表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カニオ的耳袋

カニオ的耳袋、オカルト体験談1

作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ

エッセイです、気分転換的な執筆です。不定期投稿となりますが。

 『仏縁としか言い様の無い話』


 さて、小拙こと蟹江カニオ、エッセイなるものは書いた試しがなく、形式や書式などは知らないので、これがエッセイと言って良い物かどうかは分かんないです。


 普段、キチばかりがコラショっと出てくる小説を書いていて、いい加減気が滅入っていた所、気分転換に何か短編でも書いたら如何?とアドバイスしてくれた奇特人の勧めにより、“ならば”とばかりに、今までに体験した不思議な出来事を、忘れない内に書き留める事とした次第であり申します。


 考えてみたら、小拙、かなりのオカルト肯定者であり、割と頻繁にその手の物を視るので、夏場の今に発表するのは丁度良い機会でありましょうや。


 さて、さて、今でこそ小拙はプロハン兼なろう投稿者として、面白おかしく過ごしていますが、その昔は当然勤め人でありまして、幾つかした転職に葬儀社が有りました。そこで体験した話となります。


 ただ、オカルト的では有りますが、何も葬儀社関連だからと派手に人魂が飛び交ったり、仏様が起き上がったり、飛んだり跳ねたりする様な話じゃ有りません。


 まあ、唸り続ける仏様には遭遇した事は有りますが。


 それはオカルト的と言うより、人体構造学上の偶然なんですが、知らなければ“何でこの人唸っているの?”と、仏様を揺り起こそうとしたかもしれません。もしくは一緒に唸り始めたかも知れません。


 冗談はさておき。


 事の発端は1本の電話からでした。仮にAさんとします、内容は生前見積り依頼でした。


 近頃は終活などと、オブラートに包んでいそうで、実は包んでいない名称で呼ばれていますが、この話は大体今から20年程昔の事です、ストレートに生前見積りと業界内外で普通にそう呼んでおりました。


 受話器越しの声の感じ、言葉使いから老齢のお方と分かりましたので、ご当人様の見積りか、または配偶者様の相談かと見当をつけました。


 住所から、地域特色上自宅葬になると踏み、会館資料とは別に自宅祭壇資料をパイロットケースに押し込みました。


 都心部では付き合いが有っても、せいぜいが隣近所くらいの物で、町内単位での人々とは関わりが薄く、また駐車場の利便性から会館葬が好まれますが、田舎の方では町内総員レベルで付き合いが深く、冠婚葬祭の、特に葬の部分では一大イベントとなるのが常でした。


 こちらでは火葬をしてから葬式をあげるので、火葬場から骨上げをしてから骨壺と共に、お寺さんや、お寺の坊様の控える会館に移動するのですが、最初から骨にする関係からか、葬式終了即納骨が一般的でした。


 そこで田舎の場合、葬列を組んで鐘や太鼓、龍頭や龍尾、花菓子や四華花なる賑やかしをそれぞれに手にして、お寺さんからお墓に向かうのですが、これは地域地域で全く違うので、用意する賑やかし小道具も違うのです。


 生前見積りなので、その辺りを打ち合わせをする町内会の古老と話をする訳には行かないので、雑費用に幅を持たせて見積り書を作成します。


 そんなこんなでお宅に向かい、仮見積り受注となった訳ですが、何と生前見積り相手とは、Aさんの御子息でありました。


 更にこちら様と同居している訳では無く、東京で別世帯として独立しているとの事でした。


 前提条件が覆りましたが、まあ、構いません。


 正直、他府県に股がると搬送が面倒なのですが、小拙の奉職した葬儀社は、首都圏をカバーする規模でしたので、当該の地区支店、又は協力店に丸投げすれば良いのですから。


 まあ、儲け損ねる事にはなりますが、当支店は受付窓口の役割を果たしたと割きります。


 お話をした所、御子息様は難病を患っておられるとの事で、また、新しい世帯なので葬儀自体を出した事が無く、東京での葬儀の勝手が分からないとの事でした。


 東京、の段階で丸投げなのですから、こちらは気楽なものです。


 まず、直近の支店に電話を貰えれば、諸々の役所手続きから斎場から全て手配がつく旨を説明します。


 葬式は、かなり地域で仕様が異なるので、不安に感じる事は当然です。だから地元の人間に任せるのが一番だと云う風に説明します。


 ただ、話を進める内に不安要素を見つけました。


 Aさんは学会員だったのです。しかもこの辺りの地区の責任者とかで、結構位が高いとか何とか。


 学会員の友人葬は知る人は知るでしょうが、御題目を何度も唱える式次第なのです。


 既にこの時には退職していた先輩が、学会の友人葬に立ち会った事があり、その司会をしたそうですが、何でも御題目詠唱5分程で、詠唱を止める様なアナウンスをして欲しいと、喪家学会員のお人と打ち合わせたのですが、現場で迫力に押され5分を数分オーバーしたそうでして。


