転職魔女、家を荒らされる
球魚の数に圧倒されていると、シャネルがにやけ顔でこちらを見つめてくる。
「魔女様は丁寧すぎるんですよ、私みたいにパパッとすくえば……あっ!」
シャネルが調子に乗って乱暴にポイをかき回していると、いつの間にか破けてしまっていた。
悲しそうに破けたポイを眺めるシャネルに、さっきの仕返しのごとく挑発を浴びせる。
「へぇー、パパッとすくうとそんなことになるんだー、勉強になったよ」
「……このシャネル、一生の不覚です」
シャネルは唇を噛み締めながら、屋台のおじさんにポイと容器を渡す。
「よおし、じゃんじゃんすくうぞーってあれ? 球魚が1匹もいない……」
消えてしまった球魚を探していると、隣からブツブツと声が聞こえる。
「名もなき存在よ、我が元に結合せよ『警報の笛』」
すると、超巨大な球魚が出現し、その大きな巨体を水面にぶつける。水しぶきを存分に浴びた私は、右手に拳を作ってユイちゃんを睨みつける。
「魔法禁止!」
私に注意されたユイちゃんは魔法を取り消し、ため息をつきながらポイを握る。
「レイカはユイの実力を分かっていないようですね。はあっ!」
ユイちゃんはポイを勢い良く水中に投入するが、その勢いのせいでポイが破けてしまった。
「そ、そんなぁ……」
ユイちゃんはまたため息をつくと、空の容器と破れたポイを渡し、挑戦者から観客に移った。
「さあ、残りはファーナさんだけ……」
ファーナさんの方を見ると、一生懸命にポイを動かして球魚をすくおうとしている。が、ファーナさんが水中にポイを入れようとした瞬間、球魚が一目散に逃げていくのだ。
きっと、ファーナさんはドラゴンなので、球魚が本能的に逃げてしまうのだろう。
「だ、大丈夫です。球魚が逃げる前にすくえば良いんですよ! こういう風に……」
私は球魚が逃げる間も与えないように、高速でポイを水中に投入。しかし、その速さによる勢いでポイが破けてしまった。
「あーあ、破けちゃった……」
結局ファーナさんも諦め、1位から順にシャネル38匹、私22匹、ユイちゃんとファーナさん0匹という結果になった。
屋台のおじさんに参加記念として球魚を3匹貰い、祭りの1日目は幕を閉じた、……と思われた。
シャネルとは別れ、3人で私の家に帰っているところだった。
私の家に入ろうとすると、何かがおかしい。家がいつもの雰囲気では無い。
私はポケットから鍵を出してドアの鍵穴に差し込むが、手応えがない。……鍵が空いている。その状況を2人にも伝え、私は恐る恐るドアを開けて電気をつけた。
「これは……」
家の中が荒れていた。いや、正確に言うと荒らされていた。何者かによってソファは倒れ、壁は傷だらけ、窓ガラスはひとつ残らず割られていた。
「……泥棒?」
「いえ、泥棒がここまで家を荒らす必要はありません。これは完全にユイ達に恨みのある人がやったものです。心当たりはありますか?」
私は誰かに恨まれるような事をした覚えが無いので、挙手しない。ユイちゃんも同様だった。その時。
サッ
ファーナさんが静かに手を挙げた。
「きっと……私のせいです」




