傀儡恋慕
はじめまして、冬白葵と申します!まずは見つけて、この小説を開いてくださりありがとうございます!!大感謝です( ; ; )
小説に関しては読むばかりだったのですが、諸事情で小説を書く機会がございまして、今回なんとなーく投稿させていただいた次第でございます。
文字数が約8000字と決められていたため矛盾や至らない点がたくさんあるかと思いますが処女作なので目を瞑っていただけると幸いです…
今回製作したのは、「傀儡恋慕」という作品です。
傀儡とは人形のことです。なぜ傀儡というワードが題名に入っているのか?ぜひ作品を読んで納得していただけたらなと思います!
平和なお話よりも、刺激的な作品が好みなのでそんな感じのお話になっております…
それでは、拙い文章ではございますがお楽しみください!(╹◡╹)
人気のない静かな校舎裏、視界いっぱいの地面。頭の上には、憎い女の足。
「はーい、芹沢さんごめんなさいは〜?」
無理やり土下座の形をさせられた私は、なすすべなく顔面を地面に擦り付けることしかできない。
「ちょっとあかり〜何に対して謝らせるの?」
「当たり前に生まれてきたことに対してでしょ、ほら生まれてきてごめんなさいは〜?」
「鬼畜すぎ〜!」
私を囲むようにして三人の女子生徒はケタケタと笑う。私、芹沢藍那は小笠原あかりとその取り巻きの内田優美、今村沙希に毎日執拗ないじめを受けていた。
「ご、ごめんなさい」
彼女らを刺激してはならない、反抗してもエスカレートするだけだ。
「おい、あいちゃんになにしてんだよ!」
突如、聴き慣れた声が聞こえてきた。
「うわ、でたでたヒーロー気取りの高橋。」
「萎えるわ〜いこいこ」
三人はヒーローの登場に罰が悪くなったのか、そそくさと帰っていく。
「あいちゃん、大丈夫?立てる?」
優しい声で大きな手をこちらに差し出してくれるのは、私の幼なじみの男の子、高橋要。私がいじめられるたびにいつも駆けつけて、助けてくれる私のヒーローだ。
「ありがとうかなちゃん・・・」
大きな手を借りて立ち上がり、制服や膝についた土を払う。
「あいつら、本当に懲りないな・・・僕、あいつらに強く言ってこようか?」
「ううん、いいの。そんなことしたらかなちゃんも何されるかわかんないし、かなちゃんが助けてくれるからそれでいいんだよ。」
そう言って笑うと、かなちゃんも嬉しそうに笑った。
ああ、可愛いなかなちゃん。いつも私を守ってくれる幼馴染みのかなちゃん。いつかこの想いを伝えられたらいいな。
次の日もその次の日も、執拗ないじめが止むことはなかった。それでもかなちゃんが毎日助けてくれることが嬉しくて、それ以外はどうでもよかった。
「かなちゃん今日も送ってくれてありがとう」
いつも通りかなちゃんと高校から帰り、家の前でお別れをする。幼なじみと言うだけあって、互いの家は徒歩三分もしない場所に位置している。幼い頃からよく互いの家に遊びに行っていたものだ。
かなちゃんと別れ、家に入る。
「ただいまー・・・お母さん?」
いつもおかえりと声をかけてくれる母からの返答はなく、代わりに薄暗いリビングに母が一人項垂れるように座っていた。
「どうしたの?」
「お母さん、仕事なくなっちゃった」
話を聞くと、どうやらリストラにあったらしかった。私が幼い頃にお父さんと離婚してから母子家庭で、女手一つで育ててくれた母のたくましい姿はどこにもなかった。
「大丈夫だよ、私もバイトしてるし。お母さんもゆっくりでいいからまた仕事探そ?」
励ましの言葉をかけたが、母は変わらず魂が抜けたようだった。
その日から、母の様子は一変した。
