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異界邂逅、ブシドーと武士

 それはまるで旋風のようであった。

 銃器という強大な武器、当たれば確実に致命傷。ただ狙いを定めて引き金を引くだけの簡単な殺戮兵器。だというのに、当たらない、当たらない!弾丸は全てフェンを掠めることすらしないのだ!

 フェンはその高い知能と洞察力、そして数多の戦いの経験から騎士たちの持つ武器の性質を理解した。確かに当たれば致命傷。恐るべき兵器。


 宗十郎にとっても予想外だった。見事な立ち回り。騎士の動き全てを把握し、射線に入る前に移動し攻撃へと移る。まさしく獣の如くその立ち振舞、しかしその本質は極めて理性的な武に通じるものであった。


 騎士たちは若い人員で構成されている。それはリュウが下手に先入観があるベテランよりも、空っぽの若騎士の方が良いと判断したからだ。

 しかし此度はそれが悪い方向へと向いた。計算外なのはフェン単独の戦力。目で追いきれない早さ、不規則に動き回るその姿はまさしく狩人そのもの。およそ新人研修の教材にしては難易度が高すぎる相手。

 フェンは意識していなかったが、ドラゴンを落としたミサイルランチャーもフェンのような相手には不向きであった。照準を定める間に殺される。仮に定めたとしても距離が近すぎて爆発に巻き込まれる。

 加えて彼らは銃の扱いに慣れていない。おぼつかない仕草で撃ち続け弾切れを起こしリロード。そのタイミングも完全にフェンは把握し、その隙を逃さなかった。

 流石はコボルトの長、人類の叡智である銃器を前にして、一歩も引けを取らない戦いだった!


 ハンドサインの合図を送るものがいた。騎士たちが下がり、その男は前に出る。

 奴が指揮官───。フェンは吠える。慟哭する。だからそれでいて頭の中は驚くほどに冷静。今までで最高のコンディションだった。今、ここでこの男を殺せば、コボルト族の名誉は───。


 「絶剣、地流し。」


 その言葉を聞いた途端に身体が動かなくなった。いや、それよりも何故俺の視点はこんなに低いのだ。何故声を出せないのか。やめろ、俺を見下すな、オルヴェリンども、俺を、俺を───。


 フェンの首は既に胴体から離れていた。遅れて、胴体がどさりと地面に落ちる。

 一刀両断。フェンの動きを完全に見切り、流れるような動きでヨシムラはその首を刎ねたのだ。斬られたものが斬られたことを自覚することすらできないほどの絶技。


 宗十郎は信じられぬものを見た。

 フェンは決して弱くはなかった。宗十郎が想像していた以上に立派で強く、賢明で義に溢れた戦士だった。

 しかし、此度は相手が強すぎるのだ。認めたくなかった。その男は、その姿はまるで「摂津国の鬼神」「歌道の梟雄きょうゆう」「細川の狂犬」と呼ばれた我が師匠……細川幽斎の姿さえも彷彿させたのだ。


 「ブシドースタイル……!」


 そう、なによりも構え、技、立ち回り。その一連の流れはまさしくブシドーのサムライブレードタクティクスが一つであった。腰に携えているのはサムライブレードそのものであった!

 自分と同じブシドーがいたのだ。この世界に、師匠以外にも!


 「待て。」


 騎士たちが宗十郎に向けて突撃銃を構えるが、ヨシムラは手を上げてそれを静止させる。


 「北辰一刀流知ってらのが。」

 「……知らぬ。そのスタイル、北辰一刀流と呼ぶのか。」


 フェンの首を刎ねた一連の動き。淀みが何一つなく、無駄のない動きであった。まるで散歩するかのように自然な振る舞いで、首が刎ねられていたのだ。故にフェンは反応ができなかった。あまりにも、あまりにも攻撃とは思えぬ攻撃であったから。

 宗十郎の胸中に緊張が走る。既に臨戦態勢。果たしてこの傑物に自身のブシドーが通じるのか───。


 「まぁ良か、撃で。」


 放たれる無数の弾丸!その凶弾は宗十郎を狙い撃ち貫く!


 「はぁッッ!!」


 銃の発射音とともに鳴り響く金属音!宗十郎がサムライブレードを展開し弾丸全てを払い落としたのだ!これこそブシドータクティクスの一つ、無影むえい!サムライブレードをその剛力で振り回すことにより、ナノマシンが周囲に展開!空気の波動を一時的に作り出しあらゆる弾丸、弓矢、手裏剣の類を消し飛ばすのだ!

 驚嘆至極!神業とはまさにこのことである!ヨシムラはその人外じみた宗十郎の動きに唖然としたのだ!

 俺の知る侍の動きでは……断じてないと!


