燃え盛る大地と冷めていく心
道中、色々と話を聞いた。少年の名前はアル。アルが云うにはこの火山の奥深くに操舵輪を落としてしまったのだというのだ。
火山は今も活動しており、溶岩が流れている!その温度は数千度にまでのぼり、周辺の環境は熱帯的な環境となっている!
「うぅ……信じられない暑さですね……皆さんは平気なんですか?」
リンデは滴る汗を拭いながら呟く。彼女は元々、涼し気な洞窟に住んでいたため、暑さに慣れていないのだ。
「騎士だからな。暑いことは暑いが、この程度で音をあげないよ。」
「ブシドーにとっては、この程度些事である。しかし師匠とともにいると昔を思い出します。修行時代はともにサウナ温泉で鍛錬でかいた汗を流したものです。」
「あーそんなこともあったあった!シュウには背中を流してもらってたよね。はぁ……オルヴェリンにはそういうのないからちょっと恋しくなったなぁ。」
目を瞑ればそこには極楽至極の温泉風景。火山故に硫黄の香りも漂うだけに尚更、旅愁を感じるのだ。
「アイドルの……ゆうゆうが男と入浴……?」
当たり前のように交わされる会話にアルは唖然とした表情で呟く。すぐにまずいと気が付き慌てた様子で幽斎は取り繕った。
「なるほど、二人は幼なじみなんだ。どうりで何というか距離感が近いわけだよ。いいなぁ、アイドルと幼なじみなんて。」
「あはは……いやー、シュウとは昔はよく一緒にお風呂とか入ったり、お泊りとかしたよねぇー?」
「……そう……であります……うっ……失礼……ゴミが目に……。」
宗十郎は涙を流す!師匠の必死な振る舞いに!生き恥を晒しながらも、洗脳されていた時とはいえ!自分を慕う子供の期待を裏切りまいと生き恥に生き恥を重ねるその姿が、あまりにも健気で……それでいて哀れで涙を流しざるをえないのだ!
ブシドーとは涙を見せぬもの!だが……親家族の不幸であるならば別である!親同然の師匠の懸命な振る舞いにはブシドーの目にも涙なのだ!
火山には獣の類は基本的にそこまでいない。危険な場所であるからだ!だがそれでもやはり危険生物は存在する。アルが一人で火山に登らなかった理由はそこにあるのだ。
溶岩から急に何かが飛び出して来たのだ。それは炎であった。しかし生き物のように動きまわり、明らかにこちらを威嚇しているように見える。
「やはり現れたか。こいつは火の妖精。妖精は総じて悪戯好きで、これも例外ではない。ここは私が対処しよう、実態のないこいつらを倒す術が騎士にはある。」
カーチェは剣を抜き前に出ようとするが、それを幽斎は静止する。そして代わりに前に出るのだ。
「何をしているユウさん。貴方はアイドル。その妖精を倒す術なんて……。」
「いやぁ……なんかあたしの株が落ちっぱなしだからさ……ここは任せてくんない?定期的に愛弟子には良いところ見せないと。」
素手で火の妖精の前に立つ幽斎。引き留めようとするカーチェの肩に宗十郎の手が乗る。師匠ならば問題はないといった表情だ。
火の妖精は獲物を見つけたかのように一斉に幽斎へと飛びかかった。瞬く間に燃え上がる幽斎の肉体!万事休す!……かと思いきやその肉体は、否、それどころか服すら燃えていなかった。
「お見事です師匠。ブシドーの扱いは拙者では足元にも及ばぬ。」
ブシドーは本来、サムライブレード以外の物質に流し込んだ場合、その力に耐えきれず崩壊する。だがそれはあくまで何も考えずに流し込んだ場合である。
こうして、崩壊する限界まで調整することで崩壊を免れるのだ。そしてブシドーが流し込まれた衣服は並大抵の炎では燃えない!
幽斎は燃え上がる炎を掴む。炎とは実体のないもの。だがブシドーにおいて形のないものを斬ることなど初歩の技であることは言うまでもない。ブシドーの極みとは、ただそこにあるものを斬るのではなく、その心を断ち切ることにあるのだ。
故に当然の如く、素手であっても、形のないものを掴むことは造作もないことである。
そしてブシドーを叩きつける!これぞブシドー殺法が一つ、霞流れ!ブシドーを流し込み相手の経絡を変えてバランスを奪い、地面に叩きつける体術である!
火の妖精は何が起きたのかも理解できず、地面に叩きつけられた!初めて感じる衝撃!妖精には痛覚など存在しないが故に、その困惑の原因すらも分からぬまま、消滅、爆散したのだ!
「いぇい!ぴーすぴーす!どうシュウ、見てくれた?あたしも中々やれるでしょ?」
「……そう……でありますな……お見事天晴です。」
興奮し、すっかり演技を忘れた幽斎はいつもの調子で宗十郎に話しかけてしまった!宗十郎の反応で我を取り戻し、その表情は青ざめていく。
「そ、その……凄いなブシドーというのはやはり!な!宗十郎!ユウさんは格好良かったと思うぞ!」
必死にカーチェはフォローするが項垂れた宗十郎はただただ「言われずとも師匠は元から伊達男であるぞ……。」と呟いていた。





