転職魔女、刺される
裏世界編クライマックス!
意味深なことを発したその声は明らかにサーニャのものだった。
私は傷口を手で抑え、顔を歪めながら振り返る。
そこにはいつも通り笑顔のサーニャがいた。しかし、右手に持っている血に染まった剣が真実を物語っている。
「そんな……どうして……サーニャ……」
何かしらの魔法によって精神を乗っ取られてしまったのか、それとも攻撃を促すような魔法が私にかけられていたのか。色々なパターンを考えたが、サーニャが述べた事実はそのどれでもなかった。
「私ぃー、ルーラー様の部下なんですよ。一応軍の隊長やってましてー、最近エルフクイーンの見張り目的であの森で住んでたんてすよー。あ、ちなみに私の本当の姿はコレッ!」
サーニャは左手で指を鳴らす。指から発せられた音と呼応して、サーニャは豊かな自然を連想させる緑服を着たエルフから、地獄の恐怖をそのまま貼り付けたかのような服を着た魔人へと姿を変える。
「いやぁー、まさかルーラー様が死んじゃうとは思いませんでしたよー。もうバッキバキのボッコボコ、ユイさんが死んじゃった時のレイカの顔、傑作でしたもんねー!」
「私と……ユイちゃんの名を呼ぶんじゃねぇ!」
ようやく状況を理解した私はサーニャに殴りかかる。が、サーニャすらりとかわされ、私は勢いでその場で転がってしまう。
「あはは、やっぱり速いですねぇー、魔法はほぼ無限に撃てるし動きも速いし力も強いって……最強じゃないですか!? でも、流石に背中を剣でぶっ刺された後ではルーラー様を殺した時のような速さは出ないんですねー」
「くっ……」
すぐさま立ち上がろうとするが、上手く体を動かすことが出来ない。血を流しすぎたせいで貧血状態になっているのだ。
「あなたを殺せば魔王様は本来の力を取り戻し、そうなれば私は一気に大富豪ですよー! ま、この裏世界からは出られないのでお金とか土地は貰えませんけどねー」
「じゃあ……何で……?」
「私は魔王様に忠誠を誓っているのです。脳の溶けてる人間達が言う友情やら絆やらのゴミみたいなものとは違うんですよー。私達、魔王様に従う者達は命を賭けて魔王様の命令に従います」
サーニャは素振りを数回繰り返すと、動けない私の方へゆっくりと近づいてくる。
「さて、お喋りは終わりにして早く殺してしまいましょう。慎重に、より確実に……」
コツ、コツとこちらに近づいてくる。1歩、また1歩と距離を縮めていき、遂に私の目の前に辿り着いてしまった。
「短い間でしたが、ありがとうございましたー!」
サーニャは一切の躊躇無く剣を振る。動くことが出来ない私は、唯呆然と自分の首元へと近づいてくる銀色の刃を眺める。
──死ぬ。そう確信した時だった。
パリン!
私を死の世界へと誘うはずであった銀色の刃が、どこからともなく現れた黒い拳によって粉々に砕け散る。
私とサーニャは同時に声を上げる。右手に黒い拳を身につけたその女性は、私に肩を貸してくれる。どうにか立ち上がることが出来た私は、右手に拳を作ってその女性の拳に軽く当てる。
私はその女性の名と感謝の言葉を述べた。
「来てくれて……ありがとうございます、ファーナさん!」




