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異郷の武士

 ───オルヴェリン中央庁。玉座の間。ジルが破れ、ハンゾーの生け捕りに失敗の報をエムナは受けていた。そして亜人たちが妙な動きを見せているということに。


 「エムナ、いよいよ恐れていたことが始まった。あの女……カーチェを中心に亜人たちが団結をし始めている。近々始まるぞ。人類と亜人の戦争が。」


 五代表たちは震えていた。戦力でいえば人類は圧倒的である。そこに間違いはない。だが戦争とは民衆の不満を招くもの。自分たちの立場を脅かすものでもあるのだ。


 「いや遅くない?あいつらようやく種族の垣根を超えて団結を始めたのか。どんだけポンコツなんだよ。共通の敵に対し一致団結する知能もないのか。」


 そんな状況でありながら、エムナはまるで世間話をするかのように、飄々と口にした。


 「亜人どもは知能が劣る劣等人種どもだ。だがだからこそ……そんな連中が団結するという事態はまずい。これはお前が招いたことだぞエムナ!」


 ヘラヘラと今の状況を楽しむような態度を見せるエムナに、業を煮やした五代表は咎めるように非難の声をあげた。


 「だとさ、そんなにまずい事態か?」


 エムナはリュウと呼ばれる老人に視線を向けて、分かりきっているのかニヤつきながら尋ねた。


 「いいや、まったく?そもそも亜人たちが今まで団結をしなかったのは圧倒的カリスマを持ったリーダーがいなかったに過ぎねぇ。それがようやく団結したからって今度は集団戦のいろはも知らない素人集団。大人が子供と知恵比べで負けるかぁ?おんなじことよ。五代表さんよ。あんたら素人は黙って俺たちの言う事聞いてりゃ良いんだよ。クク……戦争!久しぶりだ、やっぱりさぁ、こういうのが一番わかり易い。まつりごとなんてクソ食らえだ。人の本質は闘争にこそ現れる。」


 「あっはっは、リュウが言うと説得力あるなぁ。俺、やっぱリュウのこと好きだわー、救いようがなくて、なのに有能で。」

 「悠長なことを言ってる場合か!なら急いで軍隊を組織しろ!迎撃の準備だ!作戦行動をとり戦争だ!」


 肩を震わせついに怒りの感情を露わにする。異郷者の考えは理解できない。それでも連中の力は絶大。オルヴェリンの基礎を作り出した超人達に他ならないのだ。


 「そうだ、宗十郎には我が魔法騎士団が有効だったと聞く!魔導部隊を強化し編成を組み直せば……!」

 「あーダメだよ五代表さん。あれは一発ネタ。宗十郎……ブシドーってのはまーじでいまいちわかんねぇんだけどさぁ……"ブシ"ってのは四六時中、戦争ばかりしてんだろ?だったろもう宗十郎には魔法騎士団はあんま意味ねぇだろ……なぁヨシムラちゃん?あんたの知るブシってのはそういう人種なんだろう?」


 建物の影から現れる侍が一人。ヨシムラと呼ばれる異郷者。ずっとそこで聞いていたのだ。気配一つ立てず。


 「前も言ったが、あっしの知る武士ど宗十郎は合致しねぁー。んだがら別物だよ。でもま……確がに根底は同じ。武士だら確がに同じ手は通じねぁーごった。」

 「なるほど、ブシに同じ手は通じない……それならばブシ同士ならばどうなのだ?」

 「武士ど武士の闘いに二度目はねぁー。どぢらががぐだばるまで闘い続げるのみ。それが武士道であり、戦の本質。ああ、エムナさん。おめの肚読めでしまったよ。あっしに行げど言うんだな?あのおっかねえ武士ど斬り合えど言うんだな。」


 エムナは微笑む。慈悲に満ちた表情だった。


 「ヨシムラ。俺は無理強いはしない。お前がどういう経緯でここに来たのかも知っているからな。俺はお前のこともまた好きだよ。愛のために、義のために生きたお前の姿はまさしく人の陽の部分。だからこそ……お前には自分の頭で決めて欲しい。」


 立ち上がり、ヨシムラにそっとエムナは耳打ちをした。

 瞬間、この空間を闇で染まる。

 リュウは真顔となって腰の剣に手をかける。五代表は情けない悲鳴をあげる。

 まるで火薬庫。少しでも刺激を与えれば大爆発を引き起こしかねない緊張感。殺気が、玉座の間を埋め尽くした。その気配は中央庁から溢れ出し、外にまで漏れ出す。鳥は生命の危機を感じ羽ばたき、童は泣きわめく。何も知らないものたちは理解不能の恐怖感に頭をやられ、パニックに陥った。

 そのどす黒い殺気の中心には、ヨシムラがいた。


 「あんの犬の糞にも劣るあめれ外道がいるどいうのが。」


 その目には、強い殺意。怒りの炎。深淵の憎悪。


 「おいリュウ、部隊の編成頼んでたと思うけどどんな感じよ?」

 「お!?お、おう……良さげなの見繕って編成はしてるぜ。」

 「だとよヨシムラ、リュウが編成した部隊引き連れて行ってこいよ。一人じゃあ宗十郎と話をするのも難しいかもよ?」

 「良がるべ。もしもおめの言うどおりだら……鏖殺おうさつだ。糞袋ぶぢ撒げで血祭りにしてける。覚悟せよ。」


 ヨシムラは立ち去っていった。その凄まじい獣のような殺意を背負って。

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