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武士道

 風切り音。今度は分かる。宗十郎は極限の戦いを通じ、ブシドーの緊張感はピークに達していた。掴み取る!紫電震え今にも破裂しそうなエネルギー!そう、これは矢である!そしてこのブシドーには当然覚えがあるのだ!!


 「邪魔をするな師匠!!これは最早戦争にあらず!!拙者と吉村の……男と男の死合いである!!」


 矢をへし折り宗十郎は吠えた!これ以上の横槍は入れさせぬ。吉村は、俺の手で決着をつけなくてはならない。そうでなくてはならないと、魂がブシドーが震えるのだ!


 「あぁ……あぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!謀反……不義理……!錦の御旗なんぞ掲げて……官軍のつもりかッ!!」


 組み込まれていく。周辺散らばる武装が吉村の手により再構築。生まれ変わるのだ。宗十郎は見た、吉村より伸びる触手の如く赤き糸を!あれに触れたものは、無機物、有機物関係なしに死したものであるならば、支配下に置かれるのだ!


 「違う!俺は官軍ではない!目をさますのだ吉村ッ!お主のブシドーはそうではない!復讐、妄執に囚われた剣がお主の本当の力ではないだろう!?」


 縮地、詰め寄り切り落とそうとサムライブレードを振るう!しかし忘れてはならない。デュラハンの因子を組み込まれようと吉村は武士なのだ!武士であるならば当然刀との鍔迫り合いは、本能で理解しているのだ!

 大業物といえどサムライブレードとは明らかに強度が違いすぎる。だが問題はなかった。既に再構築された武装は宗十郎をロックオンしている!そう!ドラゴンを葬った対戦車砲!改良型となりて零距離でミサイルとなりて宗十郎に向けて発射される!


 「くたばれ不義の者どもォ!!北辰一刀流!天砕きミサイル式!」

 「抜かせ吉村!かような飛び道具!ブシドーには無粋であるぞ!!」


 ブシドー展開!フルクロスとなったサムライブレードは宙を舞いミサイルを迎撃する!爆破!爆破!爆破!無数の爆煙で周囲が黒く染まる!しかし一流の武士に視界は不要。お互い、言葉もいらなかった。煙の中、刀と刀がぶつかりあう剣戟の音だけが響き渡る。


 肉が削がれ骨が斬られる。だがしかしその闘志は不滅。倒れるわけにはいかなかった。目の前の敵は息子の仇であり、不義理、不忠の大敵。尊皇攘夷などと大層な御託を並べ、反旗を翻したならず者たち。そこに武士道の欠片もない。

 男は血を流しながらも叫び、吠え、その技緩めることなく連撃を繰り出す。お互い深い煙の中だというのに、まるで何もないかのように刀と刀がぶつかりあうのだ。

 湧き上がる闘志の源流は全て家族のため。故郷くにで苦しむ我が嫁、息子、娘……飢餓、乞食のようには絶対にさせぬ。口減らしで自害などもってのほかだ。そのためならば、泥も啜ろう、指を差されて嘲笑われもしよう!


 「だから!俺は今ここで死ねないのだ!他ならあいつらのためにも!」


 此度、一番の剣筋がくうを走る。その一撃、黒煙を切り裂き潜む敵を露わにする!返しの太刀でその不埒物を断ち切ろうとしたときであった!その姿、まるで違うのだ!憎き攘夷派どもとはまるで違う格好!若者だ!日本刀を携えた若者だったのだ!


 「な……に!?」


 寸前で刀を止める。黒煙は晴れ渡り、周囲は荒れ地。江戸の街はなく、いるのは刀を持った若者一人。恐らくは息子と同じくらいの年頃だろうか。


 「正気に戻ったか吉村。道理である!ブシドーとは戰場でこそ真骨頂!刃散らすのであるならば、無粋な精神錯乱など消え失せるものだ。」


 斬り合うことでブシドーは流れ込む。それは魂の語り合い。雑念が入る余地などない。宗十郎のブシドーが、吉村の精神蝕む呪縛を解き放ったのだ!


 「これは……おらがしたのか。こげなこと……こげなおっかねぇことを……。」

 「左様。しかしてこれで終わりではないぞ吉村。お主もブシドーであるならば、分かるであろう。」


 宗十郎はブシドーフルクロスを解き、サムライブレードにブシドーを一点集中。まだ戦いは終わっていないのだ。


 「そうだ……そうだべさ宗十郎。おめが息子の仇でなかろと関係ない。大事なのは、おらがここに立っていて、おめはそちらに立っていることだ。」


 吉村もまた構えた。

 武士とは決して主君裏切るわけにはいかない。それは宗十郎とて同じこと。戦場で敵として出会ったのならば、いずれかが命落とすまで斬り合う。それが武士道なのだ。


 「だが、どうする宗十郎。この身、あの男に賜った力で死ぬことすら敵わぬ。逃げるのもまた、武士のとる道の一つ。」


 ───そう、宗十郎には吉村を殺す手段はない。首を刎ねようが死なない不死の王デュラハン。例え胴体を両断しても、生首を分割切断粉砕しようとも決して死なない。再生する。そういう理の存在なのだ。