 チラチラと学会員の方々が先輩職員にアイコンタクトをとるのですが、そもそも先輩は時間を計っていません。

 あれは“さんハイ”と一斉に始まる訳では無いそうなので、始まりが分からない。


 そこで当該地区長から指摘され、アナウンスを入れて終えたそうですが、当然クレーム案件となりました。


 丸投げ支店に見積りと共に、学会員情報も連絡しましたが、何とも不安を感じた物でした。



 半年程後でしょうか、Aさんから御子息様の訃報をいただきました。不謹慎なようですが、こちらはそれが仕事なので悪しからず。


 何でも、体調も良く、病院から一時帰宅許可が下りた矢先の事だそうでして、Aさん御子息一家、とても葬儀手配をつけられる状態では無いらしく、話を通してもらっていたAさんに、訃報連絡と共に葬儀手配依頼をなされたそうでした。


 生前見積りの件が有るとは言え、何で態々Aさん経由で?


 そう思われるかも知れませんが、御身内の急逝にテキパキと差配出来る人は、経験上居ませんでした。


 関係が一線を引いていなければ、なかなか出来ない物です。


 お悔やみを申し上げ、東京の御子息一家様住所と現在の仏様の安置場所、御喪家の主な方の携帯番号を聞き、支店の方にその旨の連絡を入れ、取り敢えずは小拙の手を離れました。