別の日、いつものようにかなちゃんと別れ家の扉を開ける。なるべく音を立てないように、こっそりと玄関に入り靴を脱いだ。
「は?あんたバイトは?」
しかしその甲斐虚しく、リビングから母が出てくる。ボサボサの髪の毛にヨレヨレの衣服を身に纏い、あの日から家に引き籠るようになった母。
「今日はシフト入ってないよ」
「はあ!?金がないんだから働けよ!!!!休んでる暇なんてねえよ!!」
母は沸騰したヤカンのように一気に捲し立て、、テレビのリモコンやビールの空き缶など様々なものを私目掛けて投げてきた。
リストラに遭って以来、母は仕事を探すどころか毎日家事もせずに家でだらけるだけの生活を送っていた。私が高校やバイトから帰ってきては家事をするようになった。母の精神状態は尋常ではなかった。
「そもそもあんたがいなければ離婚することだってなかったのに!あの人が私から離れていくこともなかったのに!この邪魔ものが!恩知らずが!」
つんざくような、奇声にも近い怒鳴り声で延々と私のことを殴る母。ずっと、私のことをそんな風に思っていたんだ。毎日私に優しく笑いかけていたのに、その笑顔の裏では邪魔者だと、憎んでいたんだね。
絶望。そんな言葉が今の状況にぴったりだ。心が芯から冷たくなっていくのを感じた。
「どこいくんだよ!!!!」
そんな母の怒号が背中側から聞こえてきて、自分が身一つで駆け出していたことに気づく。
かなちゃん。かなちゃん。かなちゃん。かなちゃん。
一心不乱に駆けて、かなちゃんの家のインターホンを押す。
『はい、どちらさま・・・』
「かなちゃん!!」
インターホン越しにかなちゃんの声がして、縋るように声を発した。
『え、あいちゃん?ちょっと待ってて』
動揺したような声のかなちゃんは、ものの数秒で家から出てきた。
「どうしたのあいちゃん・・・」
「かなちゃん、もう嫌だよ・・・お母さんがおかしくなって毎日毎日暴力受けて。お母さんが憎い。私がいなければ、って言うけどじゃあ産まなければよかったのに。仕事もしないで毎日家にいて、なあんもしないで。私でストレス発散して、何がしたいの?もういや。お母さんなんていなければいいのに!」
母への想いは、いつしか憎悪に変わっていた。かなちゃんに全てを吐露する。お母さんも、いじめっ子も、みんないなくなってかなちゃんだけになって仕舞えばいいのに。
「あいちゃん・・・つらいね、大丈夫だよ。俺がいるからね」
肩を優しくぽんぽんと叩いてくれるかなちゃんの手は、とても温かかった。
それから数日。相変わらずの毎日だけれどかなちゃんが寄り添ってくれるから頑張ることができていた。
バイト終わり、あたりはもうすっかり暗いうえに雨が降っていて、私は帰路を急いだ。洗濯物を干しっぱなしにしていた、どうせお母さんは取り込んでおいてくれていないだろう。
玄関のドアを開けた。いつもは点いているリビングの電気が珍しく消えていた。シンと静まり返った家はいつもと明らかに違う雰囲気を纏っていた。心臓がドクドクと音を立てた。
リビングの扉を開く。
部屋に充満する、異臭。錆びたような、生臭いような、嗅いだことのない不快な臭い。部屋中が荒らされており、いつも母が座っているソファにもたれかかるように血だらけの母がいた。
警察は、部屋が荒らされていたことを鑑み、強盗の犯行とみて捜査を進めるらしかった。死因は数十か所にわたり刃物で身体中を刺されたことによる失血死だそうだ。窓から入った痕跡はなく、犯人は宅配業者を装って玄関から侵入し犯行に及んだとみられる。など、事情聴取が終わった後に警察から色々と教えてもらった。
それから、近場に住む親戚に引き取られることになった。
「災難だったね、大丈夫?」
