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黒き星、失楽の誘い

 「なるほど分かった。ならばこのイアソン。二人に代わり魔王を討とう。」


 しかし幽斎の計算違いだった!ここにいる異郷者は自分たちだけに限らず!イアソンがいたのだ!百戦錬磨の英雄!その実力は未だ未知数だが幽斎はブシドーを通じて理解かるのだ!魔王に匹敵する実力者であることが!


 「い、いやイアソンさん……流石に一人に任せるのは……。」

 「心配する必要はないユウさん。元より英雄とは一人で巨大な敵に立ち向かうことも多い。俺は見せないといけないんだ。あいつらに、世界は違えど俺の冒険たたかいは続いていることを。」


 武器を構えるイアソン。それはアルゴー号に収められていた無数の武器の一つ、無名の剣と槍。

 それに応えるかのように、魔王は手を前に突き出す。それと同時に雷撃が周辺に炸裂する。


 「魔法使いか。つくづく、俺はそういう因果があるらしい。」

 「お前の世界にも魔法があるのか。似た世界同士、親近感はわくが、遠慮はするつもりはないぞ。」


 その稲妻は大気を引き裂くようにジグザグに走り、敵を狙う火矢のようであった。自然現象であるはずなのに、正確無比にイアソンに向かっていくその現象は紛れもなく超常的な現象、魔法と呼ぶに相応しい出来事だった。

 しかしイアソンはその稲妻に決して怯むことは無かった。むしろ前進し、その槍を稲妻に向けて払う。瞬間、耳をつんざくようなような衝撃音。イアソンの槍技と魔王の魔法が衝突し、対消滅したのだ。


 「なるほど、魔法を知る世界の人間ならぱ、魔法に対しての技も当然あるわけだ。」

 「色々とあってね、こういうのには慣れているんだ。」


 指揮棒のように魔王は手を振るう。すると今度はまるで真夏のように周辺の温度が上がりだす。熱が急上昇しているのだ。臨界点を超えた時、空中に火球がいくつも浮かび上がる。青い色をした炎の塊であった。


 「では小手先はおしまいだ。その槍ごと溶かしてしまえば問題はあるまい?」


 先程の稲妻は魔法により作り上げた擬似的な自然現象。此度の火球も理屈は同じである。ただ違う点があるとすれば、その火球が持つ熱量は本物であるということだ。魔法によって作り上げられた火球が生み出す膨大な熱量は現実に作用し、魔法とは別に確かに実在する物理現象として敵を襲う。

 先程、イアソンが見せたような技で迎撃をしても、火球は無効にできても、その火球が引き起こした物理現象。即ち、超高熱を無効にすることはできない。槍は耐えきれず溶けてしまうのだ。


 放たれる火球。生き物のように向かっていく火球は通常あり得ない現象。魔法だからこそ可能な技。周辺大気の熱量を飛躍的にあげ、周りを焦土にしながら火球はイアソンに向かっていく。

 だが、イアソンは止まらない。魔王に向かって直線的に走り出したのだ。


 「───馬鹿が。その火球の中心温度は数万度。それが分からぬほどに愚者だったか。まだ幽斎の方が……。」


 マシだった───。そう言いかけた時だった。

 イアソンに火球は接触する。人体、否、タンパク質で構成された生命体であるならば、熱は共通の弱点。無論、耐えきれる熱量に個体差はある。だがあの火球の温度は規格外。本来ならば肉を溶かし、骨を焼き、灰すら残さない紅蓮の焰。だというのに、イアソンはまるで涼しい顔で、その衣服すら燃え上がらず、素通りしたのだ!


 「馬鹿な!貴様、どういうトリックを!」

 「たどり着いたぞ、魔王。ここからは俺の出番ターンだ。」


 魔法使いはその性質上、接近されれば弱い。槍を魔王に向けて払う。様子見の一撃、されど確実に致命的となる場所を正確無比に狙った。


 破裂するような金属音。誰もがイアソンの勝利を疑わなかった。しかしイアソンの槍は今、宙を回転しながら舞い、そして地面に大きな音を立てて突き刺さった。

 何が起きたかは一目瞭然であった。魔王の手には巨大な斧。それを軽々と片手で持っている。


 「ぬかったなイアソン。火炎無効の祝福の類は驚かせたが、武芸に長けた魔法使いを見るのは初めてか?」


 更に斧をイアソンに叩き込む。剣で受ければ折られるのは明白。イアソンは避けるしかなかった。その暴風のような斧の一撃から。


 「ぐっ……は、はぁ……はぁ……いいや?初めてではないさ……意外だっただけさ。俺の知る奴は皆……お前みたいに優男ではなかったからな。」


 出血。イアソンから血が飛び散る。出血量からして深い。カーチェは叫び、剣を手に取る。だがそれを宗十郎は止めた。


 「なるほど、師匠を倒したのは卑劣な手でもなければ偶然でもない。マオウとやら、敵ながらにして相当の実力者。カーチェ、今は堪えたほうが良い。イアソンどのを信じ。そして、もしもの時に備え手の内を見定めるのだ。」


