時知らず春夏
宗十郎たちはアルゴー号から飛び降りる。城は目の前、目と鼻の先だった!
しかし……奇妙であった。城だと言うのだから、おそらくは多数の兵が詰めているものだと思ったのに、まるでいない。ガラガラなのだ!
「これはどういうことですか師匠!も、もしや師匠はマオウの軍隊全てを皆殺しにしたのですか!?」
尊敬の眼差しで宗十郎は幽斎を見つめる。しかし幽斎は照れくさそうに、少し目をそらした。
「い、いや……儂も何故かは知らん……そもそも儂の身体を変えたのは……魔王じゃ……。」
流石に良心の呵責か、自分が殺し尽くしたのだとは言い切れなかった!言えば愛弟子ポイントの獲得間違いないと確信はしていたが、流石に虚偽の戦果を報告するのはバレた時の失望が大きすぎるのだ!幽斎の中で揺れる天秤は、真実を告げることに傾いた!
「死体の気配がそもそもない。そしてこの城内、わずかの生命しか感じられない。魔王とやらは軍隊を持っていないのではないか?」
イアソンはそう分析した。そもそも魔王は異郷者。別世界では王だったのかもしれないが、この世界に部下たちを引き連れていないのは明白。
玉座らしき場所にたどり着き、勢いよくその扉を開けた。
「たのもう!マオウとやらはここにいるか!いざ師匠の生き恥、晴らすために勝負!!」
宗十郎は叫ぶ。その奥には確かに人影があった!威圧感ただよう男性が一人、座っていたのだ!
「異郷者たちか。三人……明らかに違う。何をしに来た?こんなところまで。」
「この可憐な女性に覚えはあるかマオウ!今も生き恥を晒しながらも必死に堪え続けている我が師匠を!」
宗十郎は幽斎を指差し叫ぶ。まずは用件を伝えるのがブシドーというもの!礼節なのだ!
「ん……?知らん……いや……あー知ってるぞ。確か……ゆうゆうとかいうアイドルに似ているな。ん……?アイドルが異郷者だったのか。異郷者とは、戦闘能力か知能に秀でたものばかりだと思ったが……頭の悪そうな女もいたのだな。」
「とぼけるかマオウ!!確かに今の師匠はいかにも頭の軽そうで、ブシドーの欠片もなければ、大和撫子の片鱗微塵もない、娼婦のような振る舞いをしている女ではあるが!!それを……!!」
怒る宗十郎!そこに肩をトントンと叩かれる、幽斎であった!
「あの……シュウ……あたしのこと……そんな風に思ってたの……?え、だってこの間、温泉の時はあんなに慕ってくれてたじゃん。」
青ざめた表情で冷や汗をかきながら、幽斎は問いかける!流石に聞き捨てならなかったのだ!てっきり愛弟子はこの姿でも慕っていると想っていたからだ!
「……答えろマオウ!忘れたとは言わせぬぞ!我が敬愛する師匠をこのようにしたのは!!」
「え、ちょっと無視やめて。今、それ大事?ねぇシュウ?こっち見て?」
魔王は幽斎に絡まれている宗十郎をただじっと見つめていた!本気で解らないのだ!師匠……目の前の宗十郎という男の師匠らしい隣の女……宗十郎のあまりの訴えから外見ではなくその本質を見定めようと目を凝らす。
「!……貴様、あの時の勇士か!あぁ、忘れていないとも。忘れるはずがない。老人でありながら冴えわたる技の数々、敵ながら尊敬していた。」
「ちょ……師匠……ちょっと後で話すから、その手離して…………思い出したか魔王!そうだ、その勇士こそ我が師匠!それが今やこの姿だ!」
「う、うむ……確かに生き恥だな……いや、しかし……何でそんな姿をしているんだ?」
「まだとぼけるかマオウ!!他ならぬ貴様の仕業であろう!!」
「いや知らん……なにそれ……こわ……。」
───沈黙。宗十郎は困惑していた。師匠の話と違う。いや、困惑することなどなかった。
「貴様!嘘をつくか!他ならぬ師匠が言ったのだぞ!マオウによりこの姿になったと!!」
「幽斎が?」
魔王はかつて幽斎と名乗った女性を見る。必死にアイサインを送っていた。察した。
当然ながら魔王は幽斎の性転換などしていない。していないのだが……幽斎を倒した後に牢に収監し、後の処遇をこの地で作り出した部下に任せたのだ。
確か……その中には生命を司る魔法を持つものもいたはず。若返らせ、性別を変えるなど容易いことだった。あぁそういえば新しい戦力が手に入ったと意気揚々に報告していた。
「思い出した。確かに俺の手で幽斎を若返らせ女体化させ洗脳し部下として、我が駒として働かせた。」
使用者責任である!魔王にはまったく見の覚えのない、馬鹿な部下が勝手にしたこと!だが、部下が勝手にしたことだとというのは流石に悪い!故に魔王は認めたのだ、悪趣味な所業を自分のしたことだと!自分で口にしておいてなんだが、本当に悪趣味な部下だと辟易した!