事情聴取ののち、かなちゃんが迎えにきてくれた。
「でもさ・・・よかったね。これで一つ、あいちゃんを苦しめる奴がいなくなった。」
耳を疑うような言葉だった。思わず顔をあげると、かなちゃんは優しい笑顔でこちらをみていた。
「そりゃ、あいちゃんにとって唯一の家族だったかもしれないけど。あいちゃん、お母さんを憎んでたでしょ。毎日辛い思いをしていたけど、もうそんな心配なくなったんだ。」
私は母の死体を見つけたときのことを思い出した。
あのとき抱いた感情は、悲しいとか、怖いとか、そんなんじゃなくて・・・
「嬉しい?」
かなちゃんの声が、やけに耳に残った。
母が何者かに殺されて一週間がたった。親戚に引き取られ、普通の暮らしが戻りつつあった。一つだけ違うのは、いじめの主犯、小笠原あかりが数日前から行方不明であること。そのおかげか、いじめもなくなっていた。
朝の出欠時、担任の先生が深面持ちで教室に入ってきた。
「数日前から行方不明になっていた小笠原あかりだが、昨日の夜遺体で見つかったそうだ。自殺だったそうだ。」
教室中が騒然とする。私も例外ではなく、驚きを隠せなかった。
異変はそれだけにとどまらなかった。その翌日、取り巻きの内田優美と今村沙希も立て続けに遺体で発見されたのだ。小笠原あかりが最初に見つかったとき、山奥で首吊りをしていたため自殺のように思われたが他二人も同じ状態で発見されたため、事件性があると判断されたらしく三人と関わりのあった生徒に事情聴取が行われた。
私は事情聴取の日、学校を休んだ。当たり前だ。私がいじめられていたと知った警察は私を疑うに違いない。いや、私が休んだところでクラスメイトの誰かが私の名前を出すことくらいわかっている。問題は警察からの疑いの目をどうやって晴らすかだ。
ピンポーン
家のチャイムがなった。嫌な予感がする。自室から出ると叔母さんが玄関先で誰かと話しているのが聞こえた。
「警察・・・?ええ、藍那は体調が悪いと言うので休ませました。はい、部屋にいると思いますが」
まずい。逡巡している暇はなかった。必要なものだけ持って窓から出て、裸足で駆け出した。向かう先は決まっている。
「あいちゃん!早く入って。」
かなちゃんに電話で状況を伝え、かなちゃんに匿ってもらえることになった。だけど、その場所はかなちゃんの家ではなくて知らないマンションの一室だった。誘導されるがままに部屋に入る。部屋には必要最低限のものしか置かれておらず、ひどく殺風景だ。
「あいちゃん大変だったね。でももう平気だよ、俺が守ってあげるからね。」
頭を撫でるかなちゃんの大きな手。
「あいちゃんのこといじめてたバチが当たったんだ。いい気味だよね。ね、あいちゃん。」
クスクスと笑うかなちゃんは、私が知っているかなちゃんではない。もう、我慢の限界だった。
「かなちゃん・・・なの?あの三人、かなちゃんが・・・」
お願い。願わくは・・・
ぎゅっと手に力を込めた。
笑い声が聞こえた。誰の声?それは明らかに頭上から聞こえてきた。ふと顔を上げると、かなちゃんが肩を震わせながら笑っている。
「・・・かなちゃん?」
その様子は今まで私を心配して優しく守ってくれていたものとは全く異なるものだった。
「ああ、長かった 何度も心が折れそうになったけど、今こうして僕のそばにあいちゃんがいる・・・」
ぶつぶつと呟く声は全て私の耳に届いている。
「かなちゃん・・・もしかして本当に」
声が震えた。その先を聞くのを躊躇っていると、かなちゃんは私の意志をくみ取ったように言った。
「そうだよ、ぜーんぶ僕がやった」
その顔は清々しく、恍惚とした表情だった。
