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相まみえる邪悪、その名をファフニール

 だが怪生物もまた異郷者。この程度でやられては矜持が許されない。たかが皮膚の表面を焼いただけで、得意顔をしてもらっては困るということだ。しかし今ので分かった。目の前の男は、自分の命に届きうる、怪物の類であると。


 「なるほど、貴様も異郷者の類であったか。人のような姿をしておいて、その中身はまるで別物。」

 「否、拙者は人である。ただの人ではない、ブシドーである。ブシドーならばこの程度の技は朝飯前。成人を迎える童であろうともこなせる子供だましよ。理解したか?一騎打ちを申し出た以上、不意打ちのような卑怯な真似はせぬ。それはブシドーとしての本懐だからだ。改めて問おう!貴様の名を名乗れぃ!!」


 そう、今の雷光ブレイドは挨拶代わり。力を見せつけるだけの、ただの小手調べ。怪生物の表皮を焼いただけに留まったのは決して宗十郎の実力が未成熟だからではないのだ!


 「ふはは、なるほど。名か。貴様はどうやら我が名に拘る様子。"ぶしどー"と言ったか?良いだろう。我が名はファフニール。この世界に喚び出された異郷者と呼ばれる存在である。この世界を知るためにしばし身を潜め、暇つぶしにゴブリンどもをからかっていたのよ。」

 「で、あろうな。貴様のその体躯。聞いた話の食事量で到底賄えるものではない。聞いたことはある。高次元の存在であれば、そもそも食事すら不要であると。」

 「高次元、なるほど良き表現だ。そのとおりであるぞ宗十郎よ。我にとって食事など不要なもの。ただ、我が姿に怯え震えながら律儀に生贄を持ってくるゴブリンどもが愉快であっただけよ。ああ、楽しきかな。生贄が足らぬと言ってゴブリンども自ら生贄になる様子。至極のものだったぞ?次は自分の番かもしれないと、日に日に衰弱していく彼らを見るのはな。」


 上機嫌にファフニールは事の真相を話した。食事など不要。人々のゴブリンの犠牲はただの戯れに過ぎなかったのだ。その日によって必要な数が変わるのも当然のこと。そうして、ゴブリンたちに不安を植え付け、慌て怯える姿を、ただ娯楽として見ていただけに過ぎなかったのだ。

 更にファフニールの力はこれだけに留まらず。高次元の存在故に言葉は全ての生命体に通じる。即ち、宗十郎と会話をしているように見えるが、その実、二人の会話は人語を知らぬゴブリン達にも伝わっていた。無論、わざとである。理由は一つ。もう用済みであるからだ。


 「楽しめたぞ、ゴブリンども。だが終わりだな。もっと面白いものを見つけたぞ。宗十郎。貴様のような異郷者は他にもいるのだろう。ゴブリンを虐げるのも良いが、やはり低次元の相手ばかりしていては腐るというもの。貴様のようなものを相手してこそ……我が力は輝くものよ!!」


 そう言うと、ファフニールの胴体が輝き出す。変化をしているのだ!否、正しき姿に戻ろうとしている。今の巨大百足のような姿は仮の姿!その真なる姿は……。


 洞窟が崩れる!いや、崩れるのではない!ファフニールの巨大な身体によって洞窟の内部ごと吹き飛ばすのだ。空が見えた!洞窟のあった山はファフニールが元の姿に戻ったことにより大穴が空いたのだ!


 「さぁ宗十郎よ!我を倒すのだろう!?来るが良い!貴様の言う正々堂々の一騎打ち!承知した!受けて立とうではないか!!」


挿絵(By みてみん)


 天空にその巨大な翼を広げ咆哮するその姿は巨大な竜であった。威風堂々たるその姿は、まさしく大空の支配者と言って差し支えない!


 「よくぞ申した!ファフニールよ!これより貴様と一騎打ちを受けよう!この身体、塵芥となるまで、魂擦り切れるまで、雌雄を決しようぞ!!」


 その言葉を受けファフニールは不敵に笑う。そして喉元が膨れ上がった。大気の膨張、瞬間的なエネルギーの爆発。ドラゴンブレスである!宗十郎のいる洞窟目掛けてブレスを叩き込んだのだ!その熱量は火山の噴火に相当するかもしれない天文学的なエネルギーなのだ!


