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離してしまったこの手

 「しかし何という数だ……いくらなんでも多すぎる。フェアリーとは一体……。」


 階段を上りながら見下ろすと、街には無数のフェアリー。まるで蟲のように群がり続けるそれに気味の悪さを感じる。


 「彼らはヤグドールの尖兵のようなものですな。聞いていませんか?彼らは人間を好み繁殖する……それは親であるヤグドールの意思に他ならないのですよ。かつて大昔、寄生先として決めた相手を狙い続けているわけです。」

 「エムナからもその話は聞いている。だがどうして、連中はまだ活動を続けているのだ。ヤグドールとは先程アークベインが仕留めた巨大兵器ではなかったのか。」

 「いかにも。核は確実に破壊したはずです。言うならば今残っているのは残照のようなもの。故に悪あがき……だとは思うのですが、確かにタイミングが良すぎる。まるで、まるで何か別の……。」


 しかし、その結論を出すには情報が足りない。ノイマンがこの世界に転移してきたのはエムナと比べてあまりにも短い。エムナから様々な話は聞いていたが、それでも彼が隠し事をしていたのは察していた。

 何故ならば、ヤグドールという存在はずっとこの世界の奥深くに脈動しているからだ。言葉に出してしまえば、それは全て知られてしまう。故に企ては胸の内にずっと秘め続けなくてはならなかったのだ。


 長い長い階段を上り、小部屋の扉を開ける。そこには五代表たちがいた。


 「諦めろ。お主らの策は全て瓦解した。その首、大人しく差し出すのならば、せめて楽に殺してやろう。」

 「はぁ……!はぁ……!ふざけるな……ふざけるな……!こんなところで、こんなことがあってたまるか!我々は悠久の年月をかけて、ようやく掴みかけたのだ!願望を!それを……それをこんなところで、終わるなど……ありえるかッ!!」


 レバーを引く。それはノイマンも知らなかったこの中央庁の仕掛け。巧妙に隠し続けた彼らの保険である!

 突如の浮遊感。足元がおぼつかない。建物は大きく崩れ始めているのだ!


 「死ねば諸共ということか!その意気や良し!だが……ブシドーにそれは通じ……!」

 「ひぃぃぃぃぃぃいい!!い、いや……!し、死ぬ!!た、たすけてくださいぃぃ!!」


 甲高い女の声。ノイマンの助手とかいうアリスの声であった。


 「アリスくん!スカイダイビングは初めてかね!?いやこの場合バンジージャンプか!?叫ぶのは逆に危険だぞ舌を噛むかもしれないからなぁ!!」

 「ノイマン!アリスは大丈夫なのか!?」

 「いいや、この高さからの落下……死は免れまい。まぁアリスくんは私に任せ給え。そんなことより見よ宗十郎!これは、心中ではない!ハハハ!大方察しはついていたが、何とも大胆なやり方だ!」


 ノイマンが指さした先は崩れ行くオルヴェリン中央庁、中央の柱!ただ崩れているのではない!全ては本来の姿、役割を露出するため!邪魔な外殻が崩れ剥がれていき、その真の姿を現すのだ!


 「これは……電磁誘導式加速装填砲!?」


 電磁誘導式加速装填砲とは並列した二つのレールに電流を流すことで電磁力を発生、そのエネルギーにより装填した弾丸を加速させ射出させる装置である!その原理は、レールの長さが長いほど!充填されるエネルギーが大きいほど!爆発的に威力は上昇する!

 城壁の外からも見えるほどの巨大高層ビルであったオルヴェリン中央庁の高さに等しい長さのレール、そして充填されるエネルギーは他世界より略奪し続けた無限のエネルギー!既に装填準備は整っていた!


 「ほう!?類似した技術が既にあると!?大変興味深いなぁそれは!ならば我々のすべきことは分かるだろう!見ろ五代表の連中を!」


 ノイマンは再び指をさす!五代表たちは器用に瓦礫の山をかいくぐり、電磁誘導式加速装填砲の方へと近づいてきている!恐らくはあれを操作し、発射するつもりなのだ!

 恐るべきはそのかいくぐり方である!最早、正体を隠すつもりもないのか、身体の一部が青白い触手へと変化しているのだ!


 「……!させるかぁ!」


 瓦礫を掴み五代表に投げつける!直撃!五代表の一人はバランスを崩し落下していく!


 「宗十郎!おのれぇ!おのれおのれ!どこまでも邪魔をするか!」

 「お主らが何を企てているかは知らぬが、往生せよ!」


 サムライブレードを展開!更にブシドーを注入しナノマシンを飛散!大気中にサムライブレードのナノマシンを散布することにより擬似的にブシドー力場を展開するのだ!これによりブシドーステップによる擬似的な空中歩行を可能とする!


 「おお!凄いぞアリスくん見ろ見ろ!これがナノマシンか!?あのような簡単に、いとも容易く空を飛ぶ……いや歩くなど!素晴らしい!素晴らしいなぁ!」

 「神様……私が前世でどれだけ悪徳を積んだのか知りませんが……今まで悪いことはそんなした覚えはないので来世ではマトモな人生をお願いしますぅ……。」


 五代表を追いかけ空中を歩行する宗十郎とは対照的に落下していくノイマンとアリス!興奮するノイマンを無視してアリスは完全に生きることを諦めていた!


