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文月往人の透明な彼女  作者: 染井吉野
3.バディ
22/32

c.手放したく無いもの


 協会と街を行ったり来たり、走り回っている二人を、他のハンター達が興味深そうに横目で見た。


「なんだあのドール? 顔ないじゃんか。愛玩人形のくせに顔ないって何?」


「お前知らないのか? 文月往人のドールは顔がないんだよ。金がなかったんじゃねーの?」


「それよりあのドール、めっちゃ髪綺麗だな? ダイヤモンドか?」


「馬鹿、色が全然違うだろ。ありゃクリスタルだな。にしても、マジで綺麗だな?」


「あんなに透明な色の宝石、ひさびさに見たかも」


 文月とハークが協会の中庭のベンチに座ったところを確認すると、話をしていた数人のハンターが、ドールを従えて近寄った。


「よぉ、文月。今日は相方付きか?」


「いいドールじゃん」


 文月はぱちりと目を開けると、面倒そうな顔を隠さずに後頭部を掻いた。


「ああ、どうも。ーーちょっと、触らないでくれる?」


 ハークの髪に触れようとしたハンターが、文月の低い声に動きを止めた。


「礼儀がなってないんじゃない? あんた」


「なんだよ、ケチだな。宝石に触るわけでもないのに」


「何の用? 休憩中なんだけど」


「ああ、今日は大分走り回ってたみたいだな。お疲れさん」


「どーも。で何の用」


「つれないな~~お前の相方を見に来たんだよ。ドール嫌いの文月がついにドールを持ったってな」


「そうそう。でもこれ、近くで見ると本当に綺麗だな」


 一人のハンターが、まじまじとハークの髪の毛を見た。ダイヤモンドとは輝き方が違うが、周りの色を透過してキラキラと輝く様は、まさに宝石と言ったものだった。


「……これ、トウキョウシリーズじゃね?」


「えっ」


 ハンター達がざわりと動いた。


「絶対そうだって! だってこんなに綺麗なんだよ!? なあ、そうだろ文月!」


「知らん知らん。そこらで手に入れたから鑑別書も何もないよ」


「いやいや、確かにこんなに綺麗ならトウキョウシリーズの可能性高いぞ。鑑別書ないってんなら、鑑別してもらおうぜ。俺が金出してもいいよ」


 口々に勝手なことを言うハンター達を嫌そうに見上げ、文月はいつこの場を去ろうかと考え始めた。ハークが完全に怯えて沈黙してしまっているのが気がかりだった。顔がないから、無言になられると様子が全く読み取れないのがもどかしい。


「あのさ、悪いけどまだ仕事があるから、あたしらはもう「なあ、文月、この宝石俺にくれよ!」ーーーはぁ?」


 一人の青年ハンターがにこにこ顔で言った。そばに控えていた輝く赤色の髪をしたドールを前に出して、


「お前、宝石に興味ないだろうから教えるけど、透明な宝石よりかはカラージュエリーの方が取引価格が高いんだよ。俺のドール、ネオンピンクスピネルなんだけど、こいつは120万したんだぜ。トウキョウシリーズも少し混じってる。お前の宝石、トウキョウシリーズだとしても、クリスタルならせいぜい高くても100万ってところだろ? だったら、ネオンピンクスピネルと交換したら20万の儲けになる! 交換した宝石は売ってくれてもいいし、なあ、あやつ」


 文月が立ち上がった。誰かが反応する間もなく、青年の頬をわしづかむ。恐ろしく冷え冷えとした色のない瞳をまっすぐ彼に向けると、


「何があろうと、この宝石は手放さない。恥知らず共、二度と顔見せるなよ」


 ぐいっとハークの手を掴み立たせると、ハンター達を蹴散らすようにして文月は中庭から出て行った。残されたハンター達は目を丸くさせ、ハークを欲しがった青年がへなへなとその場に座り込むのを見ていた。




 むっつりと黙り込んだ文月に手を引かれているうちに、ハークの緊張が解けてきた。あの、と話しかけようとしたところで、文月が「悪いな」と声をかけた。


「あたし、別にドール嫌いだなんて言ったことないんだけど、そう思われてるらしいからさ。しばらくは外野がうるさいと思う」


「……でも別に、文月のせいじゃない、よね? それ」


 きょとんとした顔で文月が振り返り立ち止まった。手を引かれたまま、文月の隣に並ぶ。


「だよね? ロックが大事だったから、でしょ?」


「……まァ、そうネ」


「それに、文月は私を手放さないって言ってくれた」


「……まァ、言ったワネ」


「だから、大丈夫。へへ……これからも私を守ってよね。私、ドールって設定なんだから」


 何度か瞬きした後で、文月は薄く口角を上げた。「分かったよ」と言うと、ハークの透明な髪の毛をぐしゃぐしゃ撫でた。ハークには感触なんて分からなかったが、とても嬉しい気持ちになった。


 たとえ文月が本当に手放したく無いのが、ハークの中に入っている、何の記録もないロック・クリスタルだとしても。


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