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武装解放オルヴェリン

 ───翌日。イアソンの作戦を実行するためにドラゴンたちは集まっていた。壮観である。亜人も人間も、流石にこの異様な光景には驚きを隠せない。

 宗十郎たちはイアソンの船、アルゴー号に乗り込んでいた。船内は広く可能な限りの戦闘員が搭乗している。勿論亜人たちの代表も全員乗り込んでいるのだ。


 「シュウ、誰だその女は?」


 そんな中、幽斎は宗十郎の傍にいつのまにか知らない女が増えていることに気がつく。気配から察するに人ではない。その姿は仮初のもの。宗十郎を拐かす妖ならばこの場で叩きつぶす勢いだ。


 「師匠、彼女はドラゴンの代表でリリアンというらしいです。」

 「おや、昨日は見かけなかったのぉ女……ん?いやお前……宗十郎、この女は味方で……良いのか?」


 リリアンは真面目な顔で幽斎を見る。何か思うところがあるようだ。

 それも当然。幽斎はこのような姿をしているが元々は老齢の剣士。事情があってうら若き乙女の姿となっているのだから。


 「……へぇ。ドラゴン娘かぁ。珍しい。人間に与するとはいかなる気の迷い?」

 「……お前こそ。気味の悪い女。その不気味な黒髪、まるで不吉を呼ぶカラスのようじゃ。」


 二人の間で突然火花が走る。横で見ていたカーチェは理解不能だった。幽斎は大人の対応をとれる女性。ドラゴンに対して失礼な振る舞いはしないと思っていたのに。なぜだかリリアンも幽斎を敵視している。


 「リリアン、師匠への暴言は許さぬ。そこまでにしろ。」

 「え、宗十郎は余の騎士だから味方……。」

 「師匠への暴言は許さぬ。」

 「う、う……うぅぅぅ!!」


 表情を何一つ変えず、真顔でそう答える宗十郎にリリアンは涙目になる。そして耐えきれなくなり走り去っていった。大衆の面前でドラゴンの威信を失わないためだ。


 「ふ……ガキが、どこの馬の骨かも分からん奴が愛弟子ポイントを着実に貯めていたあたしに勝てるわけないじゃん。」


 その姿を勝ち誇った顔で幽斎は見ていた。



 「いや、駄目だ駄目だ!宗十郎!早くリリアン様を追いかけるんだ!作戦の要だぞ!」

 「むぅ!?しまった!!師匠、すいませんが今のはなしで!童の戯言と思って寛大な心で許してくだされ!!」


 幽斎の返答を待つ前に宗十郎は駆け出す。本作戦においてドラゴンの協力は必要不可欠!だというのにこれでは先が思いやられるのだ!


 「ぐすっ……あのね?あの女酷いんだよ?余は宗十郎のためを思って忠告しようと思ってたのに……。」


 急いで追いかけたおかげもあってか、すぐにリリアンを捕まえることができた。宗十郎の姿を確認すると子供のように半泣きでべそをかいている。


 「いや伝え忘れていた拙者も悪かった。師匠のことならば既に知っている。だがその上で師匠は師匠なのだ。故にリリアン、お主が心配することはない。」

 「むぅ……ちがうし……ん?あの女はどこにいるの……?」

 「師匠か?急いで追いかけた故、先程のところにいると思うが……。」


 そう言うとリリアンは顔を綻ばせ、だらしない顔を浮かべる。


 「ふぅん、それってつまり、最終的にはあの女よりも余を選んだってことだよね?」

 「……?いやまぁ確かに今はリリアンが必要だからな。」


 ぐすぐすと泣いていたリリアンの表情がパッと変わり上機嫌になる。だが戻ろうとすると不機嫌になり袖を引っ張ってここから動こうとしない。仕方ないので、隣に座り込み、延々とリリアンのドラゴンの世間話に付き合った。

 宗十郎は思った、子供の世話とはこうも面倒なものなのだなと……父と母の偉大さに改めて感謝するのだった。


 「全員準備は良いか!本作戦はドラゴンたちの援護が最重要だ!魔法が使えるものは微力でもいい!ドラゴンたちの支えになるんだ!」


 イアソンが指揮をとる。魔法に長けているのはエルフ達であるが、元々強力なドラゴンにとっては防御魔法は意味をなさない。それでも微力ながら手伝うのだ。あの恐るべき兵器に立ち向かうために!


 「ふぁぁ~よく寝たでござる。おぉイアソン殿も気合入っているでござるなぁ、宗十郎はどこでござるか?昨日うった将棋の続きをしたいので候。」


 欠伸をしながら入ってきたのはハンゾー。緊張感の欠片もない態度だが忍び装束は身につけている。ニンジャエチケットである!


 「……ハンゾーさん。これより大事な作戦です。あなたは宗十郎と同じく船内で待機をお願いします。」

 「ははは、心配ご無用。それがし、戦は嫌いではない。ましてこの異国の船、テンション上がりまくりで夜も眠れないでござるぞ。気にしないでくだされ!」


 ハンゾーは船の甲板に座り外を眺める。そこから動くつもりはないようだ。

 イアソンは諦めて、部隊に指示を出し始める。


 作戦時刻。全員に緊張が高まる。

 イアソンの船、アルゴー号は浮遊し始める。そして上空で待機。


 「始めるぞ、これよりオルヴェリン第一次攻略作戦の開始だ!」


 その号令とともにドラゴン達は飛翔する。エルフたちのありったけの補助魔法を受けて!


