魔女殺しの騎士
「て、敵襲だ!全員構えろ!!」
エルフたちはようやく事態を把握する。目の前にいる鎧騎士と老人。明らかな敵意に気づいた彼らは、弓矢を構え解き放つ!
エルフの弓術は並みの弓術ではない。黒曜石の矢じりにエルフ独自の魔術刻印、そして魔術を込めた一撃なのだ。その一撃はもはや対戦車ライフルに相当する。鎧など簡単に貫き破壊し、人体など爆発四散する威力なのだ!
そんな矢が無数に鎧騎士へと放たれた!もはや塵芥になることは必須!誰もがそう思っていた。鎧騎士は躱そうとしない。否、躱せないのだ。音速に等しい無数の矢を躱すのは不可能!
「何だこれは、飴細工か?児戯ならは童とするがいい耳長族ども。かような一撃、騎士の心には届かぬと知れ。」
突き刺さった矢は鎧に刺さりはしたがそれだけであった。矢を掴みへし折る。一本一本がエルフの魔術刻印で鋼鉄を遥かに超えた強度だというのに。
「子供を連れて逃げろ!!ここは某一人で相手致す!!」
ハンゾーは敵の戦力を瞬時に理解した。エルフたちは勝てない。それはエルフの力量不足ではない。單純な相性バトルなのだ。
「逃がすとでも?」
鎧騎士はポールアクスを逃げようとするエルフへと振り下ろす!その凶刃がエルフに直撃する寸前で止められた。ハンゾーである!ハンゾーが身の丈ほどある巨大なポールアクスを小さなニンジャナイフで支えているのだ!
「いけっ!!某のことは気にするな!!」
ニンジュツ、爆破微塵。鎧騎士に向けて爆薬を放つ。これは物理的現象、即ち直撃は免れない!
「ほう、理解が早いなハンゾー。」
鎧騎士は爆撃を受けて不敵に笑う。
「自己紹介は不要であるようだな。では貴様は何者だ。名乗る名前くらいは持ち合わせているのだろう。」
少しでも時間を稼ぐためにハンゾーはそう尋ねる。意外にも鎧騎士はそれに応じ、ポールアクスを一度収めた・
「俺はオルヴェリンが神聖五星騎士の一人。そしてこの世界に伝来した異郷者。名をジル・ド・レェ。人は俺を魔女殺しと呼ぶ。」
ブシドーとは異なる価値観を持つ異世界の騎士。神聖五星騎士とはオルヴェリンに忠誠を誓った、恐るべし五人の騎士達である。
再びポールアクスを構えたジルは瞬間的に加速、しかしハンゾーこれに負けじと護符を展開する!火炎、氷結、雷撃、呪術の類!ニンジャにおける基本ニンジュツである!その一撃まさしく劣化の如し!キバソルジャーですら怯むその比類なき一撃一つ一つは確実に相手の動きを止めるのだ。
だがジルはそれを避けようともしなかった。術の性質を理解していないのか、否。必要がなかったからである!そのまま直進し、ハンゾーのニンジュツは直撃するが物ともせず、突き進み、そしてポールアクスをそのまま突き上げたのだ!
そのあまりの猪突猛進ぶりに思わず怯むが、身体を翻し何とか回避する。その圧力、まさしく魔猪である!
「随分と無茶苦茶を……いやお主もしや。」
「気づいたか。俺の肉体に術の類は通用しない。この肉体全てがあらゆる術を無効にする。そういう理で出来ているのだ。故に魔女殺し。かつて数多の魔女を、我が祖国の威光貶めんとする、売女どもをこの槍で串刺しにし、引き裂いてきたものだ。」
言葉とは裏腹に怒りに満ちた表情で歯ぎしりを鳴らす。
ハンゾーはニンジャブレードを構えた。術の類が通用しない。それは強弱に関係ないのだろう。かのセーメーの術ですらこの男には通用しない。そういう"理"なのだ。
だが……そのような妖はいなかったのかと言われるとそうでもない。セーメーは術の効かない妖に対しての対抗策も編み出しており、それはハンゾーたちのいた現代にも伝わっているのだ。
「ニンジュツ、木遁!大樹林!!」
ハンゾーは地面にニンジャブレードを突き刺した。ニンジャブレードを介して術式展開。周囲の森はざわめきだし、まるで意思をもったかのように動き出す。そう術を使いものを操り、それを手駒として敵を倒す。術が効かない相手ならば、間接的に叩けばいいのだ。
樹木の怪物たちが触手のように根、枝を伸ばし、ジルへと襲いかかる。四方八方から来るその攻撃は回避不可!絶体絶命とはこのことである!
「温い。茶番のつもりか異郷者よ。」
片手でポールアクスを振り回す。その一振りで樹木は吹き飛んだ。まるで草原を薙ぎ払うかのように、樹木は吹き飛ばされるのだ!
圧倒的膂力。ブシドーに匹敵する天性の肉体。小手先の技は一切通じない。この男を倒すには、真っ向勝負しかないと確信した。
「やれやれ……ニンジャとは本来隠密するもの、正面突破など向いてはいないのだがな。」
「難儀だな。安心しろ、命までは奪わん。貴様は城に連れ帰るのだからな。」
───どういう意味だ。ジルが何気なしに触れた言葉。
目的はエルフたちではなく、自分であったというのか。何のために?
