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第4話 ーー 手紙 ーー




お師匠様の引き出しから、木箱を取り出す。

テーブルの上に置いて、中を改めると手紙が1通。


「今年で最後だね。」


「クリスの手紙。今年はなんて書いてあるのかしら?楽しみね。サディ。」


フラウはギュッとサディを抱きしめて、僕の後ろから手紙を覗き込んだ。



"風刀"



手紙の端を指でなぞり、魔法で切り開けた。

開け口から中身を取り出す。


そこからは折り畳まれた手紙と、鍵が二本入っていた。

親指大の大きめの鍵と、小指大の小さな鍵。

手にとって見てみたが、鍵には特に何も書いてない。なんの鍵なんだろう?

疑問に思いながらも、手紙を開いて読んでみる事にした。




アランへ


14歳おめでとう。

と言っても、もう少し先の話だかな。

14歳になると言う事は、後一年で成人すると言う事だ。

この国の男は皆、15歳になる年の初めに帝都で成人の儀を行う決まりになっているのはお前も知っている事だろう。


遂にお前も成人するのか。嬉しいが、不安もある。お前の事だから案ずる方が無駄かも知れんが、大人への一歩を踏み出すのだから今以上しっかりしなよ?

あぁ、成人の儀を見る事ができないのが悔しい。


大人になったお前にとやかく言うのも馬鹿らしいので、今回の手紙で最後にしようと思う。

さて、最後にお前への選別として 2つの鍵を渡そう。

この鍵は全て帝都で使う物だ。

必ず肌身離さず持ち歩け。絶対に失くさず、手放すなよ?


どうせ成人の儀を行う為に帝都迄行かなくてはならないのだから、この鍵を持って行き帝都で使え。

使い方は、帝都にいる"ギュンター・ロドニエス"と言う男に聞けばわかる。やつは城にいる。私の名前を伝えればわかるだろうが、念の為に私がやった短剣も見せてやれ。

だが、疑り深さと叱言はしつこい奴だったから、もし短剣を見せても疑う様なら鍵も見せてやれ。そこまですれば流石のあいつも信じるだろうさ。


アラン、成人の儀を終えたら帝都で職を探すんだ。お前はここから出た事のない世間知らず。少し世の中ってもんを見ておいで。嫌になったら、またこの家に帰ってきたらいいんだから。

 戸締りはきちんとする事、数年は帰って来なくていい様に食べ物を片づけて、家具には布をかけておくんだよ?シーツが沢山あっただろう。それを使いな。まぁ、まだあるかはわからないが。

お前の事だから、私が死んだ後も大切に保管しているだろうから心配はしていないが、もし無い様なら新しく買いな。

それから、立て掛けてあるものは倒れて壊れてしまうかも知れないから 家を出る前に先に床へ優しく倒して置いてから行きなさい。

家を出る時には山登り様のブーツにしなさい。短剣は腰か脚にしなよ?幼い頃の様にふざけて変な所に着けるんじゃないよ?

鉄の皿とカップは必ず鞄に入れなさい。

フォークやスプーンは念の為銀製の物を持ち歩きなさい。

井戸には蓋をしていきなさい。

行商人のハン…いや、今は息子のラルゴが引き継いだかも知れないね。兎に角、アルに手紙を付けて暫く留守にする旨を知らせな。家にいると思ったら誰も居なかったなんて、失礼な事は出来ないよ。


言い出したらキリが無いね。

他にも、まだまだ言いたい事は沢山あるんだが、アランなら大丈夫だって、上手くやるって心の中ではわかっているんだ。

でも ついついこれが最後の手紙だと思うと言葉が止まらなくなってしまって情けないね。

お前に残す言葉を選び切れないんだ。

許しておくれ。


アラン、お前はいい男だ。何せ 私が育てたんだ。特にいい男になっているだろう。

誰かの為に何かをする勇気も、誰かを思いやる心も、誰に対しても優しくしてやれる言葉もある。精霊と親交を持つ事もでき、魔法も使える。そして其れなりに顔が良い。

それは、お前が努力し、手に入れた物だ。(顔以外だがな)


アラン。お前の進む道には、山や谷があるだろう。

もしかしたら、川が流れているかも知れない。崖があるかも知れない。

2つに分かれている時も、変に曲がりくねっている時もあるだろうさ。

だが、お前が決めた道を突き進め。自分の未来を信じなさい。

お前は幼い頃、私が口にした言葉に間違いは無いって言った事を覚えているか?

あの時は幼いお前になんと言えば良いのか咄嗟に言葉が出てこなかった。

今なら、胸を張って言える。


私が口にする言葉に間違いがないのでは無い。

私が口にした言葉は、必ず私に帰って来る事を知っているから、嘘や偽り、相手を傷つける言葉を口にしないように心を配っているからだ。

そして、有言実行という言葉があるだろう?一度口にした言葉を嘘にしない努力をしたのさ。

今のお前なら大丈夫だと思うが、この答えを頭の片隅に入れておいてくれ。

お前は誰かを傷付ける事がないように。


最後に。

アラン。私はあの雨の日にお前と出会えた事が、救いだった。今ではとても感謝している。

そしてお前の笑顔が一等好きだった。

有難う。大好きだ。愛する私の馬鹿息子。

怪我や病気には気をつけなさい。



クリスティーナ・イリニ・ヴァシレウス




僕は、また溢れはじめた涙を拭いもせず、手紙を最後まで読み終えた。

僕の左手を精霊達が撫でる。


「クリスったら、相変わらず手紙を書くのが下手ね。言いたい事を思いつくままに書いているから、どれがメインなのかさっぱりだわ。でも、暖かい手紙ね。クリスらしいわ。」


「…ぅん、僕もそう思う。」



サディは僕の手首にくるりと尻尾を巻き付け、優しく寄り添ってくれた。








この後、精霊界にフラウもサディも帰らずに、僕と同じベッドに入ってくれた。

何故だか寝付けなくなった僕のために、お師匠様の思い出話や僕のあまり覚えていないくらい幼い頃の失敗談を、眠るまで続けてくれた。

2人の思いやりがとても嬉しい。







おやすみなさい。

本編には出なかった秘話、、


ちなみに、お師匠様はアランが2歳の頃から、いつ自分が死んでも良い様に3歳、4歳…と手紙を残しておりました。

毎年誕生日にその手紙を渡していた設定です。

つまり、生きているときは手渡し。

亡くなってからは、アランが引き出して読んでいたのです。

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