。ブシドーに種子島など、無意味であることを。所詮は子供騙し。真なるブシドーの敵ではないのだから。」
「はい!いざ、ブシドー展開!フルクロス!!」
宗十郎のサムライブレードが輝き出す。注入されたブシドーはナノマシンと反応し新たな武装形態へと変化するのだ!吉村のときと同じである!宗十郎の武装形態は無数の刃!千の刃が周囲を展開し、相手を切り刻む!
狙撃兵の位置は明白であった。弾丸の運動エネルギーをブシドーにより逆探知すれば容易に特定できる。
「因果応報!放て、我がサムライブレードよ!」
射出されたサムライブレードは正確無比に狙撃兵へと飛んでいく。断末魔!哀れ狙撃兵は無惨にもブシドーフルクロスにより刻まれ絶命したのだ!
その様子をリュウは見ていた。ブシドーの動きを。
「ちっ、逆探知できんのかブシドーってのは。つくづく意味がわかんねぇ……嫌になるぜ、あいつとの戦いを思い出す……。全軍、狙撃は中止だ。距離を詰めてオールレンジで殺せ。奴だって人間だ。撃たれたら死ぬ。」
リュウはこの時に備えてブジドーの情報を整理していた。聞けば一騎当千。単独で戦場を荒らし回る戦略戦術を考えるのが馬鹿みたいに感じる怪物。まさに"あいつ"と同じだ。リュウが散々苦汁をなめることになったあいつと。
加えて、ドラゴンの撃墜を妨害した謎の存在。情報量は少ないがこの都市で宗十郎と戦っていたハンゾーとかいう奴の仕業だろう。
よって整理するとオルヴェリンの軍隊がまともに戦略として機能させるためには、この二つのインチキを何とかしなくてはならない。
「はぁぁぁ……エムナの野郎~老人虐待だぜ、こんなの相手にさせるとかよぉ~。」
肩を落とし、ため息をつく。つまるところ普通のやり方では奴らに対抗はできない。兵力差ではこちらの方が上なのに、戦力差で向こうが上なのだ。局地戦においてあまりにも致命的。雑兵が何人いようとも英傑一人に蹴散らされては意味がない。
「リュウ様、準備完了しました。」
「おう、お疲れ。んじゃやっちゃって。」
部下の報告がようやく来た。さて、ここからが第二幕だ。連中は戦の定石も知らない素人集団。その上甘ちゃんのカーチェが代表。ならいくらでもやれる。
リュウはニヤリと笑う。彼の悪い癖だった。絶望的な状況だというのに酷く楽しんでいる。僅かだが見える活路を切り拓く。それこそが彼の為してきた奇跡の数々なのだから。
宗十郎は早々にフルクロスを解除していた。敵の動きが変わった。狙撃兵の様子はどこにもなく静かだ。
「ブシドーに通用しないと理解し出方を変えてくるつもりか。」
コボルトの一人が気づく。何か臭うと。異様な臭い。巧妙に風向きを意識して配置していたそれらだが、嗅覚に優れたコボルトたちは察知した。しかし彼らは人語を話せない。幽斎に伝えるためにゴブリンのリンデを介してでないと伝わらない。その遅れが致命的だった。
それは空にいた。遥か上空。
ノイマンがジェット戦闘機を発明していたのは先程、明らかであった。
ならば予想するべきだったのだ。そこから派生する、同様の兵器の数々も、既に発明済みであるということに。
ゴウンゴウン……ヒュルルル……。
聞き慣れない音が聞こえた。質量物が空気を切り裂き落下してくる。幽斎は理解した。"あれ"は敵意の塊。意思こそないが、生命を殺し尽くす劇物。
「全員伏せろ!!敵が来るぞ!!」
叫んだ。同時に爆発と衝撃。オルヴェリンの都市部は一瞬にして地獄と化した。強い衝撃と、閃光。そして熱波が広がる。
「なんだ……なんなんだこれは!お前たち……お前たちの……自分たちの都市じゃないのか!?」
カーチェは叫ぶ。その惨状に。周囲一帯は火の海だった。燃えて燃えて燃え続けている。
ノイマンの設計した建築物は耐火性能も極めて高い。だというのに延焼は止まることを知らず燃え続けているのだ。
それもそのはず。落下したのはただの爆弾ではない。ナパーム弾。燃焼性の化学物質がオルヴェリンの都市にこびりつき燃え続けるのだ。生命体を殺し尽くすための制圧兵器。
そしてそれを実行したのは遥か上空を飛翔する航空機。爆撃機である。
難攻不落のオルヴェリン城壁を打ち破り士気はピークに達していた連合軍であったが、突然の異常事態に完全に意気消沈していた。当然である。気がつけば辺り一帯が火の海と化していた。このような芸当ができるのはドラゴンのみ。第一級の魔術師ですら詠唱による予備動作がある。故に彼らは畏れたのだ。あり得ぬ所業を成し遂げるオルヴェリンの者たちに。
「結局のところ戦争なんてのはどれだけイカれるかの勝負よ。犠牲を出さずに勝つだなんて甘っちょろいやり方じゃあ、何一つ守れないんだぜカーチェちゃん?」
燃え盛るオルヴェリンを眺めながらリュウは呟いた。そこに見えるのはただ一点の勝利のみ。どんな汚い手をとろうとも、勝てば正義なのだ。最終的に勝てば良いわけだ。





