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五つの種族と束ねし王

 オルヴェリンより離れた原始林。各亜人たちの代表が集まり会議が始まった。議長はカーチェである。

 この世界にいる亜人は大きく分けて五つ。ゴブリン、エルフ、コボルト、フェアリー、ドワーフである。当然だが、いずれも人間とは敵対関係にある。


 「頭の固いエルフが協力しようなどと持ち帰るから来てみたんだが、なんだまさか他の亜人……まして人間と協力しようなどと恐れ入ったわい。」

 「こちらこそ偏屈なドワーフがまさか応じてくれるとは思わなかったです。」


 エルフの代表であるエルヴィスとドワーフの代表であるハルバージの間で火花が散る。エルフは耳が長く、金髪蒼眼。人間の目から見ても美しさを感じる。対してドワーフは筋肉隆々でがっしりとした体つき。だが衛生観念が低いのか薄汚れていて少し匂い、皆が多種多様なヒゲを生やしている。相互、仲が悪いのは知っていたがここまでとは思わなくてカーチェは頭を抱える。


 「俺としてはゴブリンが人間と協力することに驚きだねぇ。何を企んでやがる?」

 「私個人としては人間というより宗十郎に協力しているだけです。コボルトの皆さんは……特に深い考えは無さそうですね。」

 「おうよ!気に入らねぇ人間どもを皆殺しにできるなら何でも良いぜ!!」


 意気揚々と物騒な言い回しをするのはコボルトの代表であるフェン。そしてゴブリンの代表はリンデである。

 コボルトとゴブリンはエルフやドワーフと違い人間と大きく外見が異なる。ゴブリンはそれでも比較的人間には近い……背丈の低い子鬼のような外観をしていてその全てが男性という特異な性質を持つ。リンデという例外を除いて。

 一方コボルトに至っては完全に犬である。二足歩行する犬。ゴブリン同様、人の言葉を発しないが意思疎通はできるし、フェンは例外のようである。だがそれでも毛皮に包まれた体躯に犬耳と犬歯、そして鼻をひくつかせ舌を出しているのだ。紛うこと無く犬である。


 「もうほんと無理……犬面はガサツで乱暴で……カーチェだっけ?私たちフェアリーは勿論、あなた達、人間との協力は大歓迎!オルヴェリンの人から私たちにアプローチしてくれるなんて嬉しいな。」


 そして最後にフェアリーの代表であるルルである。小さな愛くるしい外見、半透明の羽根。人形のような姿をしている。彼ら、それとも彼女ら?は他の種族と違い更に身体が小さく、手のひらに乗れるようなサイズだ。


 以上がオルヴェリン亜人五種族の特徴。そして代表たちである。彼ら代表五人が今、一つの目的のために集い会議を始めるのだ!

 会議の題目は部隊の編成や各種族の戦力、役割の再確認や駐屯地、兵站など様々なことを考えていた……つもりだった。


 「良いから早くオルヴェリンに行こうぜ!こんだけいれば余裕だろ!」

 「わしらドワーフの装備をこいつらに提供しろだ?ふざけたこと言うんじゃねぇよ!」

 「とりあえずコボルトとドワーフは毎日水浴びすることを提案します、臭くてたまらない。」

 「ねぇカーチェ?……二人でこっそり抜け出さない?良いところがあるんだ……?」


 深い溜息をついた。これが彼らが団結しようにもしない理由である。あまりにもあくが強すぎて、まとまる気配がないのだ。リンデは慣れた様子でやれやれと冷めた目で他の種族達を見ていた。


