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転職魔女、スローライフ生活を始める

 

 時刻16時。


「ふあ〜、気持ちよかったぁ〜」


 湯気と共に風呂場から出てきた私は、バスタオルで体を拭きながら台所に向かう。

 冷蔵庫からアイスを取り出すと、隣のリビングのソファに座る。テレビを付け、アイスにかぶりつく。


 ピンポーン


「は、はい!」


 私は手元のアイスを一口で食べ、体を拭いて下着を付ける。そして、大きいクローゼットの中にポツンと1着だけ置いてある魔女の服を取り出し、急いで着替える。

 玄関まで移動してドアを開けると、そこにはシャネルが袋を持って立っていた。


「こんにちは、魔女様。新居の住み心地はどうですか?」


 そう、ここは私の家だ。

 先日カーネル不動産で買った家の手続きが終わり、この数日間シャネルに手伝ってもらいながら家具や生活用品を運びこみ、やっと生活出来るようになったのだ。魔女の本は少しの間シャネルから借りて目を通したのだが、内容に問題があった。


「すごく暮らしやすいよ。これで服があれば完璧なんだけど……」


「服ですか……あれは気の毒です……」


 問題というのは服のことだった。魔女の本によると魔女は特定の材料で作られた服を着ると力が増幅する代わりに、それ以外の服は着ることが出来ず、無理やりに着てしまうとその服が爆散してしまうのだ(下着は大丈夫らしい)。

 そんなことも知らずに上下の服を試着してしまい、試着室から出た時に服が爆散し、下着姿を晒してしまったのだ。オマケに弁償させられてしまった。


「何でこんなコスプレ衣装を常時着なきゃならないのよ。力なんて求めてないのに……」


「まあまあ、似合ってますから」


 私はため息をつきながらシャネルを中に入れる。

 リビングのソファに向かい合って座ると、シャネルが腕にぶら下げている袋を机の上に置く。


「今日は珍しいものを持って来たんです!」


 そう言ってシャネルは袋の中に手を入れる。


「冒険者ギルドにはダンジョンで発見された物を無償で引き取るサービスがあるのですが、ダンジョンの物は高値で売れるのでそのサービスを使う冒険者は少ないのですが、今朝、1つだけ引き取って欲しいと言う冒険者が現れたんです!」


 シャネルは袋の中から20センチくらいの置物を取り出す。その置物は黒色で、墓石のような形をしている。何処か不気味な感じがする。


「これだけオークションで売れ残ったらしくて、持ち主が仕方なく家の中に置いていると、その日から急に肩凝りや頭痛がして、勝手に物が落ちたり、心霊現象が起きたらしいです」


「へぇ……で、何でこれを持ってきたの?」


「それはですね、魔女様に検証して貰おうかと……」


「はぁ!? 嫌に決まってるでしょ、あんたの家で検証すれば良いでしょ?」


「そこを何とか! 私はギルドの空き家を使わせて貰ってるので、心霊現象が起きてしまうと商売に影響しますし。魔女様ですから大抵の事が起きても大丈夫ですよ!」


 私は笑顔で話すシャネルに怒りで我を忘れそうになるが、冷静さを取り戻して右手の握り拳を解く。


「それでも嫌なのは嫌! せっかくこれから夢のスローライフ生活が始まるのに……」


「では、そういう事ですので! 明日の朝には取りに来まーす」


 シャネルはいつの間にか姿を消していて、その言葉の後に玄関ドアの閉まる音が聞こえた。

 私は明日シャネルにグーパンチを浴びせると決意し、夕飯の用意をしに台所へ向かう。

 こうして、この不気味な置物と1晩を過ごすことになった。


明日は休載致します。

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