転職魔女、意外な結果に頭を抱える
「魔女様、『魔女の本』を持ってきました!」
シャネルはあれから10分程で戻ってきた。幾ら家が近くてもこの短時間で戻ってこれたのは、少しも休まず全速力で走ったということだ。その証拠に、服が汗でびっしょりと濡れている。
「シャネル、ありがとうございます」
「魔女様、タメ口で結構です!」
シャネルは呼び方や喋り方に厳しいようで、ここだけは譲れないという顔をしている。
「わ……分かった。じゃあ、その本を見せて」
「はい、魔女様!」
シャネルは両手で抱えている分厚い本を私に渡す。表紙を見ようとするが、真っ黒で表と裏の区別がつかない上、この本の題名の文字も見当たらない。オマケにボロボロで、所々が破けている。
この前に見た怪しい本よりもさらにボロく、こんなものが世間に売り出されているとは到底思えない。
私は恐る恐る本を開いた。すると、そこには手書きの綺麗な文字が記されていた。
『5月11日。私は魔女、リリー・ネレガントだ。今日から日記をつけようと思う。』
「ガチのやつじゃん、これガチのやつだよ!」
私は取り乱して大声を出してしまう。予想外の内容に冷や汗が止まらない。
今の内容からすると、魔女が本当にいたということだ。何処かの暇人が適当に書いたのかもしれないが、この本のボロボロの状態が妙に現実感がある。
私は動揺を抑えながらも、続きを読む。
『始めに見た目の話をしよう。顔は我ながら美人、どんな男も私に夢中だ。服装は……トンガリ帽子にノースリーブのワンピース、ミニスカートを着ている。冬になるとロングコートも着ているな。色はそれぞれ紫と黒だ。それから……』
「何で同じなんだよ!」
私はまた取り乱して大声を出してしまう。
だんだんと私が魔女である事が証明されてきているような……
私はもう一度動揺を抑え、ページをめくる。そこからは魔女に関しての知識やその日に起きた事が記されていた。
私は目を通しながらページをめくり続け、遂に最後のページまで辿り着いた。しかし、何かを零したようで黒いシミでいっぱいだった。
読み取れるたった数行の文には、こう記されていた。
『転職の書という物を作った。この本に記されている魔法陣を起動させれば元の職業から強制的に転職させ、魔女になる事が出来る。まあ、起動しないように色々仕組みを施そうと……』
「とどめの一撃っ!」
私はとどめの一撃を受けたように尻もちをつく。この文に出てくる『転職の書』は、私が王国から追放されてラルドーラ王国に向かっていた時、偶然見つけたものと同じなのだろう。
魔法陣のことも覚えている。あの光は魔法陣が起動したために起こったものと考えれば、説明がつく。
「つまり……本当に私が魔女ってこと?」
どうやらあの転職の書のせいで、私は魔女になったらしい。ずっと首を傾げているシャネルにこの事を話した。
「なるほど……つまり、この日記を書いた魔女様ではなかったものの、その魔女様が残した転職の書を使って転職した魔女様なのですね?」
「ややこしいけど……あってると思う……」
まさかシャネルが言った通り、本当に私が魔女だったとは……
私は意外な結果に頭を抱えた。
補足話:シャネルはとても用心深い人です。魔女の本の内容を全て頭の中に入れているシャネルは、ラルドーラ王国の入国門でレイカを見つけた時に、服装が魔女の本に記されている内容と同じ事から、もしやと疑っていました。しかし、シャネルは服装だけで決めつけず、レイカと一緒に行動して確認しようと考えたのです。
この補足話を気に入ったという人は、★★★★★(評価)よろしくお願いします。