 「最悪、こいつら囮にして見捨てても良いんじゃないです?」

 「いくらゴブリンの数が多いからってそれは無謀だ……。」


 リンデの半ば諦めたような愚痴に同意しそうな自分が怖い。

 そんなグダグダとした空気の中、突然会議室の扉が空いた。


 「カーチェ、作戦会議をするならば何故言わないのだ。俺はともかく師匠は軍略を学んでいる。会議に混ぜるべきであろう。此度は師匠の代わりに俺が来たが……。」


 突然の来訪者に一同の視線が集中する。特に熱い視線を送っているのはフェアリーのルルである。


 「わぁ、凄い逞しい人!これが噂の異郷者?これならたくさん……。」


 席から離れその羽で宗十郎の周りをくるくると飛び回る。


 「ルル、宗十郎から離れて。」

 「あれれ、リンデちゃん怒ってるの?ああ……お前はメスゴブリンだからか。ダメだよこういうのは早いもの勝ち……美味しそうなのを目の前にして黙ってるなんてできるわけないじゃん。」


 宗十郎の登場で一旦、会議室は静まり返ったがまた先程のような雑談が始まった。


 「なるほどな……カーチェ、連中はずっとこの調子なのか?」

 「恥ずかしながらそのとおりだ。リンデは囮に使うのも手とは言ったがそれはあまりにも……。」

 「ちょっと、告げ口ですかカーチェ?違うんですよ宗十郎、これは言葉のあやで。」

 「いや、それはありだな。」


 思わぬ言葉にカーチェは一瞬頭が真っ白になった。今何と言ったのか。もう一度、確認するように尋ねる。


 「囮も一つの策だ。無論全てではない。士気の緩んだ現実が見えていない指揮官など殺すのが一番なのだが、それが無理ならば、現実を理解してもらうしかないのだ。おい、そこの者よ!こぼるとと言ったか!」


 フェンが振り向く。先程から攻めよう攻めようと意気揚々に語っている。


 「そんなに戦場に出たいのならば、まずは主らが先陣を切るのはどうだ?亜人連合軍の先発突撃隊。誉のある努めよ。」


 ブシドーにおいて先発隊の役割は大きい。無数のニンジャやブシドー……どういった者たちがいるのか、命を賭して仲間たちに伝えるのだ。故に誉のある役割とされ、生還者には栄光と名誉、尊敬の眼差しが。死者には立派な勇士として、その名を残すのだ。

 つまるところ宗十郎にとって囮という言葉はネガティブなものではない。むしろ誉れある役割を買って出るのなら望むところなのだ!


 「おう、何だお前話が分かるじゃねぇか!そうだよこれだけいれば負けるはずねぇんだ!じゃあ早速、オルヴェリンに行くぞお前ら!」

 「いや、向かうのはオルヴェリンではない。まず攻めるのは外郭部……オルヴェリン周辺に作られた集落だ。そうであるなカーチェ?」

 「あ、あぁそうだ!しかし宗十郎は先陣と言ったが殺し合いをするのではない、それを胸に刻んでくれ!」


 集落ではオルヴェリンの永住権を持たないものたちが暮らしている。ただし攻めるのではない。彼らは少なからず不満を抱えている。そんな彼らを味方につけて、前線基地とするのが目的なのである。

 会議はようやくマトモに進み始め、集落での計画について話が進んだ。元々連合軍設立の発端となったエルフについては事前に話は済ませており、エルフは比較的人間と交流を結べることもあってか集落への根回しも済んでいるのだ。

 そして連合軍を作るにあたって約束したこと。それは人間に可能な限り手を出さないことである。かつてのように対等な関係であること。その点について五種族とも表向きは同意をした……筈なのだが。


 「宗十郎、カーチェ、ちょっと良いですか。」


 会議が終わり解散したあとにリンデが二人を呼び止めた。先程の会議で疑念が確信に変わったからである。即ち、連合軍の脆さ。空中分解しそうな危うさである。その中でもとびきりの爆弾があるのだ。


 「フェアリーたちは裏切りますよ。」


 リンデはそう断言する。

 彼らのことはよく知っている。それが宗十郎にとっての毒となるのであるならば、露払いをするのが未来の妻の務めだと思ったからである。

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