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文月往人の透明な彼女  作者: 染井吉野
1二つのクリスタル
11/32

k.ハーク

「え、無理ですけど?」


 丸メガネの奥に瞳を隠し、寝癖でボサボサになった研究者は言った。文月が眉をしかめ目を細め、胸を曝け出していたドールが「どういうことですか!?」と身を乗り出す。


「だって、このロック・クリスタル、完全にハーキマーダイヤモンドの中に包まれちゃってます。というか、融合してます。割ったとしたらロック・クリスタルも割れますよ」


「削れば?」間髪入れず文月が言う。


「削ってもいくらかはロック・クリスタルも削れますよ。少しでも減らしたくないんじゃないですか? 文月さん」


「そうだな」


「は? ……つまり、どうむぐぐ」


 ドールが首を傾げると、文月は口を塞ぎながら面倒臭そうに眉をしかめた。


「しょーがない、っか」


「んむむ!?」


「お前はあたしが所有する」


「むぐ!?」


「ロック・クリスタルが戻ってこないなら、こいつごとあたしが所有する」


「む、は!? 殺すって話は!?」


「殺す? え!?」


「死にたくないってあんた言ってたじゃん。よかったね、うちに置いてあげるよオジョーサン」


「いーー嫌だ!! 助けておにーさん! 私実は」


「はいはい帰ってからおしゃべりしよーね!!」


 ずぼっと宝石を胸から分捕り、文月はドールを黙らせた。ガクッと倒れる体を片手で抱え上げ、研究者を嫌そうに見る。


「質問は受け付けない。ついでに、今の会話、他言無用だから。あんたは宝石を分離させる方法探しといてくれる?」


「……あはは、相変わらず強引ですねえ。それはいいですけれど……期待しないでくださいよ? ……それと、文月さん。何度も言いますけれど、あなたのロック・クリスタルには何のデータも入っていないんですよ? 純正ジュエリードールの記録は頭部にしか入っていません。だからうまく分離できたとしても、『あなたのドール』は戻ってこないんですよ」


 文月はちょっと研究者を見ると、変わらず研究室の出入り口で待機しているターコイズのジュエリードールを見た。まぶたを閉じ微笑みを浮かべている顔を。純正ジュエリードールそのもののアルカイックスマイルを。


「……分かってるって。ただ、あたしが持ってたいだけ。付き合わせて悪いね、いつも」


 研究者は眉を下げてにこりとした。


「いえ。それじゃあ、ターコイズ?お客様がおかえりだよ」


 呼ばれたターコイズがいそいそと3人に近づいてくる。文月に上着を手渡そうとして、


「ああ、荷物でいっぱいじゃないか。かけてあげて」


 研究者に命令され直し、肩に上着をかけた。「サンキュー」と文月が微笑みを浮かべる。ドールを肩に担ぎ、片手に透明な宝石をしっかりと握り込んで、文月は研究室をあとにした。早く家に帰ろう。珍しくそう思った。英雄の遺産のせいか、担いだドールの重さも感じない。


「そういや名前どうしようか……本名だと面倒だな。……ハーキマーダイヤモンド。……ハークでいいっか」


 透明な宝石を空に浮かんだ月にかかげる。黒と黄色と白が歪んでごちゃごちゃになった中に、文月のロック・クリスタルが揺蕩っている。


「悪いな、ロック。お前の宝石、ちょっと借りるよ」


 文月が呟く。その声を誰も聞いていない。

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