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穢された情景

 「改めて自己紹介をしよう。俺はイアソン。この世界では異郷者と呼ばれているようだ。オルヴェリンの住人ではないのだが……やはり罪なき人々が魔獣に襲われているのを見て見ぬふりができなくてな。」


 イアソンは手を差し出した。握手である。この世界でも共通の文化があり、宗十郎は安堵した。


 「どうも、拙者は千刃宗十郎。お主と同じく異郷者と呼ばれている。この街では騎士とやらについているものだ。」


 宗十郎の言葉にイアソンは驚いた様子を見せた。


 「変わった技を使うと思えば、なるほど異郷者か!そしてこの街の騎士だったとは、なるほど。では忠告しよう宗十郎。ハーピィは嫉妬深い。ハーピィの巣の近くでコンサートなんて開くのは自殺行為だぞ?あのオルフェウスだって避けている。」

 「巣?近くにあの怪物の巣があるのか?」

 「知らなかったのか。そのとおりだ。ハーピィは集団生活を好む。この一匹を殺したところで、他のハーピィがまだ巣にはいるぞ。」


 なんということか、ハーピィの巣の近くだったのだ!確かに家の近くでこのような騒音騒動を起こせば気になって様子を伺いたくなるもの。此度の事件は人が招いた悲しき惨事だったのだ!


 「カーチェどの、聴いていたか?コンサートは中止するべきだ。」


 観客を避難させていたカーチェとリンデが宗十郎に駆け寄る。


 「ハーピィの巣が近くにあるだと!?街の役所は何をしているのだ……そんなところでコンサートを許可するなど。イアソンと言いましたか。協力感謝します。ハーピィの巣は掃討しなくてはなりません。」

 「ああ、それが良い。見ろあの山だ。あそこにハーピィの巣がある。耳栓を忘れるなよ。」


 イアソンが指さした先は巨大な活火山!なるほど気づかないわけである。あのような危険なところに調査など誰もしたくないからだ。


 「ところでイアソンさん……もしよろしければ我々とともに……。」

 「ああ、オルヴェリンの力になってほしいということか?それは駄目だな。聞くところによるとお前たち、異郷者を集めて街に保護しているようだけど……何を企んでいるんだ?」

 「企みも何も!私たちはあなた方のような善なる異郷者とは別に悪の異郷者と戦うために戦力が欲しいだけだ!」

 「……なるほど?まぁしかしお断りだ。俺はしばらく一人でいたいんだ。今まで色々なものを背負ってきていたからな。」


 そう言ってイアソンは立ち去る。ジークフリートのときと同じだ。またもや勧誘に失敗してしまった。


 「どうだ宗十郎、あいつとは……また会えそうか?」

 「……イアソンどのからはジークフリートどのとはまったく別の雰囲気を感じる。あれは……死人しびとだ。」

 「しびと?」

 「死に場所を求めているということだ。戦っている時の彼の目には光があった。まるでこれが自分の生き方であるといわんとばかりの。だが先程の彼はまるで別人だ。その瞳の奥にはただ深い絶望と悲しみ……恐らくはとてつもない悲劇に遭遇したのであろう。」


 故に……再会できるかは半々である。彼は一人命を絶っているかもしれないからだ。だが……これは宗十郎の個人的な感情であり、ブシドーとはまるで関係ないのだが……イアソンという男は、それを乗り越える力があると思っている。ハーピィとの戦いで見せていたあの輝きは、決して死人のものではない。そして彼は言っていた。「罪なき人々の助けに応じた」と。それはまさしくブシドーに通じるものがある。ならば大丈夫だ。己のブシドーを信じ続ける限り、決して負けることはないのだと。


 コンサートは終わりも間近であったことから、これにて終わりを迎えようとしていた。だが観客たちは解散しようとせず、別の会場へと向かっていく。


 「む……?第二幕でも始めるのであれば止めたほうが良いのでは……ハーピィの巣があるのだろう。」

 「いや、あれは違うよ宗十郎。チケットを見るんだ。ほら、ここに握手券とあるだろう。チケットの中でも高い金を払った観客にはこうしてサービスがあるんだ。私たちは恐らく、謝礼品だから……ご丁寧に一番グレードの高いチケットをくれたんだろうな。」


 そう!ゆうゆうのコンサートチケットにはグレードがあり、一定以上のグレードには握手券がついている!勿論ゆうゆうの負担を考えて、抽選で行われており限りがあるため、ファンの間では苛烈な競争となっているプレミアムチケットなのだ!

 そして、宗十郎たちが此度貰ったチケットは握手に加えて撮影とフリートーク付き!これはファン垂涎のものであり、このチケットのために血が流れるとかなんとか!そしてこのチケットを得られたものはファンから羨望の眼差しで見られるのだ!!


