エピローグ(後編)
オルヴェリンと亜人連合軍の戦いのあと、宗十郎は一躍有名人となっていた。神経はズタズタになり病院に入院している間も、新しいオルヴェリンの中心にすえるべきだという声もあった。
だがその名声を全て断った。此度の出来事は一人で成し遂げたものではない。故に祭り上げるようなことはやめてほしいということだった。
それでも彼を慕う声はあったが、それも一時のこと。時間が経つにつれ、宗十郎の名前は人々から忘れ去られていった。
そして退院が近づいた日。カーチェやイアソン、亜人連合軍に関わったものたち、ノイマン、多くの人が見舞いに来て、彼を勧誘する。
「何をやるのか決まらぬのか?」
病院の屋上で宗十郎は師匠に相談をしていた。多くの人々に声をかけられているが、どれも今ひとつ乗り気ではない。というのも一つの大きな目標を成し遂げたが故に、次の目標を見失ってしまっているのだ。
「どれも魅力的だとは思います。ですが……どうもピンとこなくて。」
「は?リンデと婚姻を結び家庭を作ることがみ、魅力的だというのか!?」
幽斎の口調が変わる。失言だった。
そういえばリンデからはそんな話であった。他にも竜族の巣に来いだの、オルヴェリンのフリーギルドに所属して欲しいだの、改めて騎士としてきて欲しいだの……。様々だ。
「い、いや流石にリンデの話は飛躍しすぎというか……。ともかく皆、いい人ばかりで。」
「ふむ……簡単なことだシュウ。お前は多くの人々を、虐げられている人々を救いたいのだろう。よく見るのだ、この街を。」
街は今も復興が続いている。その中にはヤグドールの後遺症に苦しむ人も大勢いた。
「我々には我々にしか出来ぬことをするのだ。今、彼らに必要なのは心の救済。そしてヤグドールとかいう奇天烈な存在からの解放だ。」
「なるほど……。しかしヤグドールから受けた傷は深くそして広いです。拙者ら二人ではとてもとても……一体どれだけの時間がかかることか。」
「案ずるな。多くの人々を同時に、そして心もヤグドールから受けた傷も癒やす術はある。」
「!……さすが師匠です。してそれは一体……?」
宗十郎の問いかけに幽斎は得意げな表情を浮かべ答えた。
「アイドル活動を再開するのだ。」
こうして幽斎はアイドル活動を再開し、宗十郎はマネージャーとしてつくこととなったのだ。
「いや、しかし意味がわからないな。何度聞いても。ユウさんに騙されているんじゃないか?大方、宗十郎を手元に置いておきたいとか……。」
「愚弄するか、カーチェ!師匠がそのような浅はかな考えなわけなかろう。そもそも師匠が他者を出し抜いてまで俺を必要とするなど自惚れも良いところ!そうですよね師匠!」
宗十郎のその言葉に一瞬の沈黙。
半分図星であった!それ故に笑顔でごまかしているが冷や汗を幽斎は垂らす!愛弟子の怪訝な表情が心を傷ませる。
「ふ、ふっ……バカを言うな。カーチェも見たであろうブシドーにより、人々の心蝕む病魔が浄化されたのを。儂はこうして大勢の人々が集まる場所を敢えて作ることにより、より多くの人々を救うという効率的な手段をとったにすぎん。」
「おぉ……なるほど流石師匠!よもやこのことを見通して最初からアイドル活動を……?」
「!……そうそうそれそれ!分かってるじゃん!!」
実際のところ幽斎がアイドル活動を再開してから街での犯罪や不満は減ってきている。言い訳のような振る舞いだが事実として効果が出ているので何とも言えないのだ。
「まぁ……わかったよ。しかし宗十郎、マネージャーとやらもいいが依頼もたまっている。未だにオルヴェリンへの脅威は残っている。お前と私でなくては出来ないような難しい仕事もな。」
ビラ紙を渡される。そこにはハーピィのような魔獣討伐や、連続怪奇事件の解決……どれも並大抵のことではなさそうだ。
「む……確かに今の仕事は別に俺でなくとも間に合うのが多い。ふむ……予定を見ても今日のコンサートが終われば余裕はあるし……師匠?」
気がつくと幽斎がアイドル衣装からいつもの服に着替えていた。早着替えである!