 「連装式種子島、初見ではない。師匠にはよく手足を縛られ見切りの極意の為にとしごかれたものよ。」


 騎士たちの使う武器は知っている。南蛮より伝来した兵器。火薬の爆発により発射された鉄の弾は人類の肉体を穿ち砕く。更にそれは改良が進められ、単発しか撃てなかったものが、連射式となり、小型化され……戦争へと使われたのだ。

 だが……だが……宗十郎の世界ではそこで進化が留まる。技術的限界……否!


 「心せよオルヴェリン。主らが持つ武器、拙者が知るそれと細かくは違うようではあるが……最早、骨董品よ!」


 宗十郎の言葉を無視し騎士たちは次の掃射を開始する!次は弾き落とされないよう、様々な角度から!しかし無意味である!彼らはブシドーの本質が見えていない、全ては無影により叩き落されるのだ!宗十郎の目には全て見えている、その弾丸全てが!

 師匠に縛り付けられ零距離で銃弾を何度も連発されたことを考えれば、この程度、蝿も止まる速さである!

 発射された弾丸を、ピンポイントに宗十郎はサムライブレードで突き刺した。何という動体視力か!そしてそれだけに留まらず!種子島とは、火薬の爆発により鉄の塊を発射する機構。即ち、その弾丸の軌跡には僅かながら、熱エネルギーが残留しているのだ!

 ブシドーとは己が魂の雄叫びだけにあらず。その本質は世界を知ることにある。くうをつかみ、天を謳う。これこそがブシドー!宗十郎の目には既に見えていた!放たれた弾丸全ての軌道に残留するその力のベクトルが!


 「喝ッッ!!」


 空中で弾丸が停止する!宗十郎を中心にブシドーが空間を響き渡り、弾丸のエネルギーをブシドーへと置換したのだ!そしてそのブシドーは銃弾の軌跡に逆流させ、突撃銃の銃口へと放たれる!爆裂!ブシドーを流し込まれた突撃銃は爆発四散!まるで夏の花火のように砕け散り華を咲かしたのだ!かつて師に教わった、対種子島対策ブシドー、その名を無影弧式むえいこしきである!


 そう……宗十郎の世界で種子島の進化が途絶えたのは決して技術的問題ではない、その世界にはブシドーが、ニンジャがいるのだ!訓練されたブシドー、ニンジャにとって種子島など子供の玩具にも等しいものなのである!細川の技に限った話ではない、最早基本カリキュラムとして一般ブシドーに様々な対策技が伝わっているのだ!


 「目的別に分けた種子島か。巨竜を落としたのは、拙者が脱獄した時に拙者の腹部を爆破したのと同じもの。戦術兵器としては確かに優れているようだ。だが……だが、ブシドーは既に、そのような次元はとうの昔に攻略済みであると知れ!!」


 銃器など不要。戦場の華はブシドー。ブシドーを極めしこそが全ての摂理。それが彼の生きてきた世界の常であるのだ!


 突然の突撃銃の暴発により腕が吹き飛ぶ騎士たち。ヨシムラは理解できなかった。意味がわからなかった。目の前の男のどこが侍なのだと。奇術師の類である。こんな武士がいてたまるか。

 騎士たちを下がらせる。奴に銃器は通用しない。敵は得体の知れない技を使い、戦い慣れている。


 「刃交わす前に、ちょっとええか。」


 サムライブレードを引き抜き上段に構えるヨシムラは問いかける。


 「おめ、蝦夷地での戦さ参加してらったのが。徳川様さ弓引ぐ蛮族ど一緒さ戦ってらったのが。」


 ───トクガワ。その名、決して忘れるはずもない。憎きトクガワ。我が主を追い詰めた大罪人。背筋が張り詰めるのを感じた。


 「トクガワは国乱す悪漢。拙者の、拙者らの敵である。」

 「……ほうか。やはり……そうなのだな……ッ!」


 濃縮される殺意。一目で分かった。この男は殺人剣の使い手。何度も何度も人を斬って斬って斬り伏せている。自分なんぞ半人前と比べるのもおこがましい達人ブシドー。その領域は、我が師、細川幽斎に及ぶか及ばぬか。


 「……我が名は千刃宗十郎。彩の国のブシドーである。名を名乗れ。まだ知らぬブシドーよ。」

 「拙者の名は吉村。吉村貫一郎。南部武士にして不撓不屈の志、此度は拙者の誇り……否!拙者の魂にかけて、宗十郎。お主はここで殺す……!!」

 「いざ尋常に……。」

 「勝負!!」


 二人は叫んだ。そして二振りのサムライブレードがぶつかり合う!火花散らし、二人の侍の魂が激突するのだ!


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