 「なるほど……フリートークというのは良いな。コンサートでは顔すら見れなかったが、舞踊であれほど熱狂的に人を惹きつける達人。何かコツというものがあるのならば是非聞いてみたい。」


 それは当初の目的。これほど人を惹き付ける達人の技を吸収すること。ブシドーに通じるものがあるかもしれないからだ。先程から宗十郎のブシドーセンスも高らかに反応している。これはきっと素晴らしき達人級マスターがいるに違いないと期待が高まる。


 列は長蛇の列だった!握手できる場所はパーティションに囲われており一種の目隠し状態となっている!ファンへの配慮なのだろう!


 「前々から思っていたが男性比率が多いのだな……女性もいることはいるが。」

 「アイドルとはそういうものだ。ただゆうゆうはファッションモデルもしていることから女性ファンが多い部類らしいぞ?騎士団の中にもファンがいたな……。」

 「なるほど、性別問わずして惹きつける舞踊ということか。これは期待が高まる。」


 そう宗十郎は完全に勘違いをしていた!ゆうゆうが評価されているのは舞踊ではなく、その容姿容貌と真摯なファンサービス、可愛らしい仕草に他ならない!当たり前のことだがブシドーとはまるで無関係なのだ!

 カーチェは正直な話、逆に楽しみになっていた。ここまで勘違いを続けた彼が、そのギャップに遭遇したときどんな反応をとるかを!でなければこのような異臭漂う場所からは真っ先に立ち去りたいのだ!


 「次の方どうぞ……ん?これは……おぉあなた方はゴブリン討伐の方ですか。うちのゆうも凄く感謝しています。ちょっとお待ちを、事前に伝えておきたいので。」


 黒服にチケットを渡すと事務的な態度がガラリと変わり、パーティションの中に入っていった。


 「なるほど、義理人情に厚いのだな、ゆうゆうとやらは。ブシドーである。」

 「まぁ今どき珍しい良い子だという評判は聞くな……どうせ男の前だけだろうけど。」


 ふてくされた顔でカーチェは愚痴る。一体、ゆうゆうに何か恨みでもあるのだろうか!

 しばらくして黒服が戻ってきて案内する。宗十郎たちは意気揚々とパーティションの中に入ったのだ!


 「お初~あなた達がゆうの依頼を叶えてくれたんでしょ?ほんとマジ感謝!ゴブリンたちって臭くてうざくてさぁ~、ファンの皆には言えないけどぉ……そういう男の人ってあ……た……。」


挿絵(By みてみん)


 軽い調子で話す彼女は若々しい女性であった。この世界では珍しい長く黒い髪は手入れが行き届いていて艷やかで、露出の多い格好でいかにも今風の若者といった様子だ。口調も軽い調子ではあるが芯のある発声で聞き取りやすい。

 だが彼女は宗十郎の顔を見た瞬間、その笑顔が唖然とした表情へと変わる。恐らくは少ないとはいえ返り血を浴びている宗十郎を恐れてのことだろう。

 それも少しのことだった。すぐに気を取り直したかのように、笑顔を見せた。プロだなとカーチェは内心感じた!そして宗十郎の反応をニヤケ面で見る!


 「ひょっとしてしゅう!?マジで?超久々じゃん、やば超エモいんですけど!」


 彼女は満面の笑みで宗十郎に手を握った。


 「し……しょう……?何を……しているのです……?」


 宗十郎は困惑していた!それは別の意味でだ!彼女とは初対面である!初対面であるのだが!知っているのだ、外見こそは違えどその姿はブシドーを通じて!そう、その名は細川幽斎ほそかわゆうさい!かつて教えを学んだ、宗十郎の師である!


 「何ってぇ、アイドル活動だけどぉ?でも残念だなぁ、くっさいゴブリン退治してくれたのがシュウだったなんて運命的なの感じちゃうしぃ、キスの一つでもしてあげてもいいかな?って思ったんだけどぉ……ハーピィ殺したのもシュウだよねぇ?」


 周囲の空間がおかしいことに気がつく。ここはパーティションで仕切られた個室!ただの仕切りである!だというのにまるで……まるで密室に閉じ込められたかのような閉塞感を感じるのだ!

 刹那!宗十郎は殺気を感じた!身を翻し回避する!ブシドーリアクションである!それは刃物だ!剣が自分に向けられている!あろうことか、師匠であるゆう……もとい細川幽斎から!


 「師匠、これはどういうつもりか。」

 「どうもこうもないけど?計画の邪魔をするなら殺すしかないじゃん?あ、ごめんごめん。聞いてなかった。あたしと一緒に、このオルヴェリンを攻めない?何ならほらぁ……ちょっとだけなら、ゆうのこと好きにしてもいいよ?」


 誘惑するかのように、スカートをたくし上げ太ももを見せつける幽斎!それは娼婦のそれであり、宗十郎はひどく混乱していた!そもそも何故、老齢の男性である師匠が女性になっているのか……そこからして意味が分からないのだ!

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過去作品(完結済み)
追放令嬢は王の道を行く
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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴブリン討伐からまさかのアイドルコンサート! オルヴェリンすごい。 そしてそのアイドルが… こんな可愛いのに宗十郎のお師匠さま! そのまま転移じゃなく転生したのかしら? ほっといてもハー…
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