 「いいや!来世はまだだぞアリスくん!だって見ろ!世界はこんなにも興奮と神秘に満ち溢れている!だというのに……こんなところで終わるなどあまりにも勿体ないではないか!忘れたか!このオルヴェリン中央庁は私が設計したのだ!土よ!風よ!運べ!そして我が天才的頭脳のもとに!その姿組み換え、新たな姿を顕現するが良い!!」


 崩れ行く建造物の瓦礫、その一つ一つが別のものへと変容していく。土の高等魔法、物質の元素結合を組み換え別の物性を持つ物質に高速変換!そしてそれを器用に風の魔法で組み立てていく。設計図は……ノイマンの頭の中だ!

 無詠唱高等魔法とノイマンの卓越した科学力。この二つが合わさって初めて実現したこの能力!錬金術師のように作り上げたのだ!ノイマンたちの落下速度が弱まる。重力に抵抗しているのか……違う、浮いているのだ。ノイマンは操縦桿を握り、その頭上には巨大なプロペラが大きな音を立てて回転し、宙に浮かんでいる!


 「ありあわせで作ったものだが、名付けるのならば一人用可搬式航空機と名付けようか!」

 「えっ……ひ、一人用……?」


 何とかノイマンの腰にしがみつき落下を免れていたアリスだったが、不穏な言葉が聞こえた。

 この男は私を突き落とすつもりだ。間違いない。どこまでも自己中心的な男なのだから、平然とそういうことをする。

 死にたくない。そんなのは嫌だ。……やられる前にやるしかない。しがみついた手の力が緩む。操縦桿を奪ってしまえばこちらの……。


 そんなことを思った矢先だった。アリスはノイマンに掴まれ操縦桿を握らされる。


 「えっ。」


 そしてノイマンはいつの間に自分の手元から離れていた。自分から手放したのだから当然。だが、自らの意思でここまでした覚えはアリスにはない。


 「そうだ、一人用だアリスくん。残念ながら材料不足でね。"君の分しか用意できなかった"。操縦法をレクチャーできないのが残念だが、簡易にはしたつもりだから身体で覚えてくれ。」


 そう言っていつもの澄ました笑みを浮かべ落下する。最低限伝えるべき言葉を伝えて。そして再び落下していく。


 「まっ……!!」


 手を伸ばすが既に遅かった。微塵にも思っていなかった。あの男が、自分の命よりも他人のために命を投げ捨てるなど……。いや、そもそも自分はノイマンという男のことを全然知らなかった。開発局の変わり者、異郷者の中でも希有な変人。

 だが……だが……そうなのだ。彼がもたらしたものは全て人々に、他人に幸福や安穏を与えるものばかりだった。それは単にオルヴェリンという大都市だけではない。彼は人々がどう生きるべきか、助け合いの精神や無償の愛という道徳、倫理観を教えてくれた。飢餓に苦しむ人々のために率先して、農家の人たちと、お父さんたちと一緒に肥料や品種開発に毎日泥だらけになっていた。


 ああ、そうだ。私がまだ田舎にいたとき、オルヴェリンから来たという偉い人が、どうして泥だらけになりながら、笑顔で、それでいて真剣に皆の声を聞いていたのを見て、偉い人の中にも良い人はいるって、教えてもらった。


 どうして、どうして無関係な、異世界の自分たちにそこまでしてくれる人が……悪い人間だと思うのか。


 『アリスくんは私に任せ給え。』


 宗十郎という恐ろしい異郷者に対してノイマンはそう答えていた。それは……それがそんな意味だったなんて、思いもしなかった。


 「まだ……告白の返事だって……してないのに……!」


 落ちていくノイマンを最後まで見ることが出来なかった。目の前が滲んでいく。涙と後悔の念が止まらなかった。


 「ノイマンさんの……ばかぁ……!!」

 「え!!?私が馬鹿!!?それは聞き捨てならないぞアリスくん!!」

 「ふぁぁ!!!?」


 すぐとなりにノイマンがいた。何か背中に機械のようなものを背負っている。バーナーみたいに火が吹き出ている。


 「そ、それなんですか……?」

 「これか!?今作った!一人用可搬魔導式ジェットパック!私の無詠唱魔法による炎と風の魔法を複合させて擬似的にジェットエンジンを再現したものだ!」


 本来であれば二人用の乗り物を作り宗十郎を追いかけるのが一番だった。だがこの落下していく中、流石の天才ノイマンもそこまでのものは作れなかったのだ。故にまずは完全に機械式で動く……即ち誰でも操れる乗り物をアリスのために作り、自分は魔法を利用することで必要部品数を可能な限り削った飛行装置を作り上げたというわけだ。


 だがそんな理屈がこの土壇場で理解できるはずもなく……いや理解はできるが感情が追いつかず、アリスは肩を震わせる。


 「バカですよ!バカバカバカ!」

 「!?……なんだとぉ……!い、いやそれは後だ!アリスくん!私がバカではないことは後で小一時間、教授議論して結論を出すとして!今は宗十郎さんを助けに行くぞ!!付いてこい!!」


 ノイマンはロープのようなものを投げつける。それは三つに分かれてアリスの搭乗する飛行装置に絡みつき固定!三点確保!非常事態であろうと、大事なことである!そして加速!魔法を使ったノイマンのジェットパックは、ありあわせの物で作ったアリスの乗る飛行装置よりも遥かに出力が段違いなのだ!アリスの悲鳴とともに、ノイマンは向かう!五代表と宗十郎のもとへと!

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