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エルフを狩る者

 ボロボロのエルフの手を握りしめる。縋り付くように、救いを求めるように伸ばした手を優しく包み込んだ。


 「安心しろ。場所はどこだ。俺が今すぐ向かう。」


 迷うこと無くイアソンは前に出て傷ついたエルフの助けに応じた。

 エルフたちは困惑していた。自分たちのために命をかける人間がいるということに。そして恥じていた。本来なら同胞である自分たちが真っ先に名乗りあげなくてはならないというのに、命おしさに声をあげなかったことに。


 「宗十郎……お前たちも付き合ってくれないか。」


 イアソンの言葉に宗十郎は思いとどまる。今まで主君の為に行動をしてきた。だが今の自分は主君なきブシドー。自分のとる選択は果たして正しいのか、分からなかった。

 肩に手が置かれる。幽斎だった。


 「シュウ、思い悩む必要はない。己が誉れに従えばいいのだ。何が正しいのかではない。何をすべきか……である。正しさとは曖昧なもの。それでも敢えて正しきブシドーを定義するのであれば、それは誉れである。」

 「師匠……すみませぬ。拙者の我儘に付き合ってもらえないでしょうか。」

 「今更、何を言うか。弟子を導くのも師の務め。」


 サムライブレードを手に取る。そして顔を上げた。そこには一片の曇りなき。静謐の如く。


 ───時間遡り、エルフの集落。"悪魔"に襲われる前、平和そのものな村に一人の老人がいた。老人が気さくに挨拶をすると門番のエルフは思わず挨拶を返す。誰かの知り合いだろうか。そう思わせるくらいにあまりにも自然に、邪気を感じさせない姿だった。


 その村では昼間であるにも関わらず祭り事のように宴会が始まった。誰のための宴会なのか誰一人理解せず、誰もが気持ちよく飲み食いして歌っていたのだ。


 「いや爺さんおもしれぇな、ほらもっと飲めって。」

 「おう、これは悪いね……へへ、酒ってのはどの世界でも変わりねぇ。」


 エルフが上機嫌に老人に酒を勧める。老人はそれを人懐こい笑顔で受け取ると一気に飲み干した。老人の周りにはエルフたちが集まっている。初対面だというのに、まるで旧知の間柄のように、仲良くなっていたのだ。


 「よぅしそれじゃあここらでもう一発、芸でも見せてやるかぁ!」


 宴会の場を曲芸師のように盛り上げる。老人の一挙一動にエルフたちはどっと笑い出すのだ。

 そんな時間があっという間に過ぎて、宴もたけなわ。名残惜しいが備蓄食料が底を尽きてはならないので村の代表者が締めくくろうとしていた。


 「馬鹿いっちゃいけねぇよ。食料がなくなると不味い?見ろよ皆を!まだまだ宴はこれからじゃねぇか!」


 老人は大げさに手を広げ表現する。それに同調するようにエルフたちも不満の声をあげた。


 「いやしかしですね……森の恵みは限りあるもの。いたずらに消費することは掟に背くだけでなく、我々の将来にも関係あることなのです……。」


 困ったように村の代表者は答える。しかしエルフの若い衆は納得がいかない様子だった。


 「爺さんらはいつもこうだ!掟だの将来だの!太く短く!細かいことをぐちぐち考えてたら人生面白くないじゃないか!」


 そーだそーだと騒ぎ始めた。呆れ半分で村の代表者は若者たちを見据える。少し喝を入れないと駄目かと思い口を開こうとした時だった。


 「いやいや、まったく若いもんは分かってる。そのとおりだよ。どうせお前たちは今日終わるのだから、最後の晩餐くらい派手にしてもいいじゃねぇか。」


 老人は変わらぬ様子でそう答えた。

 その時である。若いものたちが苦しみだす。顔は青ざめ喉を抑え、口から泡が吹き出ている。


 「な、なんだ!?何が起きている!?」

 「おーおー凄いねノイマンの作った毒ガス。えるふだけを殺す毒ガスだっけ?よぉくこんな指向性のあるもん作ったもんだ。我の時代にもこんなものがあったら楽だったのにのー。」


 毒ガス。平然とした表情で老人はそう言い放った。宴会の時と変わらず、表情なに一つ変えず苦しんでいるエルフたちを眺めている。


 「き……さま……!エルフ狩りか!」

 「いかにも。我はオルヴェリンより派遣された。この度はこの村に異郷者を匿っているという情報があってなぁ、エルフの村だし皆殺しにして家探しするのが手っ取り早いと思ったのよ。ほら、都市国家法の第何条だっけ?お前ら殺しても別に罪にならんのだろ?」


 何故、自分たちはこんな老人を領域に入れてしまったのか。理解ができなかった。あのときは何の疑問も持たなかった。この老人はまるで家族の一員を迎えるようにすんなりと入ってきたのだ。

