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天才の追放

 「ノイマン!ノイマンはいるか!」


 オルヴェリン中央庁に激震が走る。五代表たちは血相を変えてドタドタと騒ぎ立てていた。研究庁のドアを乱暴に開ける。


 「おや五代表どの。低能なのは知っているがマナーも知らないのか?良いか?人様の部屋に入るときはノックを二回……そう二回が大事なんだ。一回でも三回でもないぞ?」


 なにやら機械のようなものを弄くりながらノイマンは五代表に目もくれず研究に没頭する。


 「やかましい!!吉村の生命反応が消えた!あの小癪な小娘を討伐するために向かった軍隊は全滅だ!どうしてくれる!?」

 「ふむ……?どう……とは?お前たちのように顔を青くして慌てふためけば良いのかね?」

 「とぼけるなっ!我らオルヴェリン騎士団はお前の作った武器を信じて出撃したのだぞ!?それがこの様だ!!当然、お前には責任を取ってもらうぞ!?」


 顔を真っ赤にして五代表はノイマンを指差す。流石のノイマンも五代表の怒りぶりに呆れながらも姿勢を変え目を合わせる。


 「ふっ……議会で決定したぞノイマン。お前のような無能は追放だ!オルヴェリンに最早、お前のような金食うだけの無能はいらんのだ!大体、お前は何をしている?何かしていると思ったら役にも立たないおもちゃばかり。何もしない無能はいらんのだよ!」


 ───何を言っているのだこの老害は?

 ノイマンは目を丸くした。ノイマンがしたこと。それはオルヴェリンの建築技術の発展が第一にある。今でこそ立派な建物に巨大な城壁、水道下水は完備され電気まで通っているという都市文明だがノイマンが初めてここに来たときは酷いものだった。

 堀で魔物の侵入を防ぎ、家屋を石を積み重ねたものでコンクリートすらない。武器など治金技術がないのか、青銅製の武器がある程度。

 故にまずノイマンは都市の近代化を施した。そして次に食料の安定供給。窒素安定法と呼ばれる技術で無限食料を実現した。更に得意のコンピューターを発明、人の仕事を効率化……。

 天才と呼ばれた彼の知識をフル動員して今のオルヴェリンを作り上げたのだ。昨今では携帯電話、無線通信技術、オートマタの開発に力を入れている他、肥大化した都市維持システムの管理を統括しているのだ。

 正直なところ文明が一気に発展していく様はゲームみたいで面白かった。なので悔いがないと言えば嘘にはなるが。


 「追放!いやいやそれは残念。低能に無能と呼ばれるのは苛立ちますが、小学生の暴言に苛立つ大人はいません。ここは寛大な心で許しましょう!ですが、追放は少し待ってもらえますかな?」


 その言葉に五代表はニヤつく。このプライドの高い男が惨めに頭を下げるのを想像しているのだ。


 「聞こうじゃないか。何か未練でも?」

 「いいえまったく!ですが私は天才です!天才とは引き継ぎも華麗にするものです!お分かりですかな?私が突然いなくなればシステムの維持管理の後任が困るのです!後任に全ての尻拭いをさせるのはそれこそ無能そのもの!お分かりですかな!?」


 予想外の反応に五代表はたじろぐ。忘れていた。異郷者とはこういう連中だ。


 「それでそれで?後任は誰にするつもりですかな?やはりエミリーですかなぁ!?彼女は筋が良い!当然、天才の私には足元にも及びませんが彼女ならば最低限の……。」

 「後任はコビーだ。それも既に議会で決定している。」

 「コビー…………あぁ、あの媚びへつらいのコビーですか。あの無能が私の後任ですかぁ、これはこれは……。」

 「その無能にお前は追いやられるんだよ、来いコビー!」


 用意周到なのか五代表は声をかけると外で待機していたコビーが入ってきた。


 「コビー入ります!五代表様、いやいや流石の采配でございます。やはりオルヴェリンとは五代表様あってのもの!こんな訳のわからぬ異郷者に振り回されさぞ苦労したことでしょう!大体、彼らは口だけで無能そのもの!まったく大層な理屈を並べて言い訳ばかり……本当にこの都市を支えているのは五代表だというのに……おっと、すいませんノイマン所長ぉ……あぁ、今は元所長でしたっけ?バッジ……つけっぱなしだぞ?」


