表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/114

マコトの武士

 ───オルヴェリン中央庁、開発技術局。


 「ヨシムラが宗十郎と勝てるか?といえばそれは不可能だ。」

 「ほう、それは何故?」


 ノートにペンを走らせながら答えたノイマンに対して、エムナは興味深そうに尋ねた。


 「技量だけで言うならばヨシムラは確かに一級品。恐らくはあれを上回るものはそうはいない。しかし問題は武器です。刃のついた鉄の塊という原始的なもの。んん……あれでは勝てませんなぁ。」


 宗十郎とヨシムラの武器は形状こそは似ているが、まったく異なるもの。ヨシムラの持つ武器は日本刀と呼ばれる玉鋼を打って作り上げた剣。その練度こそは驚嘆、芸術品の類であるとノイマンは称賛の念を抱いている。


 だが!サムライブレードはまるで違うのだ。カメラでその様子を捉えただけで、あらゆる未知の構成だらけである。金属からして不明!コンピューターデバイスも一瞬ではあるが検知され、ナノマシンの集合体であることまでは確認がとれた。だがそこまでだ。現時点で解析は不可能。ノイマンの時代よりも遥か先の未来、オーバーバイオテクノロジーであることが明白である!

 即ち……原始人のもった棒と現代人のもった機関銃くらいの技術的レベルに差があるのだ。それでは無理だ。技量で埋めるには限度がある。ましてやお互い剣という近接で打ち合う性質のもの。ノイマンの天才的な分析力では、日本刀ではサムライブレードの一撃に耐えきれず、へし折られるだろう。


 「ですが、ご安心を!このノイマン。確かにサムライブレードと同等以上のものは作れません。ですが天才の矜持がある!此度はヨシムラのために、私が持つ材料力学、運動力学、化学的知識などなどを動員し、最高の武器を造り、さしあげましたですとも!」


 そう、だからといって諦めるノイマンではない!天才とは常に向上心をもつもの。たとえ今は敵わなくとも、いずれは届くために、常日頃から精進するのだ!


 「あのー……ノイマンさん……。」


 技術局の局員が申し訳無さそうに声をかける。


 「ん?何かなモブ。おお、そうですともエムナさん!これですこれ!これこそが私が造り上げた剣……決して欠けぬ剣……そうですね伝説になぞらえてアロンダイトと名付けた剣です!……いや!!なんでこれがここにあるんだ!!?」


 誇らしげにアロンダイトを握りしめ見せつけながら、ノイマンは事態のおかしさに気づいた!高速理解は天才にとって必要不可欠である!

 アロンダイトは一振りしか作っていないのだ、つまりそれがここにあるということは……。


 「ヨシムラさんから伝言です。『心遣いはありがでえども、拙者にはこれで十分だ。』と、いうことで……。」

 「十分じゃないからこの私が作ったのだろうがぁぁぁぁ!!凡夫凡夫凡夫凡夫凡夫!!天才の心遣いを無視するとは低能は度し難いにも限度があるぞ!!」


 ガシャン!という音が室内に響き渡る。

 ノイマンがアロンダイトを地面に叩きつけたのだ。勿論欠けたりなどはしない!アロンダイトが丈夫な証である。

 そんな様子をエムナは笑いながら見ていた。


 「エムナさん!笑い事ではないでしょう!ヨシムラは戦闘型異郷者!大事な戦力ですのに、これでは自殺したようなもの!天才的無駄死にですぞ!」

 「いやノイマン、ヨシムラはこのアロンダイトを見た上で不要だと言ったのだろう?ならそれで良いじゃないか。お前は天才だが戦いを知らない。百戦錬磨の手練であるヨシムラがそう考えたのだ。ならばそれを信用してもいいだろうさ。」

 「む、むう……理屈はわかりますが、天才故にサムライブレードやブシドーのような意味不明存在には万全を臨みたいものです。ですが!天才は起きたことをいつまでも後悔はしない!仕方ありませんな、ヨシムラさんは死んだことにしましょうとも!!」