「あいちゃんを虐めていたあの三人、僕がお願いしてたんだ だって虐めているのを助けたら僕があいちゃんのヒーローでしょ?でも誤算だった、あいつらもう少しであいちゃんが完全に僕のものになるってときにもうやめたいって訴えてきやがった、僕とあいちゃんの邪魔をするやつは全部消さなきゃって・・・だから全員殺しちゃった。あ、でも元々用済みになったら殺そうと思ってたんだよ、ただその予定が早まっちゃっただけなんだけどね」
まるでアニメのキャラクターのように喜怒哀楽コロコロと表情を変えながら、早口でまくしたてるかなちゃん。普段の大人しい彼からは想像のつかないものだった。
「小笠原あかり、あいつが最初に僕のところにやってきた。もう限界って。あんたらに付き合えないって。ピーピーうるさいから、その日の夜に呼び出して殺した。最初から殺人だってバレたら警察が捜査だなんだって動き出しちゃうし、早いことあいちゃんが疑われちゃうと思ったから自殺に見せかけたんだ。でも残りの二人は僕を疑ってくるだろうし、面倒くさくなる前に次の日のうちに二人とも殺した。その二人を小笠原あかりと同じような状態で発見させれば流石に殺人だと気づく。そうしたら警察は真っ先にあいちゃんを疑う。あいちゃんは僕に縋るしかなくなる・・・ほら、まさに今の状況だよね」
にっこりと屈託のない顔で笑って見せるかなちゃん。私はフルフルと震えるだけで言葉が出せず、ただかなちゃんの顔を見ていることしか出来なかった。
「あいちゃん、どうしたのそんな顔をして。君の大嫌いな母親だって殺してあげたじゃない」
彼はまるで何とも思っていない様子でケロリと言った。
「あれだけ毎日苦しんでたんだ、僕が何とかしないとって思ってた。あの日、訪問客装って家に入ってやろうと思ったんだけど運良くドアが開いてたんだ、そのおかげで簡単に計画が遂行できたし、あいちゃんも平和に暮らせるようになった。腐ってもあいちゃんの母親だからあんまり手荒な真似はしたくないと思ってたんだけどあいちゃんの苦しんでる顔思い出したら悔しくてムカついて・・・だからたくさん刺しちゃった。あいちゃんの代わりにしっかり復讐しといてあげたからね。ねえ嬉しい?」
私の頬をそっとなでた彼の手の温度は、熱のこもった瞳に反しとても冷たかった。
途端に視界がぼやける。自分の涙だというのはすぐに気がついた。
「不安だよね、でも大丈夫。警察にバレないように一生この部屋で一緒に生きて行こうね。大丈夫、この部屋は僕が一人暮らしをするって嘘ついて両親に借りてもらった部屋なんだ。両親は疑う気配もないし、疑うようならどんな手を使ってでも黙らせる。邪魔ものはいらないもんね。僕があいちゃんをすべてのものから守ってあげる。」
そうしてまた私の頭を撫でるかなちゃん。
ああ、限界だ。
嬉 し く て た ま ら な い
「ぷっ、あはは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
堪えていた笑いが、一瞬にして溢れ出してきた。その場に蹲るようにして、お腹を抱えて笑う。
「・・・あいちゃん?」
明らかに動揺したかなちゃんの声。無理もない。今まで私はなあんにも知らない、『かなちゃんの手の内で踊らされる可愛い可愛いあいちゃん』を演じていたんだもの。
「ねえかなちゃん、わたしとっっっっっっっても幸せだよ。ついに本性現してくれたんだもの。じれったかった、ずっと隠しているんだもんバレバレなのに。ふふっ、ほんとかーわいい。あんまり隠し通そうとするから問い詰めたくて仕方なかった。」
