深淵からの生誕
鳴り響く衝撃音。電磁誘導式加速装填砲は直立にオルヴェリン中央庁に偽装されていた。発射先は真下。地面に向けて放たれたのだ。異世界から集めた生命力をエネルギーへと変えて。
「急ぎましょうぞ宗十郎さん!五代表どのの狙いはコレだったのです!なりふり構わなかったようですなぁ!よもやよもや、一番威力を発揮する頂点からの射出を諦め、中途半端な位置から無理やり発射するなど!!」
「どういうことだノイマン!説明しろ!」
「細かな説明はあとですとも!今は全力でこのレールガンが放たれた先に急ぐのです!そして警戒を!敵は……まだいますぞ!」
ノイマンはジェットを逆噴射して急降下する!その速度はもはや音速ジェット機のようだ!ロープで固定されているアリスは顔面蒼白であった!当たり前である!
そしてそれを追いかけるように宗十郎も落下しながら駆け抜ける!ノイマンがこんな時に嘘をつく男ではないと分かっているからだ!
行き先は地下深く。宗十郎が崩落した床から辿り着いた封印された地下室よりも更に奥深い場所であった。電磁誘導式加速装填砲により空けられた大穴からはまるで深淵の闇のように先が見えず、深い深い穴であることが容易に想像できた。
宗十郎たちは穴に飛び込む。深い深い闇の中、光すら届かぬ深淵。明かりはノイマンの照らす光魔法のみ。そうして最奥に下りた。不気味な寒気を感じた。明かりが周囲を照らすと何やら彫刻物がいくつか見える。神殿のようである。いいや、これは彫刻物ではない、死骸だ。あらゆる生き物の死骸を練り硬め、壁や柱としているのだ!悪趣味極まりない!
地面には血痕。奥へと続いていた。その先にあるのは扉。両開きの巨大な扉である。
「この扉を越えるもの、一切の希望を捨てよ。」
「なんだそれは?」
「んん、我が世界の詩の一節です。地獄への門を説明するもの。いやいや不思議な話ですね、門が喋るなど、ありえぬ話。詩人というのは想像力豊かでなくては務まりませぬ。」
扉を見る。それは明らかに危険であることが、触らずとも分かった。触れれば並のものならば発狂も免れないであろう。
「この先に、いるということか。」
「いかにも……しかし参りましたな。私の魔法で扉を開く機械を即席で作ろうと思っていたのですが、周囲の壁面、柱は全て有機物。ううむ、これでは些か設計が難しい……。」
「問題ない。」
宗十郎は扉に手を当てる。瞬間流れ込むのは精神汚染的な何か。
「失せろ!」
叫んだ瞬間、扉が吹き飛ぶ!発剄!ブシドーの基本タクティクスである!掌底に蓄えたブシドーをただ前方に放つのみ!その絶大なブシドーに扉は叩き壊されたのだ!
なお、当然のことながらブシドーに精神攻撃の類は通用しない!このような小手先でブシドーを倒すこと自体、笑止千万なのだ!
「……五代表どのには同情しますな。いやいや、これはまさしく天敵。ですから……このような真似をするのですな。」
壊れた扉の先、大きな部屋だった。そこにはおびただしい数の円柱状のガラスケース。中には人型の生命体がいる。実験室のようだった。
「なんだこれは?とりあえず破壊するか。」
宗十郎はサムライブレードを一閃!瞬く間に破壊され、中の培養液が滲み出てくる!
「その判断は正解です。ここはヤグドールの実験場。五代表がサンプルを送り込み、生命を弄んだ場所です。科学者として到底許されぬこと。まったく……私はこの世界に叡智を授けましたが、倫理を学ばせるには些か遅すぎた。科学と倫理は同居するもの。倫理観が未熟なものに科学を与えれば……凄惨な悲劇が起こる。ああ、嘆かわしい。」
そうぼやきながら、周囲を見る。特に地面。血痕は消えている。何らかの手段で治療したか……とノイマンは分析する。どこかに潜んでいるのならば、このおぞましい実験場を破壊するのも兼ねて丁度いい。だが……潜むだけではないとしたら。
そして見つけた。奥の操作盤の前で、しがみつくように操作をしている五代表エドワードの姿を。
ノイマンは銃を抜く。この程度では殺せないのは分かりきっているが時間稼ぎにはなるはずだ。
「宗十郎さん!あそこです、五代表に今こそトドメを!」
そう叫びながら銃弾を躊躇なく連発した。弾丸は全てエドワードに直撃!天才的エイム力である!だが……。
「ノイマン……どういうことだ?奴は奴は死んでいるぞ。」
既に宗十郎はこの部屋に入った時点でブシドーサーチは済ませている。だというのにエドワードの気配がなかったのが不思議であった。しかし、今ノイマンの指さした先にいるエドワードの死体は紛れもなく生きている。生きた死体……リビングデッド……!いいや違う。あれはエドワードであってエドワードではない。似て非なる存在となっているのだ!
───五代表たちが求めていたのはエムナの圧倒的力。そこに変わりはない。かつてエムナを喰らうことでその力を得ようとしたが、肉体は耐えきれず変異を起こした。
であるならば……肉体そのものを作り出せば良い。いかなる力にも耐えうる頑強な肉体を。最初は小動物から実験していき、そして実験は人間にも手を出していき、ようやく完成は近づいた。言うならば、幽斎やリノンは試作品!全てはこの時のために!
装置は既に稼働していた。やり方は簡単なものだった。エムナを喰らった自分たちが集い、一つの肉体に宿る。エドワードは、次々と亡くなっていく仲間たちの核を託されていた。捧げるのだ!全てはあの完成された肉体に!
手を伸ばす。その肉体に……完成された肉体。真なる人へと、高みへと!
しかし宗十郎は見た。その悲惨な壮絶な現実に。彼らが追い求め続けた、悠久の時をかけて作り上げた芸術品……至高の肉体……その筈だった。
至高の肉体にはヤグドールの触手が既にまとわりついていたのだ。寄生済だった。良き餌だと。ヤグドールは既に看破していたのだ。五代表たちの狙いを。ならばその力、思う存分使ってやろうというのだ。
「エドワード!よせ!そこから先は……!!」
閃光!突然の閃光である!宗十郎の叫びは届かず、新たな生命が誕生しようというのだ!死にかけの老人であったエドワードの身体はまるで繭のように光に包まれ消えていく!同化!溶け込んでいったのだ!
そして光はしばらくして消えていく。そこに立っているのは一人の若い男性のようであった。ようだ……というのは、生殖器が見当たらない。即座にボロ布のようなものが纏われていく。
そこには最早五代表の面影はまるでない。そしてエムナの面影もない。ただただ強大な存在がこの空間に鎮座していた!





