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暗黒の狩人

 洞窟の中はじめじめと下水地味た雰囲気が漂っている。少しの悪臭。ゴブリンの体臭か糞尿か。カーチェはそんな匂いに少し顔をしかめる。

 だが駆け出す宗十郎は止まらない。走り走り走り、真っ直ぐにゴブリンを蹴散らしながら突き進む。無数のゴブリンなど話にならない、所詮はブシドーの前には月とスッポンなのだ!


 だがその快進撃も止まる。大型種。ゴブリンの亜種である。巨大なその姿はまさに神話の巨人を思わせる。大きさは即ち力!宗十郎も流石に足を止めて警戒する。

 そんな姿をゴブリンの大型種、所謂、巨大ゴブリンは不敵に笑い手に持った巨大ナタを振り回すのだ!人間など一撃で消し飛ぶほどの威力である!


 「戯け者がッ!ただ力に任せた攻撃などで、ブシドーが倒せると思うなッ!!」


 だがそこはやはり百戦錬磨の宗十郎にとっては問題など皆無であった。アイキスタイル!ブシドー殺法の一つであるその技は、相手の力を利用し叩きのめす妙技である。アイキの達人ともなれば、万のブシドーをも倒せるというが噂は定かではない!


 しかしそこで問題が生じる。足と背中に軽い痛み。振り向くと物陰に潜んでいたゴブリンの手によるものだった。奴らは卑劣にも物陰からブシドーの背中に弓矢を放ったのだ。


 「おのれ……ブシドーの風上にも置けぬ獣め、貴様らに明日は……ぬっ!!」


 どうしたことか、宗十郎は突然崩れ去る。ブシドーにおいて膝をつくというのはあってはならないことだ!敵を前にしてこの不覚、通常ではありえない事態が起きていることは間違いではない!


 「ど、どうしたんだ宗十郎……ま、まさかその傷……お前、防具を身につけていないのか!ゴブリンの武器には毒があるのだぞ!」


 カーチェは事態の危機を感じた。巨大ゴブリンこそは倒せたものの、宗十郎は毒に侵されてしまったのだ!解毒薬はない、自然治癒を待つしかないがこの敵地ど真ん中でこのような状態は非常に危険であるのは明白。

 好機と見て、迫りくるゴブリン!弱った相手を見て、棒立ちしているほど彼らは紳士的ではないのだ!


 「毒……?なるほどただの毒ならば……問題はない!!」


 宗十郎は巨大ゴブリンの持っていたナタを掴む。そして振り回した!ブシドーならば如何なる武器も使いこなすのが道理!その剣筋は巨大ゴブリンよりも遥かに様になっていた。ゴブリンたちはそのナタに引き裂かれ、絶命!ゴブリンとしての一生を終えたのだ。


 「む、無茶をするな宗十郎!戻るぞ、毒に侵されたお前の身体では……あっつ!」


 カーチェは奥に進まんとする宗十郎を引き止めるために肩に触れる。瞬間、とてつもなき体温!まるで焼き立てのパンのようだった!確か毒に侵されたものは高熱を発すると聞くがここまでとは思わなかったのだ。


 「ひどい高熱……早く休まないと駄目だ!」

 「問題ない!毒など我が祖国では日常茶飯事!井戸に毒を流し、飲料水全てが汚染されるなど常套手段よ!故にブシドーにはそれを打ち払う術がある。この高温はただの高温ではない。高められた拙者のブシドーソウルが燃え盛るように血液を沸騰させ、体内に入った毒を浄化したのだ。ブシドーならば誰もができること。はぁ!!」


 宗十郎が叫ぶと、熱波が吹き飛ぶ。まるで真夏の太陽のようだった!立ち上る陽炎!これぞブシドーソウル!トロピカルサマーのように、その熱気は大地を焦がすのだ!

 そして……ブシドーソウルを開放したということは……宗十郎の本気を意味する。久方ぶりだったのだ!外道相手とはいえ、毒を使う姑息な相手と戦うのは!これぞ戦場……これこそが戦い!ブシドーの立つ場所なのだ。


 洞窟の壁に触れる。そして宗十郎は体内で高まるブシドーを洞窟に叩き込んだ!

 洞窟内は瞬く間に宗十郎のブシドーに満たされ発光を始める。これぞブリリアントブシドー!光り輝くブシドーの輝きである!


