戦え、レジスタンス
世界に革命は必要か?
分からない
どうしてだ?
このままゆっくりと衰退していくことが正しいことか、間違いなのか、俺には分からないから
なるほど
では体験してみるかい?
ゆっくりと目を開けた
電車を待っている間に眠ってしまっていたようだ
夢の中で誰かと会話していたような…
今何時だろう
スマホの表示は16時47分
乗ろうとしていた電車があと1分で来る
黄色い線の前に立ってようやく気付く
俺と同じようにしているのは黒い塊
真ん丸な黒から細長い手足が生えている
右にいるヤツは大きなひとつ目
左にいるヤツは口だけだけど、丸と比較すれば大きくはない
右のヤツが俺をちらちら気にしている
左のヤツは目こそないが、右のヤツと同じようにしているのがなんとなく分かる
「…どうなっている」
到着した電車に乗っていたのは人ではなかった
左右のヤツと同じようなヤツら
目と口についてはある位置や大きさ、つまりバランスが違う
つまり個性というものはあったが、基本的な外見は同じ
黒い丸から細長い手足が生えている
俺はその電車に乗らなかった
恐ろしくて乗れなかった
誰かいないのか
人間はいないのか
構内は普段と変わらない様子であるように思えるが、どこか薄暗い気もする
どこへ行っても人間はおらず、黒いヤツがちらちらとこちらを気にするばかり
ふとある思いが浮かぶ
改札がない
普段自分が使う路線以外は目もくれないから構内の構造はよく分からない
だが、明らかにおかしい
ホームを移動することは階段を使って出来る
普通、その先に改札があるものじゃないか?
だがない
目に入ればこのおかしな駅を出ようと思うはずだ
そうだ、何故俺は今まで構内の探索をしていた?
そもそも何故最初から出ようとしていなかった?
分からない
多くの気配を感じる
考え事にふけっていたためか、随分近くに来るまで気付かなかった
振り向くと、多くの黒いヤツが俺の方向へ向かって走って来ていた
攻撃性の高いヤツなのだろうか、襲われる
だが隠れる場所はない
武器になりそうな物なんて当然持っていない
あと5m、4m、3m
2mへのカウントをしようと思ったが、そこから近づいて来ない
こちらの様子を見ているのか
攻撃性が高いわけではなく、知力が高いのかもしれない
すぐにでも立ち去りたいところだが、背を向けるのは危険だ
それに、運の悪いことに階段はヤツらの背後にしかない
…運
違うな
知力の高いヤツらなのだと仮定するなら、俺がここまで来るのを待っていた可能性がある
ならば、やはり勝負する必要がある
俺は教科書や筆記用具を持ち帰る優秀な生徒だ
予備として沢山のシャーペンや消しゴム、シャーペンの換えの芯を持っている
なんなら今日は美術の授業でデッサンをしたから鉛筆まで持っている
これで戦うしかない
目の大きなヤツが多い場所を選んで、目を刺して突破し、駅を出る
この黒いヤツが駅内にしかいないとは限らないが、一先ずこの状況を打破して隠れられる場所を探すべきだ
手に持てるだけシャーペンと鉛筆を持ち、ポケットにシャーペンの芯を入れる
準備は整った
あとは走り出すだけだ
…しかし、何故黒いヤツらは黙って見ているのだろう
だが好都合
一気に距離を詰めて1mのところで1本投げる
あの特別大きな目をしているヤツならどこかしらに当たるだろう
驚いて少しの間でも動きが鈍くなれば嬉しいが、そう上手くいくか…
どちらにしろ、やる以外の選択肢はない
走り出した瞬間、目を覚ました
…目を覚ました?
