異郷者ノイマン
「いや、私は天才だし周囲に傲慢な振る舞いで不愉快にさせることが割と結構あるみたいだがな……それでも無断欠勤はしないぞ!?天才と非常識はイコールではないからな!だがカーチェ!お前……お前、どれだけ休んでるんだ!体調が悪くても一言報告するのが社会人としてのマナーだろうが!!」
「私は休んでなんかいない!!」
「ならば出張報告書と定時に連絡くらいしろ!直行直帰くらい許すぞ!!」
「違う!私は……私はもうオルヴェリンには所属していない!!こうしてこの場にいること、それが答えだ!!騎士でもなんでも無い、今ここにいるのは一人のカーチェという女だ!!」
改めて自分の立場を口にする。そこにはもう迷いはなかった。捨てた称号。悔いはない。胸を張り、今の自分を堂々と伝えた。
「なん……だと……?」
ノイマンは驚きの表情を浮かべる。カーチェの言葉を聞くまで、信じられなかったかのように。彼は本気で信じていたのだ。カーチェがオルヴェリンを裏切るはずがないと。
「本気で……言っているのか……?私がどれだけ苦労したと思う?無断欠勤が続くお前には陰口を叩くものや、妬むもの、毛嫌いするものもいた。だが私は信じていたのだ。お前がオルヴェリンを……騎士をやめることなんて無いと……。」
それは心の底からの感情の吐露。カーチェはノイマンのことをよく知っている。同じオルヴェリンに従事するものとして、あまりにも有名人。異郷者らしく自分勝手で他人のことなどお構いなし。そう思っていたのに、予想外の反応だった。
「ノイマン……。」
「だって公務員だぞ……一生職に困らない、安泰してるのに……。」
「今、なんて言った?」
少し聞き捨てならない言葉が聞こえた。カーチェは信じられない様子で尋ねる。
「騎士とはつまるところ公務員。倒産することもないし、安定した給与と待遇が約束されている。また今の社会情勢を考慮すると退職するデメリットが多いというのが天才的分析だ。カーチェ、考え直すんだ!今よりも安定した職はないぞ!!」
「ふざけているのかお前?」
幻聴でも何でも無い。ノイマンはカーチェのことを、安定した仕事に就くために騎士という公職になったと思っていたのだ。それはカーチェにとってこの上ない侮辱だった。騎士とはそのような生半可な覚悟で務めるものではないのだ。
「なぁカーチェ~、考え直してくれないか?いや実のところお前を私は評価してたんだ。目にかけていたんだ。仕事はできるし、的確だし。コビーって知ってるだろ?あのやたら猫なで声で話しかけてくる奴さ。多分お前は神聖五星騎士だからきっとお前にもあんな感じで媚びてたろ?あいつが技術庁の所長になりかけてたんだぞ?エムナさんの計らいで何とかなったが……今のオルヴェリンはそういう実力も無いのに媚びへつらうような奴が出世するようになっている!私が作り上げていったこの街!生え抜きの実力者たちは次々とそういう連中によって追いやられているんだ!もう無能ばかりだ!お前は優秀な女性だ!考え直せ!」
「今更、戻れと言われても遅い!お前も知っているんだろう、オルヴェリンも悪逆無道な振る舞いを!隠し通しておいて、なにが目をかけていただ!」
「ほう!それが退職理由か!?ならば……お前が変えれば良い!なぜ武力に頼る?お前が内部から……そういう街にしないように変えていけば良い。カーチェ、お前の席はまだ残っている。冷静になるんだ。」
意外な提案。ノイマンはオルヴェリンの振る舞いを容認していると思っていた。いやむしろ積極的に推進しているとカーチェは思っていたのだ。だがこの反応はまるで、ノイマンもまたオルヴェリンの略奪に批判的のように思えた。
「ノイマン……お前はオルヴェリンの略奪を何とかしようと思っていたのか?お前ほどの大物がその気なら……。」