 さて、さて、さて、ここまでは前振り。不思議な話はここからでして、不思議と言うより、事実は小説より奇なり、袖振り合うも多生の縁、ビバ仏縁と言った話となります。


 後日丸投げした支店から無事葬儀が終了したとの連絡が入りました。


 葬儀費用代金は、当然東京の支店が御喪家に請求するので、小拙の支店では利益は有りません。


 有りませんが、“支店同士は相身互い、逆のパターンも有るからねぇ”なんぞと呑気を言っていたら、ボーナスが悲惨な事になります。


 なので四十九日の間に白木位牌を祭る後壇の売り込みや、塗りの位牌の売り込みの為にAさんに連絡を取りました。


 即日面会が叶いましたので、Aさんお宅にお邪魔します。


 後壇は有るとの事なので、位牌関係の売り込みと、初盆関係の資料をブリーフケースに詰め込んでの訪問です。


 先ずは御線香を。と後祭壇の前に座しますが、何と白木位牌が三柱(仏なので柱は不適切ですが理由は後で)祭ってあるでは有りませんか。


 盆には早いので先祖位牌の合祀では有りません、それにくどいですが白木位牌です。


 厳密には白木位牌二枚に霊璽(れいじ)一柱ですが。


 理由は伺えば良いので取り敢えず御線香を上げ、一礼です。


 それから座を改めて位牌の説明です。


 たまに聞かれる事ですが、分家や嫁に出た先で実家の位牌を祭っても良いかと聞かれます。全く構いません。


 御仏の御心は広大無辺。祭り慰霊する場が増える事に咎がある訳が有りません。


 だから位牌が御喪家の他に御本家に有っても何ら不都合は無いのです。


 ですが、その前に事情聴取です。白木位牌二枚に霊璽一柱は尋常では有りません。


 事情はこうです。


 一枚はAさんの用意した学会員の戒名でした。これは予想していました、東京の支店にも連絡を入れましたし、友人葬になる可能性も伝えました。


 一柱は大井神社からの物でした。実はAさんの旦那さんは大井神社の祢宜様でした。御子息様のためにご夫婦で各々に戒名(おくりな)を用意したのでした。


 この情報は初耳で、内心しまったと思いました。


 御喪家はお葬式を出すのは初めての世帯です。つまり無宗派無宗教。


 仏様が搬送された御喪家で、何式で葬儀をあげるのか、揉めたに違い有りません。


 いや、揉めたらしいです。丸投げで助かったと心底思いました。


 どこぞに帰依する、信仰するとは、これからずっとそのお寺さんや、神社様と付き合いが始まる訳でして、葬儀社としてはタッチしたく無いのです。


 どんな事をしてもどちらかに、又は御喪家何れかに角が立つからです。


 ただ、既に葬式は終了していて、事後です。式次第は当該支社から聞いていません。


 なのでその辺りを尋ねたら、三枚目の白木位牌で葬儀を行ったとの事です、三枚目は白木位牌に直接俗名が達筆で書かれていました。


 内心穏やかでは無いか?と邪推しましたが、Aさん御夫婦、共に満足しているご様子で逆に疑問になりました。


 各々の信仰を脇に置いて、俗名での葬儀です。本来ならば面白い訳が有りません。


 これは御喪家奥様の提案だったそうです。


 やはり良く知らない友人葬や、神式葬に抵抗が有ったそうでして、以降の付き合いを考えても受け入れ難いとの事でした。


 そこで当該支店から御喪家に、この葬儀だけを請け負うお寺さんを紹介すると云う提案が出されました。


 何でも、たまたま、各宗門合同会合が東京で開かれていたそうでして、それに出席されていた坊様になら即連絡が着くとの事です。


 日蓮宗のお坊様で、御題目は学会と同じですので、Aさんは得心しましたし、Aさんが折れたのだからと、旦那様も意を引っ込めた次第です。


 話はまとまり、またお寺さんと連絡が着き、この葬儀のみの付き合いなので、何れ何処かの宗門に帰依する事も考えて、俗名で葬儀をあげる事となりました。


 三枚目の白木位牌の達筆俗名はこうした訳でした。


 余談ですが、日蓮宗は開祖の日蓮祖師が達筆なためか、また特徴的なヒゲ題目の修筆のためか、書筆が必須だそうでして、筆達者なお坊様が多いと聞きました。


 さて、さて、さて、さて。こちらのお坊様、身延の御山から各宗門会合に、日蓮宗を代表して出席されるほど高徳の僧侶です。


 御喪家の方々、Aさんご夫妻、面会してお話を聞くに、すっかりとそのお人柄を気に入ったそうでして、無事お葬式をあげられたそうでした。


 御葬式後、そのお坊様、若くして亡くなり悲嘆にくれる御喪家の人達に、仏説話を交えて懇々と諭し、慰め、励ましたと聞きました。


 それこそ心に響く説法だったのでしょう、これ程のお坊様を紹介して下さったと、小拙も感謝され面映ゆい思いをした物でした。


 特にその説法は、Aさんの御孫様、仮にBさんとしますが、Bさんの心に響いた様でした。


 宗教とは、これ程迄に心を救うのか、自分はお陰で救われた。とばかりに猛烈に感動をしたそうでして。


 ………自分もそうなりたいと。


 御孫様は立正大学の三年生でした。学部までは聞いてはいません。立正大学についてはググって頂いた方が分かりやすいですが、身延山で運営している大学です。


 それまで興味が無く、教義的なカリキュラムは履修して来なかったそうですが、御孫様は決意しました。


 日蓮宗僧侶になると。


 そう説法の席で明言したそうでして、そう云う話で有るのならばとそのお坊様、“大学卒業後に紹介出来るお寺も幾つか有ります”と就職先の斡旋を名乗り出られたそうでして、


 更に、“ならばお父様の戒名は、出家後に御自身で付けられれば、これ程親孝行な事は有りません”と後押しをなさったそうです。


 御喪家一家、Aさん夫妻。若くして亡くなられた、御子息であり、伴侶であり、御尊父である支えを亡くし、意気消沈した所からの喝采です。皆大賛成で誰も反対なぞしません。


 こうした訳で、Aさんは三枚も位牌を祭っていた訳でした。御自身の孫が早ければ来年、遅くても再来年には戒名をつけてくれるので、ここの三枚に特に拘りが無いのだそうです。


 まあ、塗りの位牌もその時に造るそうなので、その時はよろしく願います。とオチがつきました。


 さて、さて、さて、さて、さて。


 もし、あの時Aさんが小拙の勤める葬儀社に電話を掛けず他社に掛けていたら。


 もし、東京での宗門会合の時期外での不幸だとしたら。


 もし、その日蓮宗のお坊様の都合が合わなかったら。


 もし、他の説話で御喪家の心を掴む事が無かったら。


 もし、御喪家で友人葬を由としていたら。


 もし、御喪家で神式葬を由としていたら。


 大前提で、もし、御子息様の一時帰宅が許されず、結果存命していたら。


 Bさんが出家する事は無かったはずでして、全てが合致しての縁な訳です。


 やはり、仏縁としか言い様が有りませんねぇ。どう思いますか?


 多少の暈しは有りますが、実話ですよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