「ばっか、ジル~、それ今言うんじゃねぇよ。生け捕りにしてから言わねぇと、そいつ殺されないと高を括るぞぉ?」
老人がジルを咎める。馬鹿な、奴は確実に急所を狙い殺したはず。何故、生きている。何故平気で声をあげることができるのだろう。
異郷者。理外のものたち。なるほど、世界の常識の通じぬ相手。それぞれが隠し玉を持っているのだ。自分にとってのニンジュツ、宗十郎にとってのブシドー……。
「はぁ~まぁしょうがねぇか。おーいハンゾーちゃん。逃げんなよ?お前は我らに捕まるしか道はねぇんだよ。もし逃げたら……この森を焼き払っちゃうよ?」
目的が自分ならば逃走するという手はあった。だがその逃げ道は老人によって潰される。森に火を放つ。平然とあの老人はするであろう。ジルはそれを平然と認めるどころか、協力しこの森を集落を壊滅的になるまで、見せしめのように破壊し尽くすであろう。
連中は、そういう人種だ。目的の為ならば手段をとらない。勝利唯一つを至上とする完全なりプロフェッショナル。
本来ハンゾーには関係のないことだ。エルフの森を燃やしたければ勝手にすればいい……。だが!受けた義理を返さずしてこの危機を見逃すなどできるはずがないのだ!
「一つ間違っている点があるぞ老人。某に与えられた選択肢はもう一つ。お主らをこの場で皆殺しにすることで候!」
ニンジュツを攻撃から補助展開に変更。ニンジャブレードに護符を展開し、ジェットバーニアを装着。また身体関節部に身体強化及び、活性酵素を取り回した。
いうならばニンジャ・白兵戦スタイルである。その力はブシドーにも比肩するのだ!
「いざ、参る!」
空中走法により宙を自由自在に駆け巡る。更にシルエットミラージュを活用し数百体に分身するのだ!無論、これを攻撃に転じるわけではない、あくまで目眩ましである!
背中に展開した大型ニンジュツバックパックのバーニア展開により慣性の法則を無視し、空中で加速し、一撃をジルに叩きつけるのだ!ジルは上空のハンゾーを見上げることはない、無数のハンゾーの分身にどれが本体か計りかねているのだ!
「そこか。」
一撃入るその刹那!ジルのポールアクスがハンゾーに襲いかかる。それは数コンマの動きであった。人間の反射神経を遥かに超えたその動きは人外じみていた。
即座にハンゾーは身体を翻し回避行動に移るが、間に合わない。そのポールアクスがハンゾーへと突き刺さる!
「ば、馬鹿な……ありえぬ。今の動き……人を凌駕している。確かに某の動き、捉えていなかったはず……。」
重症であった。ジルのポールアクスは確実にハンゾーの腹部を貫いていたのだ。距離をとったものの出血は止まらない。
「知れたこと。いくら小細工を弄しようが、最後にトドメを刺してくるのは本体であることが道理。そこを狙えば、誰にでも対応は可能だ。」
いいや、ありえない。ハンゾーの動きはマッハを超えていた。認識したところで反射できる神経の限界を超えている。
考えうるはジルの隠し玉である。術が通用しない天性の肉体はカモフラージュ。ただの副産物であり、本来の性質は別にあるのだ。
───ぬかった。敵の本質を見誤ったのだ。天地返しによりニンジャエナジーを著しく消費した上に、エルフたちの避難のため……早期決着を目論んでいたが甘かったのだ。
「安心しろ。殺すつもりはない、と。だが我らに必要なのは会話能力のみ。その小賢しい手足はもいで構わんなリュウ?」
「あーあー構わんよ?でも失血性ショックには気をつけろよー?あれで結構死ぬんだわ。麻酔とかないしな。」
歩み詰め寄るジル。逃走の余力は……ある。だがそれは許されない。恩義あるエルフたちの集落をこれ以上、荒らされるわけにはいかない。ならば四肢を失うこと……受け入れるしかない。虜囚になるのも仕方あるまい。ニンジャとは、敵対組織に捕まることは多々ある。そこから如何にして脱出するか、あるいは秘密漏らさず自害するか。訓練により常日頃から心がけているのだ。
「……!は、なるほど。いやいやまだ某にも目はあるか。」
負傷した腹部を抑えハンゾーは立ち上がる。ジルは足を止めた。何かまだあるのかと考えたのだ。
「ぐはっ……なぁにそう身構えるなジルよ。ニンジャとは……お主らと違い……正々堂々雌雄を決することだけが本懐ではないというだけだ。」
展開されるニンジュツ。ジルは警戒する。紋様のように浮かび上がるそれはハンゾーの周囲を取り囲み、そして大空へと舞い上がった!そして大きな炸裂音!パァン!という音が森に響き渡ったのだ!
「……なんのつもりだ?音を鳴らしただけで……なるほど。」
ジルは森の奥を見据える。ハンゾーの意図を遅れて理解したのだ。