 ブレスが叩き込まれる刹那、カーチェの頭の中に走馬灯が駆け巡る。「死んだ」そう確信したのだ。それほどまで絶望的なエネルギー。視界全てがファフニールの放つ巨大なエネルギーで埋め尽くされている。剣士である宗十郎がどうにかできるレベルを超えている。


 それは宗十郎も同じだった。この程度の熱量であれば、ブシドーは耐えられる。温泉サウナで鍛え抜かれた忍耐力がものを言うのだ!だが他のものはブシドーではないし、この世界に温泉サウナがあることも分からないのだ!故にこのブレスを受けてはならない。多少のリスクを背負ってしても、受け流さなくてはならないのだ。


 「良いか宗十郎。ブシドーとは弱き者の剣とならなくてはならない。弱いからと言って、見捨てるようでは半人前のブシドー。誉れあるマスターブシドーは、全てを救って見せるのだ。これはブッダの教えでもあるのだ。」


 亡き父の言葉が浮かぶ。半人前の拙者は殿にも決してこういった護衛任務をつかせてもらえなかった。不徳な己の実力では……守りきれぬと見抜いていたのだ。だがいずれ来る。弱きものを守らなくてはならないときが。この世界全てがブシドーに染まっているわけではないのだと!


 サムライブレードにブシドーを再注入!雷光ブレードをアンインストールして新たなるブシドー殺法を導き出す!訓練されたブシドーはあらゆるものを切断することが可能である!例えそれが実体のないエネルギーの塊であろうとも!


 「父上!いざ刮目してください!これが拙者の成長の証でありますぞ!この切っ先、空穿ち星貫くものである!」


 サムライブレードのナノマシンを空間散布!これにより周辺はサムライブレードと一体となる!シンプルな迎撃!技とも言えぬ単純明快、猪突猛進!ファフニールのドラゴンブレス目掛けて、宗十郎は突きを放つのだ!


 衝突するはサムライブレードとドラゴンブレス!目論見は成功したのだ!宗十郎のブシドーは決してドラゴンブレスに劣るものではない!故に自明の理であり、拮抗勝負のように見えたそれはドラゴンブレスの霧散により幕を閉じたのだ!

 即ち宗十郎の突き一撃で、ファフニールのドラゴンブレスを打ち払ったのだ!


 「い、生きてる……!」


 カーチェは安堵した。死んだと思ったその一撃を、宗十郎は真っ向から消し飛ばした。何が起きたのかは知らないが、とにかく助かったことに……!


 「否!これはただの挨拶!征くぞファフニール!空中戦などブシドーにとって造作もないことを教えてくれよう!!」


 間髪入れず宗十郎は跳躍した。先程見せた小手調べではない!全力の跳躍!遥か高く飛翔するファフニールを捕まえるために!!


 「驚いたぞ宗十郎、だが同時に憎たらしい。貴様のその姿は、あやつを思い出させる。」


 一騎当千とも呼べる人並み外れた戦闘能力、巨大な竜相手にも決して怯まぬ勇敢さ。それはまさしく、奴を、奴の姿そのものだった。我が覇道に立ちはだかった憎き怨敵。


 「だが、跳躍は悪手だぞ宗十郎。自由の効かぬこの宙空で、どう立ち回る!」


 宙を跳んだ宗十郎に対し、ファフニールは容赦のないブレスを叩き込む。それは灼熱の風!通常の生物では瞬く間もなく蒸発し消滅するであろう。その温度、ゆうに数千度は超えるかもしれない!

 炎の嵐、吹き荒れる中、ファフニールは見た。その中でただ一点、輝く閃光を。

 「───まずい。」そう確信した時には手遅れであった。光が走る。否、その姿は宗十郎であった!ブシドーステップである!ファフニールのブレスを足場とし、ブシドー力場を再構築し、足場として活用、爆発的な墳出力による突破、そのままサムライブレードを叩き込んだのだ!


 「馬鹿な!直撃だったはずだ!?なぜ生きている!」

 「このような熱波、我が国では日常茶飯事!ブシドーで非ずとも超セントーのサウナで毎日のように我が国では浴びているのだ!」


 ブシドーの国では伝統芸能としてサウナと呼ばれるものがある!元は南蛮より伝来した民族的儀式であったが、それがブシドーにより独自の進化を遂げたのだ!多くのものが愛し、文化として定着したそれは、若者の間でブームとなることも定期的にある!だがもっぱら中年男性に人気なのだ!!

 そしてそんな彼らにとって、ドラゴンブレスの熱波など日常の延長線でしかない。ましてやブシドーである宗十郎にとってはそよ風でしかないのだ!


 「どんな修羅の国だ貴様の国は!?だが舐めるな、ブレスが効かぬところで我が爪、我が牙が貴様を死に至らしめるのだ!」

 「無論である!このような小手先、小手調べに過ぎぬ!さぁファフニールよ、存分に死合おうぞ!それこそが戦場に生きるブシドーの性分である!」


 サムライブレードの一閃を受けてなお、平然と迎え撃つ!ファフニールにも意地があったのだ!僅かな油断で命取りになるなど、決してありえぬことを!そして何よりも、この男を見るとチラつく、奴の存在が!

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