「シュウよ、修行はまだ終わりではない。そんなことをしている余裕はない。今すぐ二人で山籠りを……。」
「し、師匠!?アイドル活動で人々を救うという大義はどうしたのですか!!?」
「うぐっ!ぐぅぅぅ……!」
苦虫を噛みしめるかのように苦悶の表情を浮かべる。そこにタイミングの悪いことにスタッフがやってきた!そろそろ本番が始まるというのだ!
「師匠、冗談はともかくとして今は師匠を待っているものがたくさん待っています。拙者、ここで応援しています故!」
「わかった……わかったよ!だがシュウ!いいやカーチェ!お前たち絶対にここから立ち去るなよ!その依頼とやら!儂も参加する、嫌とは言わせぬぞ!」
指を差しながらそう宣言する幽斎。リンデはムッとしているが、カーチェからすると願ってもいない提案だった。しかし彼女の多忙さは知っている。
「しかしユウさん、アイドル活動があるのでは……。」
「四六時中するわけでもないだろう!アイドル片手間にクエスト消化!!絶対に引かんぞ!!」
そして仕切りの奥に向かい数秒でまたアイドル衣装に着替え直す。とてつもなく早い着替えだ!
「シュウよ、お前はそのモニターで儂の勇姿を見ておくことだ!くれぐれも余所見をするなよ?」
「勿論ですとも!ご武運を祈っています師匠!!」
コンサートが始まった。先程とはまた人が変わったかのようにかわいらしい声と仕草で観客を沸かせている。
「やはり師匠は凄い、このような過酷な労働を自ら課すとは。ブシドーの鏡。ストイック精神であるな。」
「いやまぁ確かにストイックなのは認めますけどねぇ……。」
モニターをじっと見つめる宗十郎に愚痴るようにリンデは呟いた。
劇場の賑わいは外まで響き渡る。その様子を遠くで眺めている者たちがいた。
「まったく大したものだ、ブシドーというのは。結局俺の出番などほとんどなかった。この街はもう大丈夫だろう。少なくとも彼らがいる限り。」
ジークフリートは呟く。元の世界で英雄……勇者として呼ばれ、生き続けてきた彼は、この世界でもまた人の助けになろうと思っていたが、その必要がまるでなかった。
「お前は俺とは違う。別に確執もあるわけではない。なのにあの街に戻らないのか?魔王?」
その傍らには魔王と呼ばれた男がいた。最早その名も意味はなく、名無しの男。
魔王と勇者。対極である存在が肩を並べ、遠巻きにオルヴェリンという大都市を眺めている。
「俺は、俺たちはあそこにはいられない。いたらきっとまた悪い方向に未来は動き出す。」
「……?それはどういう?」
「言葉のとおりだ。俺たちがいなくなっても、宗十郎たちはきっと、あの場所でずっと物語を紡ぎ続ける。それは希望か絶望か……未来は彼らだけで紡ぎ出さないといけない。そこに俺の存在はただのノイズでしかない。」
意味深なことを呟く魔王にジークフリートは疑問符を浮かべるが敢えて聞かなかった。彼の背景はきっと複雑で、多く語れない事情があるのだろう。
「ならばせめて、お前の本当の名前を教えてくれないか。命を賭して共に戦った英雄の名前が"魔王"だなんて、少し"物語"としては寂しいものだろう。」
魔王の"物語"という言葉を借りて問いかける。魔王はしばらく悩んだが口を開いた。オルヴェリンの誰にも言わないという約束をした上で。
「俺の名前はアラン。アラン・フォン・ノイマンだ。これ以上は語るつもりはない。さらばだ、もう二度と会うことはないだろう、異郷者ジークフリート。」
アランは空高く飛翔して空の果てへと消えていった。その姿をジークフリートは消えるまで眺め続けた。
彼の言う通りだろう。ここからの物語は英雄が関わるものではない。オルヴェリンの人たちはきっと、これから強く生きて行くだろう。この熾烈極まりない戦いの果てに、多くの人々が傷ついたが、それもきっと長い歴史の中での一時の出来事。
ジークフリートは荷物を持ち、オルヴェリンに背を向け歩き出す。さらばだオルヴェリン。お前たちの物語を、俺はいつまでも忘れない───。
ご愛読ありがとうございました!
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本作は主人公の性格や世界観、色々あって書きやすくて楽しかったです。
大きな物語の締めくくりなので完結としましたが、気が向いたら続編的なものをまた書くかもしれませんね。





