転職魔女、魔王と戦う その3
魔王が開けた大穴からは、綺麗な星が見える。もう日も沈み、外は真っ暗な夜とかしている。突然、階段の向こうから大勢の足音が鳴り響き、王室が小刻みに揺れる。どうやらに向かっているようだ。
「な、どこから湧いてきたのだ!?」
魔王の声と同時に、足音の正体が王室に入ってきた。そこに居たのは、偽物では無い本物の戦闘部隊『蘭』であった。きっと地下牢で幽閉されていたのだろう。その部隊の前衛には、途中で別れたユイちゃんとファーナさん、捕まっていた王女様とヘレンが立っている。
「総員、攻撃開始!」
「「「はっ!」」」
戦闘部隊『蘭』は一切無駄の無い動きで騎士もどき達に反撃していく。今すぐ皆の元へ抱きつきに行きたいが、その気持ちをぐっと堪えて、冷や汗を垂れ流している魔王に目を向ける。
「我が拳に宿りし鋼の魔神よ、この皮膚を黒く輝きし鋼鉄の装甲に、塵の如き摩擦を紅く染まりし地獄の火花に、我が拳を何者も滅ぼせし破滅の凶拳に『爆ぜる鉄拳』!」
ファーナさんは鉄拳を振り回し、騎士もどき達を戦闘不能に追い込んでいく。翼を広げて力を蓄えている魔王までの一筋の道が出来た。
私とナルーシャ、ユイちゃんは魔王の元へ飛び込んでいく。あとは魔王に止めを刺すだけだ。
「よくここまで辿り着いた。敵ながらあっぱれじゃ。だがな、一足遅かったの」
その魔王の言葉に、私は嫌な予感を覚える。その予感通り、魔王は翼を大きく広げ、凄まじい速さで夜空に羽ばたいて行く。あと一歩、あと一歩なのに……私は何か打開策は無いかと脳細胞をフル回転させるが、1つも見つからない。
と、その時。魔王が何かにぶつかった。それと同時に、ナルーシャが口から血を流して倒れ込む。
「ナルーシャ、大丈夫!?」
「いや……大丈夫では無いかもな。何せ、魔王でも容易に壊せないほどの結界でこの王宮を囲んだのだからな」
ナルーシャは顔を青ざめながらも、ニィと笑う。
「魔王は1度消滅しても時が経てばまた蘇る。魔王を完全に葬る方法は2つ。1つは勇者が聖剣で魔王の胸部に突き刺すことだ。そして、もう1つは……創世の魔法使いユイネルが作り出した魔法『終結の滅光』を使うことだ」
創世の魔法使いユイネル、想像することで何でも創造することが出来るという、神話に出てくる魔法使いだが、魔女と同じく実在していたようだ。女勇者は魔王によって殺されてしまった為、後者の方法を取るしかない。
「ナルーシャ、その魔法の詠唱を教えて!」
「いや、その必要は無い。何せ、この場に創世の魔法使いユイネルの娘が存在するのだからな」
すると、ナルーシャは誰かにアイコンタクトを送る。その瞬間、その誰かが夜空に飛び立っていく。その姿は、ユイちゃんであった。
「えぇーっ! ユイちゃんが創世の魔法使いユイネルの娘!?」
道理で魔法に詳しいと思っていたが……いや、魔法に詳しいからユイネルの娘だなんてのもおかしい。
私が衝撃の事実に口をパクパクさせる。それを見兼ねたナルーシャが私の頬に手を添える。
「混乱するのも分かるが、今はユイ=ゴーストの姿を見ておけ。唯の噂だが、この魔法はとてつもなく綺麗なものらしいからな」
私は固唾を呑み、夜空に浮かぶユイちゃんの姿を見つめた。ユイちゃんは大きな声で叫ぶ。
「詠唱魔法!」