 吉村の問いかけに宗十郎は無言で構える。それこそが答え。問答は不要。これより死合う者たちに余計な言葉は不要なのだ。


 「改めて名乗ろう。我が名は南部武士の吉村貫一郎。友より賜りし大和守安定と、南部と北辰の誇りかけてこの剣を振るおう。主ば名を名乗るが良い。」

 「我こそは千刃宗十郎。お主とは異なる世界の異なる理を持った異郷の武士。されどその心は同じ。」


 剣圧が空気を震わせる。二人だけの世界。


 「……宗十郎、死合う前にどうしても伝えたいことがある。お主は戦う理由がないと言ったな。その理由を探し求めていると。だが……本当にそうか?俺にはお主の戦う理由、しかと見えたぞ。」

 「それは駆け引きか、吉村。」

 「いいや、本心。本心だども。思い出せ宗十郎。お主の根っこの部分。何がために剣を振るってきたか。お主がこの世界で、やってきたことの意味を。お主の武士道はそこにある。誰のものでもない、誰かに与えられたものでもない。お主だけの、お主が見つけた武士道が。」


 迷える武士に、何かを伝えたかった。此れは童だ。帰り道を失い泣いている童。

 んなら、それを導いてやるのが、大人の務めだ。


 吉村に言われ思いを馳せる。初めてこの世界に来た時、無我夢中だった。殿を助けるために、我武者羅と戦い続けた。ゴブリンたちと出会った。カーチェと出会い、リンデと出会い、ファヴニールと戦い……。

 宗十郎から力が抜ける。何故、今になって気がついたのか。


 「気づいたか宗十郎、誰に押し付けられた教えかは知らね、だがそれは呪いだ。おめは最初からずっと、この世界で、おめの武士道に従って戦っていたんだ。そこにあるのは誰からの命令でもない。おめの心の内にある武士道。それに基づいて剣を振るってきた。それがおめの武士道だ。"何もない"なんて悲しいこと言うな宗十郎。おめは最初から、立派な武士として、この世界で戦い続けたんだ。」


 父と殿は言っていた。「お前にはやることがある」と。なぜあのような曖昧な言い方をしたのか。父も殿も、最初から、最初から分かっていたのだ。自分の心の内にあるブシドー。その生き方。力の使い方。分かっていたから、全てを信頼してそんな曖昧な言い方をしたのだ。最初からずっと、ずっとずっと父も殿も俺を信頼していた。理解していた。

 二人の愛を理解したとき、自然と頬に一筋の雫が伝っていた。


 「こら泣くな宗十郎。おめはこれから殺し合いをするんだ。それが武士のする表情だべか。」

 「……ああ、そのとおりだ吉村。俺には最初からあった。戦う理由が。当たり前のことすぎて気が付かなかっただけで、これが俺の答えなんだ。」


 涙を拭う。そうだ、俺はこの世界で剣を振るった理由に、何一つ殿の命令と関係がない。ただ、己が義に従い剣を振るっていた。その義とは即ち、武士道に他ならない。ブシドーではなく、武士もののふとしての道。

 あのゴブリンの巣で怯え嘆くものたちを救うために、闇に落ちた師の心を救うために、尊厳を侮辱され怒り悲しむアーカムの人々のために。

 そして今も、オルヴェリンの理不尽を嘆く人々のために、俺は剣を握り、この戦場に立っている。

 そこにあるのは唯一つの信念。守りたいと、救いたいと思ったから。ただそれだけだ。何もないなどと、そんな筈がないのだ。答えは既に得ていた。


 「宗十郎よ、お前にはこれから辛いことが待っているかも知れぬ。だが……決して忘れるな。お前の心にはいつも千刃の皆がいる。俺が、母さんが、兄弟が。例え心がいかな悪意に塗りつぶそうとしても、心の深奥は変えられぬ。ゆめゆめ忘れるな。宗十郎。」


 紅葉落ちる晩秋の時。父と交わした言葉思い出す。父の言葉の意味は理解できなかったが、今ならば分かる。

 ブシドーの本懐と武士道。例えいかなる闇夜に落ちようとも、その胸中には何人にも染まらぬ強き精神こころを持つ。それはブシドーの教え、父の教え。千刃の誇り。

 戦う理由などとうに知っていた。意識していなかっただけで、それは遥か昔から、ずっとずっと俺の心の内に根付いていたのだ。


 「我が心は静水の如し。一片の迷いなし。異郷のブシドー吉村よ。今一度、此度の死合い

受けて立とう。他でもない、我が義を通すために。」

 「異郷の武士、千刃の宗十郎。無論だ。無論だとも。武士と武士が戰場で出会ってしまった。ならば最早結論は一つでしかない。いざ尋常に……。」

 「「参る!!」」


 二度目の立ち合い。しかしそこに一切の不純物はない。ただ純粋なる命の煌きを灯し、二つの極星がぶつかり合うのだ!


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