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楽園の終焉

 抜き身のサムライブレードを、装置へと向けた。一撃必殺。確実に破壊する。

 しかしその時であった!突如、出現した殺気!まるで最初からそこにあったかのように、それはそこにいた!ブシドーといえど反応できないその刹那!


 「な……!?ぐ……ッ!」


 全てが終わる。皆がそう確信したその時だった。宗十郎の腹部に刃物が突き刺さっている。滲み出す血、痛みを堪えるも耐えきれぬ苦痛に溢れだす呻き。


 「シュウ!!」


 幽斎は駆け出していた。突如出現したそれに、理解が追いつく前に。宗十郎を助け出すために。

 幸いだったのは、宗十郎と幽斎、二者の間で引力という属性が付与されていたことであった。それを意識してか知らずか、幽斎は真っ先に動いたことで、それの追撃を、トドメの一撃が届く寸前で、宗十郎を救い出す。

 引き付けられるように宗十郎は幽斎にくっつくのだ!先程、与えられた属性エンチャント。それが幸いにも宗十郎の身体を幽斎へと繋げたのだ!


 「し……しょう……油断を……ごふっ。」

 「よい!よいのだシュウ!今は大人しくしてくれ、傷が開く!」


 臓物から湧き出る血液。宗十郎程のブシドーならば、止血は可能であるはずなのに、それが出来ていない。この異常な空間の仕業なのかと感じた。

 だが、見るからに重症であったが命までは取られていない。その姿に幽斎は安堵する。そして正面を見る。いよいよ現実を直視しなくてはならないのだ。


 「なん……だ……なんなんだ……俺たちは……何を作っていたんだ……?」


 ネザールのことを兄貴と呼ぶ少年はその姿を見て、引きつった顔で呟いていた。ネザールもまた同じ感想であった。死地にいながら、この異常さが理解できなかったのだ。


 そう、そこにはまったく同じ第十三プラントエネルギー回収装置があったのだ。装置は二台あった。いや、突然二台になったのだ。


 「ヨセフ!これはどういうことだ説明しろ!!」


 カーチェは叫ぶ。だが当のヨセフも困惑をしていた。


 「なんだこれ……知らない……。何が……起きているんだ……?」


 新たに出現した装置は更に出力を高めていく。今度こそ世界を終わらせるために。


 「タイムパラドックスだ。」


 全員が唖然としている中、一人の声が響き渡る。


 「歴史は変えられない。そこの男が第十三プラント装置を破壊しようと、既に滅ぶ未来は変わらないのだ。今、起きているのは事実の再現。装置が二台に増えたのではない。元からこの世界は終わりを迎える道を、ただただなぞっていただけだ。」


 被っていたフードを外す。見覚えのある顔だった。


 「魔王!お前もここに来ていたのか!!」


 彼の名は魔王。宗十郎たちがこの世界に来た原因を作った男でもある。


 「タイム……パラドックス……フ……フフフ……ハハハ!なるほど、なるほど!そうか、オルヴェリンとは!俺たちとは!そういうことだったのか!フヒハハハ!!」


 ヨセフは理解した。世界の真実を。オルヴェリンの本質を。そして、自分の役割を。狂ったように、壊れた人形のように笑い出す。


 「みんな悪い!民衆の誘導は完了した!しかしほとんどが液体となって……魔王!?」


 遅れてイアソンがやってくる。事態を飲み込めていないのか、困惑している。


 「見ろ、宗十郎が切り裂いたあとを。世界に亀裂が入っている。予想外だったが、これで帰れる。」


 巨大なエネルギーの衝突。それは次元に歪みを作り空間を砕いたのだ。魔王はその割れ目へと入り込んだ。


 「帰れる!?元の世界にか!?くっ……今は考えている暇はない!皆、飛び込むぞ!この世界は直に滅ぶ!!」


 イアソンは見ていた。外の世界が終末に向かってきているのを。空中庭園アーカムは少しずつ形を崩していき、いずれ落ちる。空は雷雲と血のような赤き空で、地獄のような景色となっている。避難誘導をしながら悟っていたのだ。この世界はもう終わりであると。オルヴェリンにより、死を迎えつつあると。


 「少年!君も来い!」


 息絶えたネザールの横でただ呆然としていた少年にイアソンは声をかけた。


 「……俺はここに残る。諦めてなるものか。兄貴をこんな目にしたやつを絶対に許さない。殺してやる。絶対にこの手で殺してやるぞオルヴェリン……!」


 少年の目には漆黒の炎がともっていた。それはただただ復讐のために。許しがたい、悪辣極まりないオルヴェリンへの憎悪だけが、今の彼を突き動かしていた。

 イアソンはもう何も言えなかった。彼の世界は滅びを迎えている。だがだからといって、他の世界にそう簡単に逃げることができるだろうか。

 目の前で親愛なる者を殺され、尊厳を冒涜され、黙って逃げ出すなど……できはしない。


 「分かった。少年よ、健闘を祈る。願わくば君に栄光の勝利があらんことを。」


 イアソンは全員が裂け目に入り込んだことを確認すると、自分も入っていった。

 それを待っていたかのように裂け目は小さくなっていき閉じる。

 残されたのは二人。崩れ行くプラントで狂ったように笑い続けるヨセフと、その目に漆黒の意思を秘めた少年であった。

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