スマホを取り出して時間を確認すると16時47分
さっきと同じだ
変な夢でも見ていたのだろうか
兎も角乗ろうとしていた電車があと1分で来る
黄色い線の前に立つ
夢とは違って左右に立っているのは女性だ
見過ぎたのか、ちらりと見られる
「…は?」
着た電車には人間が乗っていた
科学的に証明は出来ないが、人間に見える生物が乗っていた
だが、俺電車に乗らなかった
さっき夢でみた配置と全く同じように乗っていたからだ
なにかがおかしい
違和感を確かめるため、駅構内を歩き回る
しばらくすると警官が俺の背後から大勢来た
大勢と言っても7人くらいだ
一度に7人もの警官を見れば大勢と言いたくもなる
なにか言われているようだが、聞こえない
正確には音として認識はしているが、それが言葉となって処理出来ていない
痴漢にでも間違われているのかもしれない
だったら逃げるしかない
痴漢はやってなくても逃げるしかないからだ
俺は教科書や筆記用具を持ち帰る優秀な生徒だ
予備として沢山のシャーペンや消しゴム、シャーペンの換えの芯を持っている
なんなら今日は美術の授業でデッサンをしたから鉛筆まで持っている
これで戦うしかない
あのか弱そうな女性の顔すれすれを狙って、怯んだ隙に逃げる
手に持てるだけシャーペンと鉛筆を持ち、ポケットにシャーペンの芯を入れる
準備は整った
あとは走り出すだけだ
しかし、何故警官は黙って見ているのだろう
…黙って見ている
女性警官の位置はさっき夢で狙おうとした目の大きな黒いヤツと大体同じ位置にいる
同じ位置…
あ、この場所、夢で黒いヤツに囲まれたときと同じ場所だ
俺がシャーペンを落としたのを合図に警官が走り出す
特に抵抗することもなく捕まえられる
警察所、最低でも交番に連れて行かれるかと思ったが、連れて行かれたのは駅内の小さな部屋だった
「高校生の男の子が蒼白な顔をしてふらふらと歩いているから自殺じゃないかと通報があったんだよ」
向かいに座った男性警官は心の底から俺のことを心配している様子だった
だが、同時にどこか不気味さを感じた
「きみ、夢を見なかったかい?」
「夢?」
「本当のことを話してくれないかな。そのために2人にしてもらったんだ」
刑事ドラマでは異例が毎回のごとく「今回だけ」と許されているが、実際はそうではないことくらい分かる
だから…という接続詞が合っているかは分からない
だけど、これがちょっとした特別なことだと、なんとなく分かる
「見ました。黒い球体に細長い手足が生えた生物のようななにかが構内にいる夢を」
今思えば夢と同じ順路で構内を探索していたし、駅を出ようという気がなかったことも同じだ
「そいつらにさっきの場所で囲まれて、目の大きなそいつにシャーペンを突き付けて怯ませて突破しようとして目を覚ましました」
「どうして夢と同じようにしなかったのかな」
まるで同じようにしてほしかったかのような言い方だ
正直に言うという選択は間違いだったか…?
だが、話し始めてしまっては仕方がない
ある程度話して、あとは覚えていないとか誤魔化そう
「正直に、全部話してほしいな」
考えを見透かされたような言葉とタイミング
そして、目に背筋が凍る
「一番左に…か弱そうな女性警官がいました、よね。目の大きなそいつも一番左にいたんです。それで、自分が夢と全く同じ行動をしていることに気付いて…」
なんで止めたんだろう
多分驚いてシャーペンを落としただけだ
俺には確かに戦う気があった
だけど襲う気があったとは流石に言えない
「気付いて?」
さっきから回答を急かすな!
ペースが乱れる
その声を聞くと正直に話さなくてはいけない気がしてくる
「気付いたからってどうして止めたのかは分かりません。でも気付いたから止めました」
「なるほど、分かったよ」
嘘を吐いたことが、と付け加えられるような気がした
いやきっと、心の中ではそう言っている
「これまでにもこういった事例があってね。夢の中でも夢を見た人が多いんだけど、キミはどうかな」
「夢というより、誰かと会話したような…」
何故正直に答える
違う、知らない
その一言で良いはずだ
「なんて言われたのかな」
言われた…か
問われたのではなく、言われたことならひとつ
***
黒いヤツが見てくる
不愉快だ
でも一度刃物を振ればそのまま動かなくなる
しばらく構内でそうしていると、多くの黒いヤツが俺の背後から大勢来た
なにか言われているようだが、聞こえない
正確には音として認識はしているが、それが言葉となって処理出来ていない
面倒だ
あの特別大きな目をしているヤツならどこかしらに当たるだろう
怯んだ隙に逃げる
…でも、逃げてどうするんだろう
どこへ逃げれば良いんだろう
そもそも、どうして俺はこんなことを…
聞いたことのある気がする声がなにかを言った
これまでの声と違う
言葉として聞こえそうだ
だってほら、さっきまで騒がしかったのに息を吸う音まで聞こえる
「戦え、レジスタンス」