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四天王の中でも二番目  作者: フユガスキ
1/1

神のお告げ

最初は硬め

「もう、日の出か……」


朝の5時40分頃、遮光カーテンの間から差す薄っすらとした日の光に気づき、なんとも言えない倦怠感に襲われる。

17歳という若さに物を言わせ、徹夜してでも期日に間に合うように自分の課題を終わらせているが、中々に生気を奪われるものだ。いや、まぁ、未だに勉強に慣れず、処理が遅いのが原因なのだが。


慣れた手付きで簡単な朝食を用意し、あまり覚めていない頭でこの後のタスクを考えながら、箸を口に運ぶ。


「……おっと」


一瞬お碗が二重になり、焦点が合わず、持ち上げようとしたお碗が机から滑り落ち、床にご飯をぶちまけてしまった。まだ一日目の徹夜なのでそんなに疲れてないはずなのに、どうしてだろうか。

不幸中の幸いというか、どうせいつか落とすだろうと予測して買った背の低い机のおかげでお椀は割れなかった。


「幸先悪いな」


今朝の朝食はほとんど床のゴミと化し、お椀に残っていた米だけ食べてゴミを捨て、アイロン掛けはされてない制服を上下ともに着て、リュックを持って駅へと向かう。

だが、途中で朝食を食べられなかった分、コンビニでパンを買って足しにしようと考えて最寄りのコンビニに方向転換した。


コンビニに着くまで何気なくスマホを見ていると、今日は木曜日だというのが目に止まった。徹夜すると曜日感覚が狂うな。

しかし、そうなると月曜から寝ていない俺は三回も徹夜したということだ。なるほど、だからさっきから平衡感覚がまともに機能していないし、瞬きするたび瞼が重くなるのか。


コンビニの直前の赤信号で止まり、うつらうつらとしていると、ヒュッという風を切る音が耳に聞こえた。

驚いて目を見開くと地面が目の前に見え、流石に高校生ということもあって一旦は立て直すものの、次は不快感と危機感を同時に覚えるようなクラクションが聞こえた。


「えっ」


見上げてみると、どうやら信号は黄色が光っており、トラックがスピードを落とさずに走ってきたらしい。運転手は血走った目をかっ開いて、焦りと恐怖の籠もった目線をこちらに向けていた。

しかし、俺はそんな状況でもやはり目が覚めることはなく、睡眠欲求を満たすために目を瞑り、そうして、俺は永遠の眠りについた。


「……?」


かのように思われたが、授業中の睡魔よろしく、眠りは浅いもので体感5分と掛らずに目を開けると、時が止まったように全てが動かなくなっていた。尚、神経及び目のみ動く模様。


『我、告ぐ。三次元における移動を非とする。尚、思慮は是とする』


後ろの信号待ちの方で女性の声がした。目の右端で捉えようと試みるも、それらしき姿は見当たらず、何が起きているのか分からないまま、次の言葉が降ってきた。


『我、告ぐ。もし、己の救いを求めるならば、一つ欲するものを授けよう』


今度はトラックから男性の声が聞こえた。

段々と冴えてきた頭で整理すると、トラック運転手の男性の目が皿のように丸くなったまま固まっていたり、信号待ちの複数人が様々な態勢で動かなくなっていたり、近くのカラスも木の枝も全てが静止し無音の空間にいることから、おそらくこの声の主がここら一帯もしくは全世界を不可思議な能力で止めているのだろうと予測できる。

いや、可能性としては他にもあるのだが、この展開ではこうだと相場が決まっている。たぶん。


そして、これはおそらく、いや十中八九、転生特典の話である。だってそうだろう。目の前にはトラックがいるし、神っぽいの出てきているし。


と、いうことで、この流れは明らかに「ごめん、手違いで転生させちゃったから、お詫びに色々してあげるね?」だと判断できるので、転生後のことを考えて有用なスキルを取得するに限るだろう。

まぁ、と言っても、どうせ鑑定スキルが初めは最強というのが通例である。それに乗じて俺の想像する通りの鑑定スキルを頂戴するべきだろう。


『我、告ぐ。これをもって、神を信じ、己の救いを願え。さすれば何れ、また』


最後の方は消えかかりほとんど聞こえなかったが、これでこのクソゲーと言われ続ける世界から離れることができると思うと、どこか感慨深いものがある。嬉しいような寂しいような、そんな気持ちである。


