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文月往人の透明な彼女  作者: 染井吉野
4.選択肢
26/32

c.心のあるドール


 ピリリリリ、という小さな音は、思ったよりも大きく文月には聞こえた。着信音だ。電話に出ると、相手は焦った声で文月を呼んだ。


「もしもし? 今大丈夫か?」


「ああ、ねーさん。大丈夫だけど、何?」


 まだハークの授業(お喋り)中のはずだがと思いながら、文月は手元の大剣を床に立てた。布で丁寧に拭かれて頭身は銀色に輝いている。


「お前さ、東京貴石研究所の研究者に知り合いいたよな?丸メガネの」


「あん? ……ああ、いたな。それが?」


「そいつにハークのメンテナンス頼んだか?」


 文月は眉を上げて口を歪めた。


「まさか。何があった?」


「ハークが連れてかれた。文月に頼まれてる、って。悪い、引き止められなくて」


「オーケイ了解。ありがとね」


 文月は電話を切ると、布をロッカーにぶちこんで大剣を背負った。東京貴石研究所とモンスターハンター協会も渡り廊下でつながっている。というかほとんど同じ大きな建物内にあると言ってもいい。英雄の遺産の持ち込みも、許可されていた。


 文月はロッカールームの扉を乱暴に開け放つと、研究者の部屋目指して駆け出した。




 ハークはベッドの上に寝転がりながら、身体中に心電図を測る時につけられるパッドのようなものをつけられて、ひたすらに困惑していた。


『この子、僕が新しい頭をつけたんですよ~。その関係で文月さんにメンテナンスを頼まれてまして。じゃあ、失礼しますね』


(って言ってたけど、絶対嘘! でも純正ドールのフリしなきゃいけないから動けない……このパッド何? 何してるんだ?)


 丸メガネをかけた研究員は、鼻歌を歌いながらパッドのコードを機器に繋ぐと、ぽちぽちと付属のキーボードを叩き始めた。画面に表示される線を見て、ふーんだのほーんだのと楽しそうである。


(このまま解剖されちゃうんだろうか……機械だから解体かな……)


 ウィンウィンと妙な音がして、画面の線が下に動いた。


「そんなに怯えなくて大丈夫ですよ~。あなたが純正ドールじゃないことは知ってますから。というか、一回僕の前で発言しましたよね?」


 どきり、とすると、また画面の線が動く。


「あはは、あなたは素直な質な方なようだ。どうぞ気を楽にして。危害を加える気はありません~」


「……あの、何をしてるんですか?」


 研究者はぼさぼさな髪の毛を揺らして首を傾けた。


「あなたの感情値を測定しています。これはドールなら反応が全くなく、ドーリストだけ反応があるものなので、あなたがドーリストである証拠になるのですが……どうも雑音があるようで」


「雑音?」


 研究者がにやと笑った。


「感情が二つ見受けられるんです。あなた、ロックさんに会ったことがあるのでは?」


 画面の線が大きく動いた。研究者が軽やかに笑う。


「あなたは本当に素直ですね! なるほどなるほど、そうですか。僕の研究は間違っていなかったんだ!」


「研究?」


「ドールに心が生まれる可能性の研究です」


 ハークが押し黙ると、研究者はぽちぽちとパッドを外していった。「どうぞおかけください」と、ベッドの側の椅子を指す。


「ドールの宝石の寿命は長くて30年と言われています。その中で、そうですね。少なくとも10年以上稼働しているドールに限るのですが、感情値が変動する個体が発見されているんです」


「それは……ドールに感情があるっていうこと?」


「はい。そして宝石を入れ替えたとしても、この感情値は入れ替える前と同じ反応を返す個体が多いことが分かっています。つまり、ドールの感情ーー心は機械の体に発生している、ということ。これは、記録が頭部にあるからだと思っていたのですがーー」


 研究者は机の引き出しから文書を取り出し眺めながら言った。


「4年前に頭部が失われたドールを僕は見ました。そのドールに微かに感じられた感情値が、今、あなたからも感じられる。ドーリストが入ったドールには、もちろんそのドーリストの記録が頭部に記録されます。それなのにです……これから推察出来ることは、ドールの記録は頭部だけでなく、体にも記録されているんじゃないか、ということです」


 研究者はターコイズのジュエリードールが持ってきたお茶を一口飲んだ。


「本来そんな機能はドールにはありません。けれども、トウキョウシリーズーーモンスターと人間の血で出来た宝石が何故か大量のエネルギーを有しているように、それがまるで魔法の様にドールを動かすことに使えるように、人間の意識を取り出して宝石に宿せるように、ドールにも心が芽生えたっていいんじゃないか、と僕は思うんです。魔法の様に」


「……それで、なんで私を連れてきたんですか? 感情値が複数あるーーロックがまだ生きていることを確認したかったんですか?」


「いいえ、いいえ。もっと踏み込んだ実験に、協力していただこうと思っているんです」


 研究者はハークにずいっと近寄ると、大きな掌でハークの強張った肩を掴んだ。


「ロックさんを起こしてみませんか? この頭とあなたの宝石をとっても彼女が目を覚ますのかーー文月さんにロックさんを返せるのか、実験に協力していただけませんか」


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