転職魔女、魔王と戦う その4
ナルーシャは震えた声でゆっくりと話す。
「ユイ=ゴーストは創世の魔法使いユイネルと悪魔の間に生まれてきたゴーストでな、彼女の話によると1300年前の戦争で両親が死んでしまったそうだ。私はそんな彼女に彼女だけが入ることの出来る壺を渡した」
私はリビングに置いてあるあの直方体の物を思い出す。両親を一遍に亡くしてしまったユイちゃんの気持ちを考えると、胸が痛くなる。
「まぁ、ユイネルは自業自得だ。戦争勃発の原因である人口爆発は、ユイネルによるものだ。どんな方法を使ったかは分からないがな」
ナルーシャは1度血の付いた右手に視線を移し、すぐに夜空を見上げる。それに吊られて、私も同じく夜空を──正確には夜空に浮かぶ勇敢な少女を見つめた。
「詠唱魔法!
善と悪の間に生まれし 正と負の間で育てられし少女よ
全てを知り為す仲間と それを護る為の勇気と それらを結ぶ根性を持て
大丈夫だ
天を翔ける星が無数に瞬く時 我は少女の傍に居たり
暖かい天空で いつも少女を 暖めている
『終結の滅光』」
その瞬間、ユイちゃんに沢山の光が集まる。それはユイちゃんから生える翼のように見え、その姿は正に天空から舞い降りた天使の姿だった。
「綺麗……」
ただそのままに感じられた感想が、漏れてしまった。
ユイちゃんの翼からは光の糸が伸び、ゆっくりと魔王を包み込んでいく。
その時、私はふと気づく。
この魔法の詠唱は、ユイネルからユイちゃんへのメッセージだったのではないだろうか。人間と悪魔の間として生んでしまったユイちゃんへの、メッセージではないだろうか。
仲間と、勇気と、根性を持ちなさい。大丈夫。私はあなたの傍に居る。そして、あなたを暖かく見守っている。
単なる私の妄想かもしれない。見当違いのことかもしれない。でも、もしこうなら、合っているのなら……とても良いお母さんだったのだな、とただひたすらに思った。
「さあ、終わるぞ」
ナルーシャが夜空を見上げたまま言う。
「何が?」
私も同じく夜空を見上げたまま言う。
「人間と魔王の戦いが、だ」
すると、ユイちゃんの翼が1層大きくなる。それと同時に魔王は光の糸に覆われ、ユイちゃんが右腕を振り上げた途端。その光の糸はさらに眩い光を放ち、花火のように広がり、散っていった。
その景色は、偶然流れた流星群をも、霞ませる程だった。
「あぁ……終わった……」
私は気が抜けたようで、その場にぺたりと座り込んでしまう。周囲を見回すと、魔王が作り上げた騎士もどき達は消えており、代わりに彼らと戦っていた人達の歓声で王室が包まれた。
ユイちゃんがフラフラでこちらに向かってくる。私と顔が合い、ニッコリと笑顔を送ると、ユイちゃんも精一杯の笑顔を見せ、そのまま私の方に倒れ込んで来てしまった。私はユイちゃんを上手く抱えると、慎重にその場に寝かせる。
「フゥー、長かった。まさか魔王に買っちゃうなんて思わなかったよ。これもナルーシャとユイちゃん──いや、協力してくれた皆のお陰だね!」
「その中には当然お前も含まれるのだぞ? レイカ=フレーアールンよ」
私は笑顔を見せる。すると、ナルーシャ少しだけ口角を上げた。そして、ナルーシャの頬の皮膚が音もなく剥がれた。