 ───ノイマンの想定は正解だった。

 吉村は対峙して思い知る。宗十郎のもつサムライブレードの特異性を。

 あれは日本刀の形をしているだけで日本刀ではない。まったく別の武器。異形の得物。

 目を疑った。宗十郎が手にするのは、日本刀とも剣ともつかない奇妙な武器だった。それは銀色に輝き、まるで生きているかのように動いていた。吉村はその武器が何なのか知らなかったが、一目で恐ろしさを感じた。それは鎧武者を簡単に破り、血しぶきを上げさせるであろう。まともに受ければ折れ曲がる。いや、最悪砕け散るか。

 一振り一振りがまるで嵐のようだった。喰らえば吹き飛ぶ暴風。このような剣技をかつて見たことはない。


 宗十郎は初めての感覚に戸惑いを感じていた。まるで柳を相手しているようだった。いくらサムライブレードを叩きつけても、手応えがまるでない。躱され、いなされ、払われる。ブシドーの戦いには、バトルタクティクスには確かにこういう戦い方はある。だが聞くのと経験するのとでは雲泥の差なのだ!

 だが……そんなことよりも宗十郎の胸中には別の思惑があった。


 「何故、サムライブレードを使わぬ!拙者を半人前と愚弄するか!抜け!それが礼儀であろう!そのような模造品で何ができるというのだ!」


 馬鹿にされている気がした。明白なのだ。技量では明らかに相手のが上。だというのにここまで斬り合いが成立しているのはひとえに武器のおかげ、サムライブレードのおかげである。それが情けをかけられているようで、宗十郎にはたまらなく不愉快だったのだ!


 「サムライブレードなど知らねぇ!これは我が友がら賜った大業物・大和守安定、拙者が持づ最高の武器!!」

 「なに……!?では貴様はブシドーではないというのか!?」

 「武士道ではない?……そうだな。主君裏切り守銭奴と罵られ、銭欲しさに幾人も斬っだ。武士道とはとうにかけ離れたものでさ。そうさ、拙者は狗だ。だが……!」


 緩急つけさせぬ動き、その動き清流の如し。宗十郎の懐へと吉村は入りこんだ。


 「それでも!誇りは一度だりどで忘れながった!お上さ裏切るようなごどはしねぇ!士道さ背いだのはおめらの方だ!!」


 袈裟斬り。斜め一文字に宗十郎の肉体を大和守安定が引き裂く!屈強なブシドーの肉体であろうと日本刀の前では等しく断ち切られるのだ。

 本来であれば決着のついた一撃。血しぶき舞い上がる絶命の一撃。であるが、此度の相手は……吉村の知る侍ではないのだ。


 「ぐ……凄まじい切れ味……!サムライブレードでないというのに、ブシドーの肉体を切り裂くとは……。」

 「……おめ、なにもんだ?普通だら臓物さばら撒いでおっ死んでら。なんで、腹ば裂がれで平気さ顔してら?」

 「知れたこと!ブシドーはブシドーでしか倒せぬ!倒れるわけにはいかんのだ!ブシドーを体内に駆け巡らせ開いた傷を止血!縫合しただけのこと!!」

 「つまり、くぴたさ断ぢ切らねぁど死なねぇってごどさな……!」


 凄まじきはその執念!本来であるならばサムライブレードを持たぬ相手など、ブシドーにとっては紙切れ同然!魔法やあの黒い男のように特別な力も何一つ感じられない。ただ気迫と技量のみでこの吉村と名乗る男はブシドーと渡り合っているのだ!

 その一撃一撃は、重くのしかかる!ただの剣だというのにだ!

 気づけば防戦一方!叩き落とす余裕がないほどの連撃!サムライブレードではないが、日本刀と呼ばれる武装で、首を断ち切られれば流石のブシドーも死ぬのだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、レビューなどを頂けると作者の私は大変うれしいです。
更新報告用Twitterアカウントです。たまに作品の内容についても呟きます。
https://twitter.com/WHITEMoca_2
過去作品(完結済み)
追放令嬢は王の道を行く
メンヘラ転生
未来の記憶と謎のチートスキル


小説家になろう 勝手にランキング
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