b.凶弾
翼竜の反対側にいた文月もそこに混ざろうとした時だった。ドン!と一髪の銃声が妙にはっきり聞こえたな、と思った瞬間、左肩が熱くなった。足がもつれ、翼竜のつるつるとした腹に倒れ込む。大剣を杖にしようと思っても力が入らず、大剣は翼竜の腹をざっくりと裂いて、内臓がどっぱりと地面にこぼれた。
「やった……ははは、やったぞ、文月を倒したんだ!」
見上げた先にいたのは、もう死人のように灰色になった髪の毛をした、男のドーリストだった。文月は目を細めて少し考え、ハークを拾った日にいちゃもんをつけてきた奴だと思い出した。
「やってくれたな、文月。お前のせいで俺は今回も2位だった。見ろ!」
そう言って、右腕についた機械を見せつけて来る。そこには与えたダメージのポイントと一緒に、確かに2位と書かれていた。文月は自分の機械を見下ろした。そこには1位と書いてあった。
「はっ、なんだ、ちゃんと取れてたか」
思わず笑みが溢れる。「だまれ!」とドーリストは叫んだ。
「お前じゃない、俺が1位になるんだ。そしてこいつの肝臓をもらう。そんでその金で宝石を買うんだ。お前は今から死ぬんだよ」
トドメをさそうとするハンター達の銃声が大きくて、翼竜の体が大きくて、二人のやりとりは周りには聞こえていないようだった。文月は大剣を離して、両手を握った。ぬちゃぬちゃと血の音がする。
「へえ。臆病者がよく2位にまでなれたな。パチパチパチ~おめでとさん」
「黙れ!! 今まで散々馬鹿にしてくれたな、文月。それも今日までだ。じゃあな、文月。クソ女」
ドーリストは銃を構えると文月の頭に向けた。距離にして2メートル。銃を使うにしては近い。避けるのは難しいだろう。どうする? まだ死ねないんだ。今は死ねないんだ。どうする? どうするーーー
ガチャン、とドーリストが装填した。撃つか、と思われた瞬間、二人の間に入って来るものがいた。
ガァン! と金属が弾け飛ぶ甲高い音が響く。この場に似合わないフリルのついたシャツが風圧に翻る。
銃弾はハークの胸を破壊していた。胸部の蓋がどこかへ跳び、露出した宝石にヒビが入った。どろり、と体から宝石のエネルギーを運ぶ特別な液体が流れ始める。
「ドーリスト!? ーーーーいや、文月のドール? なんでーー」
「どけ!!!!!」
文月の怒声が辺りに響いた。
文月は立ち上がるとすぐ様黒いコートを脱いだ。ぐらりと倒れたハークを受け止める。宝石が落ちないようにハークの体にコートを巻きつけ抱き上げると、男の横を通り過ぎて公園から立ち去った。
「文月!? おい、何をーーん? お前、そこで何してる?」
箕作が気づいた時には、銃を構えて立ち尽くすドーリストの男が一人いただけだった。そして彼が見つめる先には、文月の血と黄色い血が混ざった血溜まりが一つできていた。