 ───オルヴェリン中央庁。

 オズワルドはいつものようにコーヒーを飲んでいた。穏やかな朝。カーチェ率いる反乱軍という物騒な存在はあるが彼は気にもとめていない。彼女がどれだけ頑張ろうと、オルヴェリンの体制は盤石。巨像に立ち向かうアリのようなもの。


 「もう少し、賢明な女性だと思っていたのだがな。」


 残念なのはその点。催眠が通用しなかったのは仕方ないのだが、まさか反旗を翻すとは。彼女も人間なのだから分かるだろうに。今の繁栄は犠牲あってのこと。真に人の幸福を願うならば、多少の犠牲は目をつむるべきなのだ。


 「つっ……今朝は日差しが強いな。カーテンをしめるか。」


 席を立ち、窓に向かう。いつにもまして外が眩しい。まるで目眩ましを受けているかのようだった。


 「なんだ……あれ……。」


 ガシャンとコーヒーカップを落とす。オズワルドは驚愕した。信じられない光景。初めて見る光景。

 そう、外には、空を埋め尽くさんばかりの巨竜……ドラゴンたちがオルヴェリンに向かってきているのだ。


 オルヴェリンを取り囲む無数のドラゴン。恐ろしい光景だった。ドラゴンが人を襲うことは滅多にない。ましてや徒党を組むことなんてのは。

 ドラゴンたちの叫び声が響き渡る。常人ならそれだけで震え上がる。オルヴェリンの市民たちはたまらず家から飛び出し、次から次へと逃げ出していくのだ。目指すはオルヴェリン避難所!中央付近にあるノイマン設計のシェルターである!


 「ひょえぇ~すっげぇなあれ。あんなん見たの俺も初めてだわ。」


 圧巻。その一言だった。リュウはその様子にただ感嘆していた。


 「リュウ様!オルヴェリン市民たちはパニックです!このままでは暴徒が出る可能性も!」

 「落ち着けよ。そろそろ命令が下るはずだからよ~。」


 オルヴェリン中央庁から不気味な光が溢れる。

 我先にとパニックになっていた人々は大人しくなり、整列を組みだした。

 これもまた洗脳の効果。効率的に避難誘導ができる。


 「大方、狙いはドラゴンによる威嚇からの都市内をパニックにさせ、それに便乗させて侵入ってとこかぁ?クク、常套手段。洗脳って本当に便利だなぁ、なぁそこの兄ちゃん?」

 「はい……リュウ様……ご命令を……。」


 既にリュウの近くにいた伝令官は洗脳の効果により忠実な人形となっていた。本当に便利な装置だとリュウは感じた。戦争において危険なのは個人の暴走。だが洗脳装置ならばそれがなくなる。これは紛れもないチートだ。重火器なんてもんよりも、圧倒的に優位に立てる。


 「ノイマンの奴の兵器を使え。あの程度ならもう俺たちの脅威じゃねぇよ。あ~楽すぎんだろ戦争~俺の時代にノイマンみたいな奴いたらなぁ~!」


 ノイマンが発明した都市防衛装置の一つ。通称ホーネット。都市機構が変形しその姿を現す。そのシステムは自動機銃装置である。目標を狙い徹甲弾を発射する殺戮兵器。対空性能に特化しており、この襲来をノイマンは予見していたのだ。

 しかしドラゴンも馬鹿ではない。エルダードラゴンがいかにしてやられたか、宗十郎から種子島なる兵器の説明も受けた。ならば!そうやすやすとやられるわけにはいかないのだ!


 ついにオルヴェリンの城塞を飛び越えるドラゴンたち!そして同時にホーネットは機銃を連射する!弾丸の雨あられ!蜂の巣だ!


 「お?おお?」


 奇妙なことが起きている。ドラゴンの周囲に風の渦ができているのだ。ただの渦ではない。小さいが小型の台風のようで、それがホーネットの弾丸を逸らしているのだ。加えてこの閃光!明らかにおかしいと思ったが、理解できた!太陽が複数あるかのように見えたのは照明魔法だ!

 エルフの補助魔法でドラゴンを強化しても大した効果はない。故にイアソンは別ベクトルで支援することを指示したのだ。あるものは弾丸を避ける風の鎧を、あるものは狙いを惑わす閃光を。いずれも種子島に対する対抗策である!


 「おいおい、ノイマンちゃん。あんたの兵器効いてないじゃん!」


 リュウは嬉しそうに嘆いた。なぜ嬉しそうなのか。それは勿論次の策があるからである。

 ノイマンに渡されていた第二兵器。ただしこちらは金がかかるのでなるべく使いたくないという。


 「でも……使わないと負けるから仕方ないよねぇ!ノイマンちゃん!!ポチッとな。」


 リュウがボタンを押すと、また都市の一部が変形して兵器が出現する。ホーネットとは比較にならない多段変形。街に隠された武装が次々とあらわになっていくのだ。

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