 コビーはノイマンの胸のバッジを奪い取る。オルヴェリン研究庁所長の立場を意味するものだ。


 「うーむ……やはり見るからに低能だ。知性は顔に出るというが本当だな……なんて頭の悪そうな顔なんだ……。」

 「ノイマンてめぇ!!」


 コビーは激怒しノイマンに掴みかかるが五代表に止められる。すると借りてきた猫のようにコビーは気味の悪い媚びへつらった笑みを浮かべ、ペコペコと頭を下げてノイマンから離れた。


 「それで?ノイマン、引き継ぎというのはどのくらいでできるのかな?」

 「安心したまえ!私は天才だからな!引き継ぎ先がどれだけ無能であろうとも完全な引き継ぎをする!それこそが天才というものよ!」

 「良いから早くどのくらいかかるか言えよノイマン!前々から思ってたが、てめぇのその周囲を見下したような言い回しはイライラするんだよ!!」

 「1年。」

 「は?」

 「1年で終わらせましょう!ふふ、これは中々腕がなる最後の仕事だ!題名はそう……猿でもできる都市運営!などどうでしょうか!?」


 1年という期間は長いように見えるが、ノイマンがしていることを考えれば当然である。都市運営のために必要な都市計画、これはつまり後の人口増減を考慮して開発区域を決定しなくてはならない。更に公共物の修繕。道路や街灯、上下水道に電気線の維持管理である。加えて浄水システムと下水処理システムの運用方針と適切な改善計画、修繕計画……あげればきりがない。本来であればそれは数百人規模で行われていることをノイマンは一人でこなしているのだ。それを1年で完全に引き継がせるというのは極めて異例!異常な早さ!だがそれを可能とするのがノイマンの天才性なのだ!!


 「ふざけんなこの無能野郎!大したことしてねぇのに1年だと!?お前の無能を棚に上げて人に迷惑かけるようなことをしてんじゃねぇ!!」


 当然、そんなことはコビーは何一つ理解していない!理解しているのは「何かよくわからないことをしている」ということだけだ!故にコビーは「よくわからないこと」というのを「なにもしていない」と変換し、ノイマンが大したことをしていないと高を括っているのだ!


 「騒がしいぞ、お前たち。またノイマンか……お前毎回、人を苛つかせるの何とかならないの?」

 「おお、これはエムナさん!私、苛つかせていましたか!?いやぁ申し訳ない。私は天才ですが、天才ゆえに人に妬まれがちなのです。おっと!天才なのだから人の気持ちも理解できるだろ?というのは無しですぞ!そんなこと言われたら……私、完全論破されてショックですからなぁ!」

 「エムナ!お前もお前だ!吉村が死んだ!どうするんだ!」


 五代表の怒りの矛先はエムナにも向かう。彼が吉村を行かせたのだから当然といえば当然である。


 「恐るべきはブシドーということだ。吉村の技量に加えデュラハンの生命力。まさかまさかあの不死の王を殺すことができるとは、ブシドーとはエクソシストか?」


 またもや他人事のようにエムナは語る。ジルが死んだときと同じように。


 「だが……最後に声を聞いたよ。吉村は満たされていた。ジルと同じだ。俺はね、本当に彼らのことが大好きだった。そんな彼らが死の間際で最後に救われたのならば、これほど喜ばしいことはない。」

