第5話 ーー 旅立ちの日 ーー
今回は説明会です。あ、前回もか。
作者は説明大好きなので…慣れて下さい。
春の終わり、夏が少しずつ迫ってきている今日。
あのお師匠様の命日から2週間もかけて準備を整えた。
山登り用のブーツを新調して慣らし、食料の整理と保存食を作成することから初め、それに家にある、旅には持ち出せず痛んでしまうような不要な物をラルゴに売り、旅に必要な物を買い揃えた。
そして遂に今日、帝都へと向かう旅路に出る。
今の格好はさしずめ旅人と言ったところだろうか?
長いズボンの裾を膝下までの長めのブーツに入れ、黒い長袖シャツの上に藍色のローブを纏った。
素材も軽く、長距離を移動するにはうってつけだ。
そして、左手から腕まで覆うほどの長めのグローブをシャツの上から装着する。
このグローブは動物の皮で出来ており、とても頑丈だ。因みにこのグローブには細工がしてあって、手首の所に切り込みが入っている。
ここから手を出して、左手を自由に使う事も出来る仕様になっている。
反対の右手首に皮紐のブレスレットを着けた。ぶら下がっているのは小さめの笛。邪魔にならない程度の長さにしたし、いい感じだ。
お師匠様から戴いた短剣を腰に取り付け、何時でも右手で引き抜ける様にした。
他にも、ラルゴから買った鞘入りの小振りなナイフを右脛のブーツの中と左腕のグローブの下にベルトで固定した。
丁度、手首の切り込みからナイフが抜ける様な仕様だ。
コレで仕込みナイフは3本。旅の中でのトラブルを防ぐ為に一見、武器など無い様に色々と隠して仕舞ってみた。
手製の背負い鞄に、大きめの鉄製鳥籠をぶら下げて、これで旅人の完成!
仕上げに鈍色の前髪の分け目を変えて、紅色の瞳を隠した。
よし!忘れ物は無い。
「行こう!」
意を決して玄関の扉を開く。
ーーあの日と同じ青い空と白い雲。
ふわりと香る草木の匂いを感じながら扉の先へと踏み出した。
家の鍵を締めると、お師匠様が遺した封印と認識阻害の魔術が作動する。
家と庭は木や草に変わり、この森の中に上手く溶け込んでいる。
凄腕の魔術師でなければこの魔術には気付けない。
これでこの家は数年は確実に安全だろう。
家の裏手へ回り込むと陽当たりの良い開けた場所がある。
その場所には大きな岩が2つ。ひとまわり小さな岩が1つ。間隔を開けて並んでいる。その岩はそれぞれ人の手によって四角になる様、切って整えてあり、表面にはそれぞれ違う花の絵と文字が丁寧に彫り込まれている。これらは墓跡だ。
墓跡の周りには白い花が一面に咲き乱れ、その上を蝶がひらひらと遊んでいた。
僕はお師匠様の名前が彫られた岩の前にしゃがみ込むと、鞄から取り出した蒸留酒を岩の上にかける。
白い花には似合わない酒の香りが風に乗って流されていく。
目を閉じて、両手を胸の前で組んだ。
その掌には例の鍵達が握り込まれている。
ーーー鳥の囀りと川から聞こえる小さなせせらぎ、風の音、自分の吐息だけが僕の耳に届いた。
家の鍵と、お師匠様から頂いた鍵、この3本に紐を通して首から下げた。
着ているシャツの下に隠せば完璧だ。
肌身離さず、そして他人には見にくい。
文句のつけようが無いな!!
いや、難点が一つだけあった。
…この鍵、肌に触れるとちょっと冷たいかも。
仕方がないけどひんやりする。
「お師匠様、行って参ります。」
お師匠様の墓前に挨拶を残すと、僕は立ち上がり、旅へ踏み出した。
ピュー ピュー ピュー
右手の笛を低く吹き鳴らす。
すると家の裏の森から一翼の鳥が現れた。アルだ。
僕のグローブの上に降り立つと、アルは目を細め、僕をその瞳に写す。
頭を撫でた後、アル用に調整した半生肉を与えてやる。
アルは僕が育てた鳥だ。
エナーマリという品種の鳥で、魔力を感じる事が出来る珍しい種だ。
羽毛の殆どは白色だが、冠羽と尾羽のみ、段々と黒へ色が滲んでいる綺麗な鳥で、黄色い嘴と爪は獲物を抉る事が出来るほど、鋭く硬く強い。
この鳥は、魔力を覚えさせて主人のところへ戻る様に訓練できることで有名だ。魔力を糧にして数日くらいなら生きる事も出来る。
其れを踏まえて、古くから伝書のやり取りや小さな物などの運搬等を戦時中に使用し、いち早く前線へ伝令を伝える事にも大変活躍するらしい。
また、爪と嘴を利用して戦闘の妨害や援助などにも使える為、騎士や兵士などでも扱う者がいるらしいが、訓練は容易ではない為 数が少ない。
エナーマリの平均寿命は40年と言われており、魔力を与える程長生きをすると言われている。
人に慣れさせる為には生後半年以内にトレーナーと出会わなければならないと決められており、アルは僕が5歳の祝いに生後4カ月で戴いた鳥なので、今年9歳になったばかりだ。
「アル、今から帝都に行くよ。すまないがお前もついて来てくれるかい?」
「キュー」
俺の目を見て返事をしてくれたアルは、俺の言っている意味が分かっているのかな?
その返事は良い意味か悪い意味かわからないけど、きっと良い意味だと思ってるよ、相棒。
「有難うアル。じゃ、いつもの様に行こう。飛べ!」
アルが飛びやすい様に斜め上に左手を投げる。
すぐさま、右手で笛を吹いた。
指示を言葉にすると、【先行】【警戒】
これで僕が投げた方角に人影や動物、魔物が居ないか警戒してくれる。
もし、問題が起きていたら帰ってくるが、問題がなければそのまま飛び続ける。
また、休憩する時は、僕の上で旋回してから降りてくる。
そういえば魔術を使えば、アルが見ている光景を見る事が出来るんだけど、それなりの魔力量が取られるのと、右眼にアルの、左眼は自分のが見える為、とても酔いやすく不便すぎてこの魔術は殆ど使った事がない。使いたいと思わないけど、あんなに高く飛べる鳥を観ているとやっぱりもう一度あの光景が見たくなるのは何故なのだろうか。やらないけど。
「さてと、ぼちぼち行きますかね。」
行く行く詐欺ばかりでちっとも進まない事に少し笑ってしまった。
後ろ髪を引かれながらも歩き出す。
え?こんな鳥、いるわけないだろ?って?
いるわけないじゃない!物語の中の特殊効果よ!
へー、この世界にはこんな生き物もいるんだー!って思って!疑問に思ったら終わりよ!終わり!
そんな事言ってたらサトシなんて妄想の産物と旅してることになるから!ぼっち旅になっちゃうから!