そんな心持ちをしながら場面が切り替わったかのようにと動き出した世界で、俺は違和感を覚えた。

目の前のトラックの情報がゲームのステータス画面に表示されるような感じで脳に流れ込み、何とはなしに、鑑定を使った気になった。


「ぇ」


トラックに頭を強く打ち、ほんの一瞬で消える意識の中で知覚した最後の言葉は、転生トラック、だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「仮称ぼっちくん、どうも神でございますよっと」


「お、おぅ」


目の前にいるのは見た目通りなら魔女である。白と黒を基調にした、厚地の露出度低めの服を着ている。思わずずっと眺めていたくなるような整った顔立ちで、地味な服とは対照的に目立つ赤髪を長く伸ばしている。


………って、そんなことより、ここはどこだ。見渡す限り淡い虹色の光景が広がり、自分が地に足ついているか、それとも浮いているのか、感覚が掴めない。だが、情報がなさすぎて浮足立っているのは確かである。


じゃあ、取り敢えず鑑定でもしてみよう。


「鑑定」


スッと手を前に出して、ステータス画面を開こうと試みるも、そこに対した変化は起きず、なんにも情報は入ってこなかった。


「あー、それね。そのギフト、もう効果がないから」


「え」


「そんな、複雑なギフト、あいつの世界じゃないと使えないよ。それに、そもそももう、持ってないし」


転生特典ではないのか……?チート能力でウハウハのスローライフでも送ろうと思っていたのだがなぁ。


「まぁ、うん。適当に転生すると思うから、頑張って。というか、むしろ頑張んない方が個人的には良いんだけど、まあうん、そんな感じ」


じゃ、という言葉を最後に視界は閉じられ、その瞬間冷たいザラザラした感覚が肌を突いた。


驚いて飛び上がり辺りを見渡してみると、暗闇で最初はほとんど分からなかったが、慣れてくると三方が岩の壁に囲まれ、一方が道になっていることが分かる。

洞窟だろうか。肌寒い風を道の方から受け、一旦向かってみようと立ち上がると、素股を風が通りびっくりした。


体を見てみると、大きな布切れを一枚羽織っていることが見て取れた。尚、股の感覚から俺が男だということが確定した。TSは現実的に考えれば色んな面で大変なので、ならなくて良かった。


「いてて」


下着を履いていなければ、靴も履いていないわけで、尖った石を踏むと剥き出しの肌には痛みが酷い。

すり足で移動していると、身体一個通るのがやっとな隙間から光が差していたので、岩場を登ってそこからひょっこりと顔を出した。


「おぉ……」


出た先は前面が繁った森で、背面は断崖絶壁である。雨が降ったら洞窟内に水が流れ込むこと間違い無しである。

取り敢えず、日の光に向かって伸びをして、改めて自分の体を見てみると、なかなかに良い筋肉をしている。岩場を割と軽く登れたのはこれが理由か。他にも色々と触って確認していると、頭の上に触り覚えのない物体があった。もちろん、体が変わっているので触るのは初めてなのだが、そうではなく、人間らしからぬ物が頭の上に感じられた。


ただ、大きさはほんの少し頭から飛び出ているくらいで、形は円錐に近い。皮膚というほど柔らかくはなく、爪とか歯とか、それぐらいの固さがある。

感触からして、仮にこれを角だとするならば、明らかに人間らしからぬ形である。しかしながら、俺は二足歩行であり、体は全体的に人間に酷似しているため、人間に親しい存在なのかもしれない。


「……?」


なんてことを考えていると、複数の影が上空を飛んでいることを視認した。

大きな羽を伸ばして、大きく円形に回転しながら、ガー、ギャーなどと音を出している。そのうち一体がこちらにぐんぐんと急降下してきた。


慌てて岩場に身を潜めるも、狙いは俺ではなく少し離れた森の中であり、数秒後飛び上がった姿を見ると、体の背は緑で覆われ、細長い尻尾を持ち合わせていることが分かった。なかなか、馴染みのない色合いの鳥―――というより、恐竜とかモンスターと言ったほうが適切か。大きさは木と比べると少し小さいくらいで、体の大きさに対してアンバランスで鋭いくちばしが備わっている。


俺の頭に生えた角と、規格外の鳥類。これを踏まえて考えると、俺はおそらく、というかほぼ確実に所謂異世界ってやつに転生したのだろう。

件の神と名乗る魔女が、あいつの世界だとか、転生だとか、言っていたため、彼女がこの世界における神ということになるのだろう。たぶん。


まぁ、兎に角。異世界転生して最初にやることと言えば、やっぱりこれである。


「記憶喪失の美少女を探しに行こう!」


辺り一面森が広がり、あのデカい鳥のような危険な生物がいるということは、記憶喪失の美少女とばったり出会すフラグである。大体そうである。

後は、本命に対する対抗として、エルフの森だったり、龍なんかの住まう聖域だったりするかもしれないが、何れにしてもハーレム待ったなしである。やったね!


