転職魔女、閉じ込められる
「あー、全身が痛いー」
元の時間、家に返ってきた私は、ソファに寝そべって自ら腰を叩く。こんなことになるのなら本気で泳がなければ良かった、と今更後悔してももう遅く、体の節々が激痛を生じさせる。
「あのかき氷は美味しかったですねー」
お風呂上がりのユイちゃんがアイスを食べながら私の隣に座る。
「当たり前だ。あのかき氷は市販では売っていない特別なものなのだぞ」
「次はレイカの番ですよ、お風呂」
「あ、そうだった」
私は脱衣所に入ると、服を脱いでお風呂場に突撃し、シャワーを浴びる。もくもくと生み出された湯気が、私の体を包む。体を一通り洗うと、私はお風呂場を出ようと出口の扉を開けようとする。が……
「開かない……何で!?」
何度も扉を引っ張るが、ピクリとも動かない。
「ナルーシャー、ユイちゃーん、ファーナさーん! 出られなくなっちゃいましたー!」
私は家の住人達に助けを求めるが、彼女らの返事は無い。私が途方に暮れていたその時だった。
「呼んでも無駄ですよ。結界を張っていますから、声は届きません」
声の主はいつの間にか私の後ろに出現していた。かの所は金色の長い髪をフワッと宙に舞わせる。
「私はヘリウス、カレン様の家来です。あなた──魔女様を拉致しに来ました」
カレン様……あっ! あの女勇者のことか! 私は少し遅れて状況を理解する。
美しい声とは見合わない『拉致』という単語を発したヘリウスは、右手の枝のような杖を持ち上げ、魔法を詠唱し始める。私をファルオード王国に連れて行くための魔法だろう。
私はヘリウスの詠唱を止めようと接触しようとするが、結界によって防がれてしまう。
「一体どうすれば……」
今の私にこの結界を壊す術は無い。無力である私に出来ることはたった1つだけ。
「だ、誰かぁー、助けてー!」
そう、助けを呼ぶことだ。ヘリウスは私の叫び声に構わず詠唱する。
「ナルーシャー、ユイちゃーん、ファーナさーん、誰か助けてー! ……助けてェー、皆ァ!」
パリン!
結界が崩壊する音と同時に、お風呂場の扉が開かれる。その扉の向こうにいたのは、拳を黒く染めたファーナさんだった。
「ファーナさん!」
「なっ!?」
これにはヘリウスも流石に驚いたようで、詠唱を止めて声を出してしまう。ファーナさんはその隙を狙い、拳を飛ばす。結界はいとも容易く壊され、拳は減速することなくヘリウスの元へと辿り着く──ギリギリの瞬間で、ヘリウスは消えてしまった。
1人でファルオード王国に戻ったのだろう。
「チッ! 魔女様、大丈夫でしたか?」
「はい、怪我はないです。ファーナさんこそ大丈夫ですか?」
「大丈夫です。もう少しで倒せたのですが……」
私達はお風呂場を出る。それにしても、何故ファーナさんだけ私の助けの声に気づいたのだろうか。その疑問をそのまま訴えてみる。
「ファーナさんは何で分かったんですか? 私が助けを求めていたと」
「ああ、それは魔法『復命の鎖』のおかげで分かったんです。魔女様がどんな状況にあるのか」
「そうなんですね!」
「あの……これからレイカさんって呼んでいいですか? ほら、魔女様が2人いることになるので……」
「……良いですよ、とっても嬉しいです!」
私は少し驚いたが、すぐに微笑み、承諾した。
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