全身が歓喜に震え、鳥肌が立つのを感じた。さっきはついに告白してくれたというのに、感動でほとんど声がだせなかった。あろうことか、涙まで出てきてしまった。それをかなちゃんは怯えてると勘違いして・・・本当にバカだなあ。
「ど、どういうこと・・・え?あいちゃん、何言ってるの・・・?」
「うんうん、そりゃ混乱もするよね。あのねかなちゃん。かなちゃんが狂ってて、私のこと愛しすぎてることなんてとっくの昔に気付いてたんだよ。なんで気付いたと思う?あのいじめっ子三人ねえ、私の操り人形だったんだよ。急にいじめてくるからなんでだろうって思ってたんだけど、ある日私に教えてくれたの。『私たち、脅されているの』『ねえお願い、高橋要をどうにかして、幼なじみでしょ?』『あいつ頭おかしいよ』って。」
それはもう真っ青な顔で、もう限界と言わんばかりに口々にかなちゃんの本性を告白した。驚いた。だけど同時にとても嬉しかった。さしずめ依存させるためにいじめを守ったふりをするという考えだろうということはすぐに想像がついた。
「バカだねえかなちゃん。もうずっとずっと前からかなちゃんに夢中なのに。ねえ、嬉しい?」
かなちゃんの顔は、嬉しいだとか幸せだとかそう言った感情とは全くかけ離れた顔をしている。
「じゃあなんでいじめっ子たちはその後も私をいじめてたと思う?あれねえ、私がそのままいじめるように指示したんだよね。かなちゃんが私のこと庇ってくれるたび、本当に本当に嬉しかったんだよ。私がなあんにも出来ないいじめられっ子だと思って。私を縛り付けることが出来ていると思って。可愛い。可愛い。可愛い。可愛いねえかなちゃん。」
よくできました、とかなちゃんの頭を撫でるけれど反応はない。よほど予想外のことでショックだったのだろう。
「それとね、お母さんのことを殺してくれてありがとう」
あれは本当に嬉しかった。いつもと違う家の雰囲気で、もしかして、と思った。期待で胸が膨らんで、心臓がドクドクと音を立てたことを覚えている。あのあと、かなちゃんが一瞬本性を現したから耳を疑ったけどまだ隠し通す素振りを見せていたから付き合わざるを得なかったんだ。
「正直、お母さんを殺してくれるかどうかは賭けだったんだけどね。最悪、かなちゃんがお母さんを一緒に恨んでくれるくらいでもよかったんだ。だけど!かなちゃんは殺してくれた!毎日家の鍵開けっぱなしで出て行ってよかった。偶然鍵が開いてるなんてことあるわけないでしょ?物事には理由があるんだよかなちゃん」
おかしくってクスクス笑う。
「あの母親、壊れちゃってガラクタだったから。始末してくれて嬉しかったんだよ。かなちゃん、いつ種明かししてくれるんだろうって待ち遠しかったから今日、思い切って聞いてみてよかった。」
そう、願わくは。願わくは今、ネタバラシして欲しいと。早くかなちゃんと結ばれたいと。そう思っていた。
「努力って、実を結ぶんだねえ。全部私の思い通りになった。あ、かなちゃんの思い通りにもなったから一石二鳥だよね!ハッピーエンドだ!」
そう言ってかなちゃんの顔を覗き込むけれど、その顔は私とは反対の表情。
「僕のこと・・・ずっと騙してたのか。バカにしてたのか。」
やっと口を開いたかと思ったら、そんな言葉だった。
「ねえ、そんなこと重要?大事なのは二人とも望んだ結果になったってことじゃないの?」
邪魔者がいない環境でこうして二人でいられることは、二人の望んだ結果のはずだ。
「あいちゃんは僕の、人形だと思ってた。手のひらで可愛く踊る人形だって。それなのに・・・」
私を見上げる顔には、愛情なんて一ミリもなかった。あの優しいかなちゃんは、どこにもいなかった。
最悪の結果が頭をよぎった。
薄々感づいていた。
かなちゃん、私のこと愛してる?
