転職魔女、王女様と真面目に話す
やばい……ヤバイヤバイヤバイ!
いや、待てよ? 別にバレても良いのではないのか。もしかすると、魔女だと讃えられて前の私(王子の婚約者)以上に楽な生活が待っているかもしれない。少なくとも私の周りの人は魔女様! と讃えてくれている。
私が今の状況を楽観的に捉えて嬉しくなっていると、私の頭の中にもう1人の私が出てきた。
『そんなことなんて起こりはしない。何かの実験の対象にされて終了。拷問よりも酷いことを散々受けた挙句死亡、死体は解剖されてバラバラ、1片残らず実験材料にされるのよ』
いやあああ!
王女様の前なのにも関わらず叫びそうになるが、何とか理性を復元して阻止する。
「あの……どうして分かったのでしょうか? 王女様の言う通り、私は魔女という者で御座いますが……」
私の質問に王女様が答えるのかと思いきや、いつの間にか王女様の隣に立っているヘレンが口を開いた。
「それは王女様の目が特別なのです!」
「目、ですか?」
確かに王女様の目は、他の人よりも黄色い気がする。すると、信じられないことにヘレンが王女様の目を指で広げる。私は王女様への無礼に言葉も出ないのだが、ヘレンは平気そうでヘラヘラと笑いながら目の説明を始める。
「王女様の目は『真実の眼』というものでして、超レアなスキルなんです!」
「おい、ヘレン手を離せ」
ヘレンは王女様の深い声にも意に介さず、今度は顔をベタベタと触り始める。
「『真実の眼』は別名"神の目"と呼ばれていまして、見た相手の本名や年齢、血液型までわかってしまうんです!」
「おい、いい加減にしろよ?」
ヘレンは王女様に構わず、今度は王女様の頭を撫で出した。
「これは先天的なもので、後天的には習得できないスキルで……」
「……いい加減に、しろぉ!」
王女様は遂に耐え切れず、ヘレンに右アッパーをくらわせようとするが、ヘレンはその一撃を後ろに跳んで避ける。
何と言うか……仲が良いな。
ふとそう思った私は、自分の好奇心に任せて質問する。
「あの……王女様はヘレンさんの無礼をお許しなさったり、少々おきつい言葉をお使いになられていますが、2人は特別な関係なのですか?」
私にしては失礼が無いように言えたな、と自分で自分を褒める。
私の質問を聞いたヘレンは目を光らせて、自信満々に言う。
「勿論! 俺達は結婚を前提に付き合って……」
「付き合ってなどいません。ただの腐れ縁です」
この質問はタブーだったようで、王女様は少しツーンとしてしまった。私は気持ちを切り替え、1番重要であった謎を繰り出す。
「話は変わるのですが……何故、私をここにお呼びなさったのですか?」
「ああ、そうですね、それを説明するのを忘れていました。ミノタウロスは一見、何も考えず暴れ回る凶暴な生物だと思うでしょうが、実はとても賢い生物です。相手と自分の戦力差を見極め、勝てるかどうか推測する……」
王女様は先程壊したものとは別のカップを取り出し、ヘレンに紅茶を入れされる。
「そのミノタウロスを指1本触れずに止めた者がいると聞いたので、どんなものかと思っていましたが、まさか魔女とは思いもしませんでした。他の王族に見つかっては実験動物にされてしまうでしょうが、私はそんな事はしません」
王女様は優雅に紅茶を啜ると、私に指を向けて言った。
「私に手を貸してくれませんか?」
補足話:王女様が飲んでいる紅茶は市販では販売されておらず、全てヘレンがブレンドしたオリジナルです。




