表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文月往人の透明な彼女  作者: 染井吉野
5.文月往人の透明な彼女
29/32

b.凶弾

 翼竜の反対側にいた文月もそこに混ざろうとした時だった。ドン!と一髪の銃声が妙にはっきり聞こえたな、と思った瞬間、左肩が熱くなった。足がもつれ、翼竜のつるつるとした腹に倒れ込む。大剣を杖にしようと思っても力が入らず、大剣は翼竜の腹をざっくりと裂いて、内臓がどっぱりと地面にこぼれた。


「やった……ははは、やったぞ、文月を倒したんだ!」


 見上げた先にいたのは、もう死人のように灰色になった髪の毛をした、男のドーリストだった。文月は目を細めて少し考え、ハークを拾った日にいちゃもんをつけてきた奴だと思い出した。


「やってくれたな、文月。お前のせいで俺は今回も2位だった。見ろ!」


 そう言って、右腕についた機械を見せつけて来る。そこには与えたダメージのポイントと一緒に、確かに2位と書かれていた。文月は自分の機械を見下ろした。そこには1位と書いてあった。


「はっ、なんだ、ちゃんと取れてたか」


 思わず笑みが溢れる。「だまれ!」とドーリストは叫んだ。


「お前じゃない、俺が1位になるんだ。そしてこいつの肝臓をもらう。そんでその金で宝石を買うんだ。お前は今から死ぬんだよ」


 トドメをさそうとするハンター達の銃声が大きくて、翼竜の体が大きくて、二人のやりとりは周りには聞こえていないようだった。文月は大剣を離して、両手を握った。ぬちゃぬちゃと血の音がする。


「へえ。臆病者がよく2位にまでなれたな。パチパチパチ~おめでとさん」


「黙れ!! 今まで散々馬鹿にしてくれたな、文月。それも今日までだ。じゃあな、文月。クソ女」


 ドーリストは銃を構えると文月の頭に向けた。距離にして2メートル。銃を使うにしては近い。避けるのは難しいだろう。どうする? まだ死ねないんだ。今は死ねないんだ。どうする? どうするーーー


 ガチャン、とドーリストが装填した。撃つか、と思われた瞬間、二人の間に入って来るものがいた。


 ガァン! と金属が弾け飛ぶ甲高い音が響く。この場に似合わないフリルのついたシャツが風圧に翻る。


 銃弾はハークの胸を破壊していた。胸部の蓋がどこかへ跳び、露出した宝石にヒビが入った。どろり、と体から宝石のエネルギーを運ぶ特別な液体が流れ始める。


「ドーリスト!? ーーーーいや、文月のドール? なんでーー」


「どけ!!!!!」


 文月の怒声が辺りに響いた。


 文月は立ち上がるとすぐ様黒いコートを脱いだ。ぐらりと倒れたハークを受け止める。宝石が落ちないようにハークの体にコートを巻きつけ抱き上げると、男の横を通り過ぎて公園から立ち去った。


「文月!? おい、何をーーん? お前、そこで何してる?」


 箕作が気づいた時には、銃を構えて立ち尽くすドーリストの男が一人いただけだった。そして彼が見つめる先には、文月の血と黄色い血が混ざった血溜まりが一つできていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