「やはりそうか!でなければ我が師匠が……我が師匠があんな……あんなことを率先してするはずがないのだ!刮目しろ魔王!これも貴様の仕業なのだろう!?」
宗十郎は胸元から何かを取り出す。それは写真であった!師匠のことを調べている間に入手したものだった!始めてみた時、怒りで我を忘れそうだった!あの師匠がこんなことまでされたということに!
幽斎も知らなかった!てっきり自分の振る舞いのことだけを咎めていると思ったが、他にも何かバレていたことに!恐る恐る宗十郎が手に持っている写真を見る!
「ちょ!ちょ、ちょっと!なんでそんなの持ってるのシュウ!?シュウそんな趣味ないはずだよね!?」
「あの日、コンサート会場で知り合った観客の一人から譲り受けました。観客は拙者のことを知ると仲間だと思ったのか、被ったからあげると好意でくれたのです……ブシドーたるもの相手の好意は無下にできず……。」
それはアイドル活動をしているゆうゆうのプロマイド!コンサート限定販売でパック入り中身ランダムで封入されているものだった!そこには可愛らしい女物の服を着てポーズを決めている幽斎の姿があった!無論、中には水着などの際どい格好や、コスプレ衣装に身を包み扇情的な姿の写真もあるのだ!低確率で封入されているレア写真である!
宗十郎は幽斎の熱心ファンから新規ファン且つ幽斎のためにゴブリン討伐をしてくれた者として、好意でレア写真を譲ってくれたのだ!
故に!今、宗十郎が握っている写真は全て!情欲的な!官能的な!そんな姿をしている幽斎の写真なのだ!
魔王はドン引きしていた。洗脳とはそこまで深く作用するものだったか?と自問自答する程度には。こんなの本人が割りと乗り気でないと起きえない。
「シュ、シュウ?あの、この後、二人きりで話し合おうか?きっと誤解をしているの。話せば分かるし……。」
「マオウ!!許さぬぞマオウ!!こ、このような娼婦まがいな……師匠にこのようなことをさせるなど……貴様には人の血が通っていないのだと理解した!答えろマオウ!!これも貴様の指示なのだろう!!!」
当然ながら魔王は関係ない!ついでに魔王の部下も関係ない!アイドル活動は全て幽斎の意思である!プロデュースした人たちは皆、ただの一般人である!
幽斎は魔王を涙目で見つめる。あまりにも情けない姿だった。魔王は関係ないことを知られたら、きっと愛弟子に完全に失望される。愛弟子ポイントはマイナスまっしぐらなのだ。もはやこの局面、絶体絶命の境地、魔王の手に委ねるしかほかならなかった!
「あ、あぁ……そ、そうだな……うむ……それも……俺がやったかも……。」
この世の終わりのような表情を浮かべる幽斎に流石に魔王は同情を禁じえなかった。
そしてその言葉に、宗十郎の怒りの沸点は限界を超えたのだった。
「やはりそうか、殺す。マオウとやら。貴様はブシドーを侮辱し、その尊厳を奪い捨てた。最早、貴様に払う敬意なし。死ね、今この場で拙者が地獄へと送ろう。」
「ま、待って待ってシュウ!」
静かに、だがその目の奥には純粋な殺意を込めた宗十郎。それを幽斎は羽交い締めにして止める。当然である。その怒りは間違っているのだから。
「申し訳ありません師匠。拙者、また怒りで我を忘れていました。そうですとも、今この場で奴を八つ裂きにしたいのは師匠の筈。弟子の自分が出過ぎた真似をしました。」
「ば、馬鹿者!そうではない!シュウよ、お主は晒し首というのを知らぬのか!?」
晒し首……それは戦に敗れたブシドーの中でも、最も影響力のあるブシドーの首を、大衆の目につく場所に放置することである。それは戦いに敗れた者に対する最大限の侮辱。ブシドーにあるまじき振る舞いだが確かに存在する戦場の常識の一つなのだ。
その目的は敢えて晒し者にすることで、敵陣営に敗北を教え込むもの。そして味方陣営に確実な勝利を感じさせるもの!卑劣ではあるが立派なブシドータクティクスであり、バフデバフを同時に兼ね備えたスキルなのだ!
「儂は負けたのだ。魔王に。言うならば今は晒し首の状態。シュウよ、教えたはずだ。戦場とは残酷なもの。だがだからこそブシドーは冷静でなくてはならない。お主は、儂の晒し首を見て怒り狂い、愚かにも敵陣に飛び込む未熟なブシドーに過ぎないことが分からぬか!」
「!……た、確かに言われてみれば……なるほど一度負けた師匠がまた挑むのはブシドーとしては往生際も悪い。だからといって晒し首となった師匠に怒り狂う拙者は……三流……ぐっ……何と未熟なことか……!」
「分かれば良いのだ……さぁシュウよ。此度はひとまず引こうではないか。そして二人で修行をし直そう。お互い未熟さを痛感したのだ……あと写真についてちょっと話したいし。」
この場に長く留まるのはまずい。そう判断した幽斎は引き下がることにしたのだ!そしてどさくさに紛れて二人きりで修行を始めることを提案することにより、俗世から隔離しアイドル活動の痕跡を宗十郎にこれ以上見せないようにする。更に二人きりであることから愛弟子ポイントの稼ぎ時は無数にあるのだ!