 「何を感傷に浸ったようなことを言っているんだ!事態は緊迫と……。」

 「それよりもノイマン、今、研究開発中の兵器のことだが……。」


 五代表の言葉を遮りエムナはノイマンにいつもの調子で話しかける。


 「ああ、それでしたら中止です。しばらくは引き継ぎ作業というのもありますが、この無能にはあれの開発は無理でしょう。」

 「引き継ぎ?なんだお前、別部門に行くのか?今の職が適任と思ってたが……。」

 「いえいえ追放です!私、本日付けでオルヴェリンを追放されることになりました!」


 ノイマンの言葉にエムナは顔をしかめる。しばらく考えた様子を見せて五代表の方を見る。


 「追放権の行使は五代表の決定が必要だと記憶してたが、俺の記憶違いだったかな。」

 「いいや、あっている!当然だろう?そこのノイマンは銃器などという意味のない兵器を作り、いたずらに我が軍に損害を与えた!追放は温情だ!処刑でも良いくらいだ!」


 エムナは大きなため息をついた。完全に呆れた様子だった。


 「一つ聞くが、オルヴェリンの新卒兵はドラゴンを殺せるのか?」

 「……正気で言ってるのか?ドラゴンといえばこの世界で最上位の存在!新卒兵どころか並の騎士でも相手にならんわ!」

 「ノイマンの作った兵器は、ドラゴンを一撃で倒したよ。見てないの?」

 「な……!?」


 見ていなかったのか……エムナは呆れた様子を見せた。


 「決まりだな。ノイマンの追放は取り消しだ。というかドラゴン討伐もそうだがオルヴェンの都市機能の維持にはノイマンがいるだろ常識的に考えて。えーあい?とか言ったっけノイマン?あれの実装はまだ時間かかるんだろ?まったくやることが山ほどあるな……。」

 「いいや、駄目だエムナ。議会の決定は絶対だ。オルヴェリンが法治国家である以上、それは覆せない。」


 そう、ノイマンの追放は既に決定している。それを一個人の意見で覆すのは法の否定。即ちオルヴェリンの凋落に繋がりかねないのだ。故に五代表は引くわけにはいかなかった。


 「……当然、後任は決まっているのだよな?」


 エムナの言葉に待っていましたと言わんばかりにコビーが前に出た。


 「はい!私がそこのノイマンの後任に任命されましたコビーと申します!いやはや、噂には聞いていましたがあなたがエムナ様ですか!凛々しく壮健!まさにオルヴェリンの王とも呼べる御方!貴方様がいればオルヴェリンの繁栄は一生約束されたものでしょ……えっ、ちょなにを。」


 無言でエムナはコビーの頭部を掴む。突然の所作にコビーは媚びへつらった笑みを浮かべながらも困惑地味た反応を浮かべた。そして次の瞬間だった。


 グチャッ


 コビーの頭部は破裂した。即死、生命活動を停止したのは明白であった。エムナの信じられない握力で一瞬にして、まるでトマトのように潰れたのだ。五代表たちは青ざめた顔でその様子を見る。


 「後任は事故で死んでしまったので、都市法に基づき新後任を決めなくてはならないな。緊急議題だ。急げよ?ああ一応言っておくが、俺は新後任にノイマンを推薦しよう。それに基づきオルヴェリンの永住権が付与されるはずだろう。」


 暴論。だがエムナの言うとおり、死亡したことを事故として処理すれば確かに既存法で問題なくノイマンは今の職のままである。

 これがエムナ。傍若無人の振る舞いをしておきながら、嫌なところで理性的。言い返すことのできない五代表は渋々議場へと戻る。


 「ああ、残念だ。折角やりがいのある仕事だったと思ったのに。」

 「何でお前はそんな心底残念そうなの?ただ五代表の言うことは一理ある。お前の武器はドラゴンは殺せるがブシドーは殺せない。何か考えはあるか?」

 「ブシドー……正直言って解析していないものなので未知数です。故に天才の私ではありますが、良き案は……強力な個をぶつける以外ありませぬな。それもジルさんや吉村さんを超える……。」


 なぜ、軍隊が全滅したかは調査するが大方、ブシドーという意味不明なエネルギーにやられたのは自明の理だった。ノイマンもエムナ同様に見ていた。空に輝く二つの流れ星を。それはまさに天災規模。天才でも天災に敵うのは並大抵のことではないのだ。


 「天災のようなものだから天才でも難しい……天才なだけに。」


 ノイマンはそのフレーズが気に入ったのかそう呟いた。

 敢えてエムナはその発言をスルーして、研究開発中の兵器に話を戻したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヨシムラさんによって宗十郎から迷いが消えた! 武士道とブシドーの違いはあれど本質は同じだったから… 惜しい人ばかりを失う(;ω;) オルヴェリン側は一枚岩ではなさそう。 コビー、いかにも…
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