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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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君が死んだ日の話をしようか

作者: 影津

 君が死んだ日の話をしようか。あれは、梅雨明け間近の七月八日の夜だった。君が深夜の雷の音と同時に弾かれてダイニングチェアを立ったときだね。うん、知ってる。尿意をもよおしたからだろ? 僕は隣で見ていたからね。酷くよろめいていたね。足腰立たないみたいだった。可哀そうに。部屋からトイレまでの道のりは、山登りのようにきついみたいに見えた。


 トイレから戻ってきた君は顔が真っ青だった。咳き込んでいたよね。慌てて熱を測ったら四十度を超えていたっけ? それから情けない声でママを呼んだね。おしっこが茶色かったって。

 

 君の顔が蒼白になりベッドに入り込んだときには、時既に遅し。君のママが救急車を呼ぶ間も、君は息ができないと藻掻いたり、頭が痛いと喚いていたよ。意識も混濁しているみたいで、僕は見ていることしかできなかったよ……。


 君の手足は、凹っこんだあざだらけだった。呪いだ! きっと呪いだよ! 君の背中もぎしぎし痛むよね!? ベッドが軋んでいたよ。


 君は怯える暇もなく咳き込み続ける。君の肺はきっと、もうボロボロなんだ。肺だけじゃない。きっと、内臓のあらゆるところが呪われたんだ。

  

 君は喘いだ。救急車はまだ来ない。手足には蕁麻疹も出ている。頭を抱え込んだ君が、ふと、自分の指に小さな傷がついているのを見てふるえた。囚われている僕と目が合う。そのまま君は救急車に運ばれ、二度と帰ってくることはなかった――。




 どうして君が苦しまなければいけなかったのか。君の亡くなった三日前まで遡った方がいいかもしれないな。君は、死ぬべくして死んだのだから。でも、そのときは僕も君に酷い目に合わされて記憶が定かじゃない。


 最初は君に誘われるまま山登りさせられたな。歩くのも走るのも君が笑うから僕は楽しかった。だけど、君が僕の頭を乱暴に掴んだり、そのまま走ることを強要したりするから、戸惑った。僕たち親友じゃなかったの? 君は、受験勉強でイライラしていたから、僕も手伝ってあげようと思って教科書を覗き込むと、容赦なく僕を弾き飛ばしたよね。


 僕は君に顔面をぐちゃぐちゃにされ、手足もあちこち捻られ頭から水につけられ、君の好きなように弄ばれていた。君は僕をストレス発散に使ったんだ。僕が息も絶え絶えに喘いでも、笑ってやめなかった。僕は声も上げられなくなったときに、君がやっと手を緩めた。室内の蛍光灯が眩しかった。


 君がもう一度僕に触れようとするので、僕は渾身の力を振り絞り、呪いをかけてやった。そう、三日間の呪いが効いたんだ! 僕は君に最高の贈り物をしたんだ。

 


 君は愚かだよね。君は僕に噛まれて死んだんだ。

 葬式が終わって何日か経ってから、君のママがうなだれて投げ落とした君のことに関する病院の診断書を見たよ。僕には意味が分からないけど、僕の呪いのことが書いてあると思うよ。『鼠咬症そこうしょうスピリルム感染症』だってさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「最高の贈り物」ってとこがミソですね! 推理というより、怖いお話でした ><。
[一言] (キュキューッ!!!?)
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