 おぞましい。それは今までのエルフ狩人たちとは別ベクトルの恐ろしさだった。武力があるわけでも、知力に優れているわけでもない。もっと別の力。人の隙に入り込み、心に住み着いてくる。気づいたときには既に受け入れていたのだ。理解するよりも前に。


 「はぁーっ!はぁーッ!ならば……残念だったなオルヴェリンの犬め!お前の探している者はここにはいない!」

 「お?そうなん……んー……いやぁお前……嘘をついてんなぁ?」


 断言した。まるで最初から全て知っていたかのように。

 倒れたエルフの首を掴み老人は目を見る。全てを見透かしたかのような目であった。


 「我はなぁ、見ての通り力も無けりゃ頭も良い方じゃねぇ。だけどまぁほら、人を見る目はあると思うぜ?お前さん……嘘つきだね。おーどれどれ……?森でエルフ狩りに襲われたところを助けてもらった恩義がある……?はぁ~ありきたりだねぇ。」


 何故だ。嘘を読めるだけではない。この老人はまるで、心が読めるかのようにその隠し事まで言い当てた。

 誰にも警戒されずこの村に入り込んだ手腕といい、得体の知れない恐怖感がエルフの心に満たされていく。


 「そんな怖がらなくても良いんだよエルフちゃん。言っただろ?どうせ死ぬんだから怯えるだけ無駄だっ……あれ?なんこれ?」


 話の途中で老人の胸から刃物が突き出る。見覚えがあった。それは紛うこと無くこの村に匿っていた異郷者。ニンジャブレード!老人の口から血が吹き出る。


 「は、ハンゾーさん!どうして出てきたのですか!?」

 「恩人が苦しみ窮地に陥っているというのに、それを見過ごすほど、ニンジャとは鬼畜ではない。ましてや今は任務中でもないのだ。」


 ニンジャブレードを切り裂く。胸から切り裂かれた胴体は血を撒き散らす。確実に死亡する致命傷的一撃である!


 「は、ハァハァ……奇襲、容赦のない一撃……アサシンか何かかいあんた?もっと早く来てればエルフたちも犠牲にならなかったのにねぇ。」

 「心配無用。我がニンジュツをもってすればこの程度の毒ガス、馬耳東風よ!」


 ハンゾーが印を結ぶと風が巻き起こる。既にニンジュツは発動していたのだ!ハンゾーを中心に巻き起こる風はまるで竜巻のように高く高く舞い上がっていく!


 「天音煌めく地平の果てよ、胡蝶の如く虚ろかな幽玄を解き放つがよい、これぞ天地返し!」


 印は広がり空間を埋め尽くす。そして世界のヴェールは剥がされるのだ!ニンジャ幻術!ハンゾーが世界にかける至高幻術である!世界のヴェールは剥がれ落ち、全ては砂上の楼閣の如く消え去るのだ!その起きた事実、運命、因果を!


 「え!?あ、あれ……?おれたちどうして……。」


 苦しみ倒れていたエルフたちが立ち上がり平然としている。まるで何事もなかったかのように!だが間違いなく記憶にはあるのだ!目の前の老人の悪逆な手により、死地を彷徨ったことに!


 「……!?ほぉぉぉぉ~事象の反転、因果律の操作、時間軸干渉……か?おお、ここまでレベルが高いのは初めて見たわい。つくづくこの世界は我の欲しいものがたくさんあるのぉ。」


 老人の言葉にハンゾーは冷静に分析する。理解が早すぎると。ニンジュツとは初見殺しのものが多い。それこそが忍の本質。二度目はないのだ。だというのにこの老人は一目でその本質を言い当てた。只者ではないことは明白。

 更に驚くべきは確かに致命傷であった傷が塞がりかけている。なんという生命力か。あるいはオロチの如く……命が複数あるのか。今時点で判断はつかない!

 しかし……幸いなことが一つある。それはニンジャアイズにより戦力分析した限りではこの老人、武力はからっきし!つまり苦労せずとも倒せる相手なのだ!本来はおそらく後方支援に長けたものなのだろう。前線にいるのはまたとない好機なのだ!


 「余裕で良いのか老人?貴様のあては外れた。次は確実に始末させてもらうぞ。」

 「怖い怖い。いやはや、その点は及ばんよ。我が一人で来たと思うたか?お前さんが思っているとおり、力のない我が一人で。」


 ───殺気。瞬時に飛ぶ。


 ドゴォォォン!!


 爆裂音だった。ハンゾーが今いた場所にクレーターが出来ていた。突然湧いて出た殺気。完全なる不意打ち。恐らくは攻撃態勢に移るまで、自然と一体化していたのだろう。

 それは鎧騎士であった。全身瑠璃色の派手な色をした鎧。巨大なポールアクスを片手で軽々と持ち大地に立つ。禍々しい装飾に、重々しい鎧。多くの返り血を浴びたのか、鎧の所々は黒ずんでいて、異形ともいえるその様相は恐怖感を与えるには十分すぎるほどだった。

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