 「えぇ……な、なんなのこれ……光魔法……?」

 「違う!ブシドーだ!これもまたブシドーの本懐!騎士というのは……このような技はないのか?」


 あるわけないだろう……カーチェは先を急ぐ宗十郎にそう内心思いながら、視界のよくなった洞窟内を駆け抜けた。


 ブリリアントブシドーにより視界がひらけた洞窟内は最早、単純明快!ブシドーにとっては赤子の手を撚るようなものであった。そしてたどり着く深奥、ゴブリンのボス、ボスゴブリンのいる部屋までたどり着く。

 見張りゴブリンを蹴散らし、宗十郎は名乗り上げたのだ。


 「我こそはオルヴェリンより来たり、千刃宗十郎!ゴブリンの対象首貰いに参上仕り次第!さぁさぁ誉れある戦いを臨みならば、いざ尋常に立ち会いしんぜよ!!」


 奥にいるゴブリン、大きさこそは先程相手にした巨大ゴブリンと比べるとそこまでのものではない。だが身にまとう装飾品の数々。それはまさしくこの洞窟の頭領であることを思わせるには十分な材料であった!

 そして何よりも、今もなお奴隷のように裸体の女性を首輪で繋ぎ、まるで家畜のように飼いならしているその様は、明らかに他のゴブリンと違っていたのだ!

 取り巻きのゴブリンたちは瞬殺された見張りゴブリンの無惨な死体を見てたじろぐ。だが流石はボスゴブリン、そんな様子を見ても冷静に、首輪で繋いだ女たちを自分の前に立たせ、その首筋に刃物を当てたのだ!


 下卑た笑みを浮かべ何やらゴブリン語で宗十郎に話しかける。宗十郎はゴブリン語の知識などはない。故に何がしたいのかさっぱり解らないのだ!

 だがカーチェは察した。これは人質であると。余計なことをすれば殺すということなのだ。


 「なるほど、まずはその女を倒して見せよということか!委細承知!!いざ参らん!!」

 「ちょ、ちょっとちょっと!何でそうなるんだ!」


 切り込もうとする宗十郎をカーチェは羽交い締めにする。一体どういうことなのか!?カーチェはこの土壇場で宗十郎を裏切り、ゴブリンの軍門に下ろうというのだろうか。


 「何をする離せ!敵は一騎打ちを申し出たというのだ!ならばそれに受けて立つのがブシドーとしての礼節!戦場においてのマナーである!」

 「どこをどう見たらそうなるのだ!?頭がおかしいのかお前は!?あれは人質だ!下手なことをすれば殺すということだ!」

 「人……質……?」


 改めて女たちを見据える。鎖に繋がれた彼女たちの目に光はなかった。自由意志を失っているように見える。無論、女間者のよく使う擬態の可能性も十二分にありえる。だがしかし、此度の彼女たちは裸体。武器を隠し持つのは不可能だ。だが素手でブシドーを殺害する術を持ったニンジャなど山ほどいる。武器の有無など関係がない。


 「ゴブリンの頭領よ!それは人質のつもりなのか!答えよ!!」


 ボスゴブリンの意図が理解できず宗十郎は尋ねる。だがボスゴブリンもまた人の言葉を理解できない。故に今までの人間とは明らかに違う態度をとっているこの男の真意を図り損ねていたのだ。


 「……どうにか言ったらどうなのだッ!!先程から意味の解らない言葉を喚くな!!言葉が交わせぬ獣畜生ならば……今ここで死ね!」


 カーチェの羽交い締めを振りほどき宗十郎はボスゴブリンへと直進した。

 だが目の前には人質となっている女性複数人!ボスゴブリンは突然激怒し叫びながら向かってくる男に思わず女の後ろへと隠れたのだ。これではボスゴブリンを斬ることが出来ない!そう誰もが思ったが、そこはブシドー、このような事態など想定済みであったのだ。


 「貴様がその気ならば、こちらも獣らしくいかせてもらうぞ、ボスゴブリンよ!」


 刀が鎖で繋がれた女性に届こうとするその瞬間、宗十郎は跳躍する。垂直跳びである。訓練されたブシドーであるならば、自分の数メートルの高さの塀を飛び越えることなど容易いことである!恐るべきはその瞬発力!完全に宗十郎に意識を集中させていたボスゴブリンからしてみれば、急に姿を消したようにしか見えないのだ!それほどまでに凄まじい加速度で飛び上がった。無論ただ飛び上がっただけではない。真なる目的は跳躍後、ボスゴブリンただ一人を仕留めることにある。

 突然消えた宗十郎を探しきょろきょろと周囲を見渡すボスゴブリン!だがもう既に時遅し!脳天に向けて宗十郎は拾った石を投げつける。


 投石とはブシドー、ニンジャ……誰であろうと平等に使う戦場の武装。弾切れを起こすことなく、狙い所さえ良ければ敵を死に至らしめる!無論ブシドーアローに比べると殺傷力では劣るが……その手軽さ、汎用性の高さから当然の如く身につけているタクティクスなのだ!


 ボスゴブリンの脳天に命中した投石は、その頭をかち割り、更に貫通、腹部より突き抜けた!こんな時の為に兜が必要だというのに、それを惜しんだボスゴブリンは戦いが始まる前に終わっていたのだ!

 ボスの死を契機としてゴブリンたちはどよめきだす。命乞い!最早、目の前の男には勝てぬと全面降伏を言い渡したのだ。

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