b.モンスターハンターとジュエリードール
今から五十五年前、日本をある災害が襲った。歴史の教科書にも載っている惨事で、「大侵攻」と呼ばれている。
ある日東京に、RPGから出てきたかのようなモンスターの大群が現れたのだ。どこから来たのかは分からない。空中に現れた魔法陣が開き、姿を現したと言われている。目的は食事に思えた。狙われたのは人間である。
東京は一日で陥落した。地平線が見えるほど建物は破壊し尽くされ、地面が赤くなるほど人々は殺され尽くした。あらゆる現代兵器はほとんど意味をなさなかった。このまま日本は終わってしまうのかと思われた時、一人の救世主が現れた。
それが、英雄と呼ばれる存在である。秘密基地を名乗る集団が作り上げたとされる、世界初にして未だに唯一の、心を持った人型のロボットだ。
英雄は一日かけてモンスターの大半を殺し尽くし、残りをどこかへ帰還させることに成功した。けれどもこれを皮切りに、モンスターは時たま世界中に現れるようになった。英雄は増え続けるモンスターと戦う役目を課され、それに従って、世界はロボット技術や兵器研究のスピードを上げていった。
そして生まれたのが、モンスターハンターと呼ばれる英雄の遺産を扱う職業につく人間、そして、ジュエリードールと呼ばれる人形である。
ジュエリードールは、大侵攻跡地でのみ発掘されるモンスターと人間の血液で出来た宝石、トウキョウシリーズを胸に入れることで稼働する。瞳と髪の毛に宝石の色を持つ、非常に美しい存在だ。だが英雄とは違い、心はない。愛玩人形として発生した彼らだったが、ここ数十年で全く新しい価値が定着しつつある。
人間の新しい肉体という価値だ。
今から三十年前のことだ。ジュエリードールの宝石に人間の脳のデータを移すことができるようになった。これは永続的な移動、一時的な移動を選ぶことができる。今では金さえ積めば、人間は好きにジュエリードールの体を手に入れることが出来るようになった。人類の大半は自らの生まれ持った体を捨て、美しく、強く、長命な存在になりつつある。そしてロボット技術の研究が進み、ジュエリードールは歴史を遡るように、英雄じみた戦闘マシーンへと変化を続けている。