「いや無理だろ、常識的に考えて。」
言葉を遮るようにノイマンは即答する。
「私は学者だからな?結論言うと略奪はやめられない。止められない。」
「それでも何とかしたいとは……思わないのか……?」
「……なぜそんなことを?ああ、なるほど待遇改善を要求したいのか?分かった!女性の雇用率を増やすようにしよう。確かに職場は男性が多いものなぁ。しかしそれは単純に応募が少ないからであって差別しているわけでないぞ?だが確かに肩身は狭くなるな!業務の簡略化マニュアルを作成しお茶請けしかできないようなものでも雇える環境を……。」
「誰がそんなことを言っているんだ!真面目に話をしろノイマン!!」
「私は真面目だぞ?やれやれ、これだから女性は駄目なのだ。感情的で、一時の感情ですぐに行動に移る。大方、騎士をやめたのも……そんなところだろう?そうだな、痴情のもつれ……とかか?」
「もういい……私はもう騎士ではない。お前が何を言おうと決意は変わらない。」
呆れかえる。他人の心をまるで理解しようとしないあの男に。少しでも期待した自分が愚かだった。異郷者だろうと、その心は自分たちと同じ。宗十郎と出会いそんな希望を抱いていた。だが違うのだ。やはり異郷者の多くは相容れない存在。宗十郎が特別なだけだ。
「そうか。まぁそれなら仕方ないな。では……受け取れ。」
その言葉と同時に矢がカーチェ向けて放たれる。一瞬のことでカーチェは反応が遅れた。「しまった」と。これが狙いだったのなら策士。仮とは言え連合軍の代表を務めているカーチェを船の甲板に引きずり出し、的確に狙撃する。矢は、無慈悲にもカーチェを貫かんとするのだ。
しかし突然の爆発。矢は空中で爆発した。ノイマンの仕掛けかと思ったが違う。ノイマンもまた驚いているからだ。
「あまりアルゴー号を舐めるなよノイマンとやら。」
イアソンは言い放つ。自動迎撃装置。放たれた矢はアルゴー号によって空中で爆散したのだ。
「き、き、貴様ぁぁぁ!!なんてことをしてくれるのだ!!わ、わ、私の天才的装置を破壊するなど!!ゆ、許せん!!!このクソ野郎が!!!!」
紳士的な態度を取っていたノイマンが突然青筋を立てて怒り狂う!イアソンに指をさしながら、身体を震わせて暴言の数々を浴びせるのだ!あまりの急変ぶりに、皆が戸惑いを隠せない!
「…………感情的な人間は駄目じゃなかったのか?」
「なにぃ?人の揚げ足をとって……この天才に意見するか凡夫!!天才の私が駄目なわけないだろう!!我が脳内に溜め込んだ叡智は何よりもかえがたい至宝!それを理解できない無知に発言権などないのだ!同じ次元で論争をしようなどとおこがましい!!」
怒り狂った様子でノイマンは弁舌をふるう。その豹変は別人のようだ。
「……いや違う。カーチェ!後ろだ!!」
ノイマンの急変ぶりに困惑していたカーチェの後ろに何かがあった。誰もが気が付かなかった。宗十郎がようやく気が付きカーチェに声をかけたときは既に遅い。もう目と鼻の先に、それはあった。宙に浮かぶ機械装置。
「ステルスドローンだ。さしものブシドーとやらも検知できないようだな。ああ、天才のブシドー解析がまた一つ進んだようで我ながら恐ろしい。」
先程の様子とはうって変わって紳士的な振る舞いにノイマンは戻る。全ては演技……注意を逸らすための!
近くにいたゴブリンの一人がカーチェの後ろ宙空で静止する機械装置を掴んだ。兵器ならば今すぐにでも離さないと危険だからだ。
「ばかっ……私のことは……!」
閃光。機械装置が光りだす!ゴブリンは掴んだ機械装置を抱えてうずくまった!少しでも周りに犠牲の出ないようにするためだ!命捨て守るために!





