奇怪な集落
「万のブシドー部隊はどこに……?このような村など相手している暇では……。」
村人の悲鳴が聞こえる。男は殺され、女は攫われる。見慣れた光景だった。見慣れぬことがあるとすれば……。襲っている相手が人ではないことだ。肌の色が違い背丈は低い。子鬼の類だろうか。
思案していると複数の子鬼に取り囲まれていた。一匹が飛びかかってくるが頭を掴み取る。握りつぶした。脳漿が飛び出る。即死したのだ。
「なんだ貴様ら、ブシドーではないのは明白。妖の類であるか。拙者ライコーやセーメーの真似事をするつもりはない。失せよ、今は殿をお助けするのが最優先。」
子鬼たちは仲間が殺されたのか怒りの表情を浮かべて同じように襲ってきた。
「失せろと言っているだろう子鬼!貴様らとはレベルの次元が違うのだ!!」
蝿を叩き落とすのと同じ要領で叩き潰す。大きさこそは違えど、羽虫と変わらぬ。否、サイズ感で考えるとこちらの方が潰しやすい。
宗十郎の叫び声に反応したのか村を襲う子鬼たちの注目を集める。宗十郎の周りには子鬼の死体が三匹。そして手は子鬼の脳漿で汚れている。明白だった。
「ど、どなたか存じませんが助けてください!ゴブリンに襲われているのです!」
村人の一人が叫んだ。
───ごぶりん?知らぬ名だ。火の国か蝦夷の豪族であろうか。それにしては異形。妖の類のようにしか見えぬが、それにしては歯ごたえがなさすぎる。
だが、奴らの怒りは感じた。同胞が殺され、怒りに震えているのだ。
「なるほど。姿こそは違えど、貴様らにブシドーを見た。良いだろう来るが良い!我が名は千刃宗十郎───。」
名前を言い終える前にゴブリンは飛びかかる。当然である。彼らにとってそんなものは不要なのだから。ただ本能の行くままに、動くのだ。
宗十郎は少しばかり安堵していた。姿こそは違えど、ブシドーと出会えたのだから。だがそれは裏切られた。名を名乗りもせず不意を打つ卑怯者。ブシドーの風上にも置けぬ外道。決して許されぬ悪逆。
飛びかかったゴブリンたちは真っ二つに引き裂かれる。サムライブレード?否、違う。これは手刀ハンドブレードである。全力まで高めたブシドーをその手に込めることで、凶器と化す。ブシドー殺法の基本である。
「消え失せろッ!この外道どもッ!!貴様らに見せる朝日はない!!」
哀れ!村を襲うゴブリンたちは宗十郎のブシドーによりバラバラに切り裂かれ、無惨なミンチとなった。
「お、おぉぉ!誰かは知りませぬがありがとうございます!さぞや名のある方で……。」
「次はお主か!我こそは千刃宗十郎!ブシドーに基づきこの刀振るわんとする!さぁ名を名乗れ武士よ!さぁさぁさぁ!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
刀を取り出し名乗り上げたというのに、村人は悲鳴をあげて逃げ去った。
戦意を失い逃走など武士の風上にも置けぬ奴。だが……とはいえ逃げ惑うものの背中を斬るのはブシドーに非ず。刀を収め残心。
改めて周囲を見渡すとそこはのどかな田園風景。いくつかの民家が点在している。戦場ではないことは明らか。宗十郎の磨き抜かれたブシドーセンスは現状把握に集中した。
おそらくはニンジャコマンドーが決死の覚悟で行ったニンジュツの類。ハットリと名乗ったニンジャコマンドーのサイコアタックなのだ。敵ながら最後まで主君に尽くす、命を賭してまで戦い抜く覚悟は天晴!
して、このニンジュツを破るには如何にすれば良いか、宗十郎は解決策を未だ見いだせないでいた。
「宗十郎どの……でよろしかったか?」
「む、何奴!拙者の名前を知っているとは貴様、間者かあるいはスパイタクティクスに通じるものか!?」
「あぁ、すいません。名乗り遅れました。私の名前はカーチェ・フルブライト。カーチェとお呼びください。此の度は村の救助にご協力くださりありがとうございます。」
「ほう、なるほど!お主は南蛮のものであったか、ブシドーに国の違いなし!お主の口上、とくと受け止めた!では応えよう、我こそは千刃宗十郎!彩の国より奉るブシドーである。いざ尋常に勝負!」
刀を抜き構える。だがカーチェは両手を上げた。腰の剣には触れようとしない。
「臆したかカーチェ!それとも拙者を愚弄侮辱するか!ブシドーは無抵抗の女を斬りはしない!だが戦場に降り立つ戦士に性別の差は不要!オールマインドである!さぁ剣を抜け!貴様の剣は飾りであるか!力を示せ!!」
「いえ……私は貴方と戦う気はありません宗十郎どの。それはこの村の人たち全員がそうです。誰かと勘違いをしているのでしょうか。私たちは貴方と敵対する意思はありません。」
なんということか。彼らは敵ではなかった。万を超えるブシドー軍団。それはどこにいったのか。あの戦場はどこへ消えたのか。恐るべしはニンジャ・ハットリのニンジュツ。まるで世界が煙に巻かれたようだ。
「失礼した。此度の無礼どうか許してほしい。本来であればハラキリで詫びたい所存ではあるが、拙者、殿を護るという使命があるが故、それはかないませぬ。」
「いえ、分かってもらえれば良いのです。ですが良かった。話が比較的通じる相手で。」
カーチェの言葉には含みがあった。まるで自分以外にも似たようなものがいるようだというような言いぶり。