と、勇み足で森の中へと入ろうとすると、一際大きな鳥の哭き声が聞こえ目を向けると、空中でヨロケている鳥の背から人影が落下したのを見た。

フラグ回収には早すぎるが喜ぶ思いと、割と高いところから頭から落下していたので心配する思いと、の2つを覚えながら走って落下地点へと向かうと、近づくほど濃くなる鉄の匂いと、腐った肉の匂いとが混ざり合い、森特有のフンの匂いをかき消すほどの気分の悪くなる臭さが鼻をついた。

その異臭の発生源は、思わず目を逸らしてしまったが、人間の死体の山であった。その山を森が避けるかのようにして緑は生えておらず、ちょうど目を逸らした先にはデカい鳥の死骸が転がっていた。


何が何だか理解出来ず、情報過多で脳がパンクしそうになり、一旦リセットしようと深呼吸を試みるも、胃に何か入っていたら吐いていたであろう匂いにはまだ慣れていなかった。

息が詰まって呼吸が荒くなりながらも、死体を改めて確認する。覚悟を決めてもう一度死体の山を見ると、そこから少し離れた場所に砂だらけになった少女が倒れ込んでいた。


先の人影の正体だ。そう感じた俺は、なるべく死体の山を見ないようにしながら少女に近づき、息があるかどうかを確認する。

口に手を当ててみると、俺とは対照的に一定の間隔で呼吸していた。胸を撫で下ろし、その倒れている亜麻色の髪の少女を起こそうと肩を揺すると、すぐにパッと目を見開いて、こちらを見て数秒ボーッとしてから、合点がいったようにして立ち上がった。


俺も立ち上がって少女に向き合い、口をパクパクさせている少女を眺めていると、どうやら、彼女は何かしらを喋っていたようで、首を傾げたり、自分の耳を手で指し示したりした。


「なにをしてるんですか?」


「???」


少女にはこちらの声が聞こえているようで、俺が喋ると動きを止めて聴いている様子を見せた。だが、意味が理解できなかったようで、頭に疑問符を浮かべている。

が、何か思いついたのか、耳に手をかざして、何やら緑で透明に光る小さな球体を作って、5秒程するともう一度喋って、とジェスチャーを送ってきた。


「声が聞こえていないです」


少女は何やら分かったかのように頷いて、俺の耳にも手をかざし、先と同じ緑の球体を作り出した。それはどこか温かく、ちょっと柔らかかった。


「これで、聞こえていると思います」


「おぉ……!」


さすが異世界。魔法も存在するのか。

と、喜ぶのも束の間、この少女の声だけでなく、葉の擦れる音や近くに屯している動物の威嚇も聞こえた。だが、周りにはそれらしき動物は見当たらず、むしろ小さな虫すら一匹たりともいない。

俺がキョロキョロとしていると、それを不思議に思ったのか、どうしました?と声をかけられた。


「いえ、色々と聞こえ始めて、驚いただけです。ありがとうございます」


「いえいえ、ちょっとした"奇跡"を起こしただけですよ。貴方がここにいらして、私を起こしてくださるのだって、私からすれば奇跡ですし、お礼だなんて言ったらおこがましいのかもしれませんが、どうか受け取ってください」


これはありがたい。普通、耳の治療だったら、度合いにもよるだろうが、多少の値が張るものだ。それを一瞬でしかも料金なしとは、本当に奇跡そのものだろう。前世なら裏社会とか闇組織的なものを疑うレベルである。


「それで、申し訳ないのですが、"導き"を与えて頂きますので、少々お待ちください」


「え?」


彼女は導きとかいうものを誰かに授かろうとしているらしい……?迷える子羊かなにかなのか?

などと思っていると、少女は両膝を地について両手を顔の前で組み、両目を閉じて数秒経つと、そよ風が吹き始めしだいに強くなり、森がざわめき、とぐろを巻いて土埃も上げ始めると、中に人影が現れた。


「ゲホッ、ゴホゴホ、ウっ、目に入ったんだけどぉ。というか、口の中ザラザラするし、マジサイアク」


風が止み、中から姿を現したのは先ほども会った神だった。

土が着いたであろう服をパンパンとはたき、土を落としてから、ちょっと見上げるくらいの空中で告げた。


「神の思し召しを授ける。面を上げてよく見極めよ」

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