 動かないイアソンの仲間を一瞥する。


 「ほう、加勢に来ないか。頼りになる仲間だなイアソン?」

 「あぁ……そうだな……このくらいの傷で狼狽えていては逆にアスクレピオスに怒られる。俺たちの冒険たたかいはいつだって、先の見えない暗黒の道を切り拓いてきた。」


 イアソンは剣を抜いた。


 「魔王!今の一撃で俺を殺せなかったこと!それがお前の敗因だ!貴様の一撃は恐れるに足らず!船上で何度も手合わせしてきたヘラクレスの方が、遥かに恐ろしかったぞ!」


 気がつくとイアソンの出血は止まっていた。魔王の斧は確実に肉を切り裂き、その動脈を削り取ったはず。通常の人間の代謝では不可解な治癒能力。通常の人間では……。


 「なるほどイアソン?貴様もまた異郷者、俺の世界、この世界の常識では通じない、理の外の奇跡。まだ隠している秘中の秘があるな?」


 魔王は不敵に笑い、その斧を地面に叩き込んだ。その威力は地面全体を吹き飛ばし、周辺の者全てを破壊する。無数の瓦礫が吹き飛び火山弾、まるで弾幕のようにイアソンに襲い来るのだ。


 「な……に……?」


 無論、魔王はこれでイアソンが倒せると思っていない。時間稼ぎ、あるいはこれで隙を作り、次の大技を叩き込む布石。牽制技のつもりだった。

 だが魔王の目論見はまるで思い通りにいかなかった。イアソンはこの無数の瓦礫を、散歩するかのように、涼しい顔で全て避けて、最短距離で魔王の目の前に接近したのだ。神業とも言える見切り。人並み外れた能力。最早それは魔法ではなく奇跡ともいえる力だった。


 「悪いな魔王、それは俺が一番得意なことなんだ。」


 剣を魔王に突き刺す。狙いは胴体中心。確実に死に至る急所。

 だが魔王もまた百戦錬磨。避けきれないことを確信した魔王は自分に対し魔法を放つ。魔法の直撃を食らった魔王は大きく体勢を崩した。そしてイアソンの剣は大きく狙いを外し、魔王の右肩を突き刺したのだ!

 そしてイアソンに衝撃波を放つ。ダメージは期待できないが、突き刺さった剣は引き剥がした。

 宗十郎たちはイアソンに駆け寄る。魔王は今、負傷している。倒すならば絶好の好機!


 「ぐ、ぐぅぅぅ……!おのれ……よもやここまでやるとは……。かくなる上は……。」


 右肩を抑え苦悶の表情を浮かべる魔王。治癒魔法を使用するが思うように回復しない。恐らくはイアソンの一撃はただ剣を刺しただけではないのだ。魔法回復を阻害する何かが込められている。

 ならばこちらも切り札を出すしか無い。今、ここで死ぬわけにはいかないのだから。そう決意した時だった。突然、奇声が聞こえた。この世のものとは思えない叫び声。まるで地獄の底からひねり出す亡者たちの呻き。


 「こ、これは……!クソッ、貴様たちの邪魔が入らなければ……!」

 「なんだ……?何をした魔王!この奇声はなんだ!?」


 空間が歪みだす。破滅的なエネルギーだった。空間に現れたのはまるでブラックホールのような黒点。少しずつ、少しずつ広がっていき、周辺の瓦礫を吸い込んでいく。そして宗十郎たちも、その絶大な吸引力に引っ張られていったのだ!


 「カーチェ!なんだあの黒いものは!あれは……あれは……途方もないエネルギー!斬れぬ!星を凝縮したかのような高密度なエネルギーだ!」

 「私も知らない!あんなものがあるなんて聞いたことがない!五代表は知っていたのか!?こんなものが魔王城にあったなどと……!!」


 抵抗することができない。引っ張られていき、そしてこの場にいるもの全員が黒い球体に呑み込まれていった。

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