私がこうして種明かしをして、かなちゃんは驚きつつも喜んでくれて、ハッピーエンド。それが私の描いていたシナリオだった。でもどうだ、かなちゃんは全く喜ぶ素振りがない。
「かなちゃん、ほんとは狂った自分が好きなだけなんじゃないの?ただの自己満なんじゃないの?」
そんなことはないと否定してほしい。愛していると言ってほしい。それなのにどうして何も言わないの?
「うるさいうるさい!!!あいちゃんは・・・僕に操られていればよかったんだ!!!それなのに・・・」
ああ、ほらね。最悪の事態だ。
かなちゃんは私に尽くしている自分が好きなだけだった。恐怖を感じている私をみて優越感に浸りたいだけだったんだ。
「もう、いらない。僕の人形じゃないあいちゃんなんて。今から警察に、あいちゃんが全部やったって、そう言うんだ。凶器は僕が持ってるから警察に証拠として出せる。あいちゃんには動機だってある。どう?これは計算に入ってなかったでしょ。やめてって縋ってくれたらいいんだ。ほら、僕の可愛い人形・・・・・・・」
言い終わる前に、途切れた。
「残念だったね。私の方が、いつも一回りも二回りも上だなんて。予想してなかったでしょ?私がかなちゃんを殺すだなんて。」
かなちゃんの左胸には、果物ナイフ。溢れてくる血は私の冷めた手を温かく濡らした。
「え・・・」
「かなちゃん、かなちゃんは私のものだよ。だからね、どこにも行かせない。」
がくんと、膝から崩れ落ちるかなちゃんの体を抱きとめる。
「ああ、かなちゃん・・・かなちゃんにこうして抱きつきたかったんだ・・・その願いが叶って幸せ。」
たとえ心が私のものじゃなくたって、誰にも渡さない。どこにも行かせない。かなちゃんは、私のものだ。
「この部屋でずっと。ずっと二人でいようね。毎日一緒に寝て、一緒にご飯食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にゲームして、ずっと一緒に暮らすの。楽しみだね。」
「あい・・・も・・・・・・僕のこと、人形・・・・・」
絞り出すように何か言ったけれど、その声はほとんど私に届くことはなく。
私の腕の中にいるかなちゃんはもう一切動かなくなった。
「かなちゃん気付いてなかったよね。私のこと一度も好きだとか、愛してるだとか、言ってくれなかったんだよ。でも大丈夫。これから愛を育んで行こうね。」
ずっとずっとずーーーーーーーっと一緒だよ。
私ってかなちゃんに好きって言ったっけ。あれ?そういえば思ったことすらなかったや。
そう気付いたときには、お気に入りだった人形はとっくに部屋の隅に転がっていた。
ここまで読んでくださり本当に本当にありがとうございました!
主人公の心情を分かった上で2週目を読みたくなる、そんなお話が書けたらと思い盛大に失敗しました!しーらない
ネタバレ含みます!↓
最後の2行に関して補足させていただくと、実は藍那も要のことを人形程度にしか思っておらず、要に対する感情に気づいたときもうすでにかなめには飽きていて、亡骸をほっぽり出してしまっているという終わり方です。
恋愛感情は実は一時的なもので、熱りが冷めたら実は相手のことなんてそれほど好きじゃないのではないかな
恋人や好きな人って、自分の思い通りにならないと飽きてしまう存在で、願わくは人形であってほしいのではないか
なんて気持ちがあり小説に落とし込んでみました(実はそんなしっかりしたこと考えて作ってない)
いろいろ現実的に考えたら突っ込みどころが多い作品になってしまいましたが、雰囲気で…オネガイシマス…
それでは長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださり本当にありがとうございました!
少しでもあなたの記憶に残る作品となったらいいなと願っております。
2021.7.14 冬白葵