転職魔女、魔法を使う
「だ、大丈夫?」
倒れたユイちゃんに駆け寄り、寝室のベッドに移動させる。
ユイちゃんの顔は赤くなっていて、体中から汗が吹き出ている。熱があるようで、体温が高く、呼吸が荒い。
「……すみません、殆どの魔力を……使ってしまったようで……」
ユイちゃんはきっともう限界を超えていて、先程の魔法で魔力が減ってしまったのだろう。
「ユイちゃん、『癒しの光』の詠唱を教えて!」
「……我が命を糧とし……矮小なる存在に今一度……立ち上がる力を与えん……」
私は詠唱を何度も復唱して脳に刻み込む。
魔法を発動するにはユイちゃんが見せてくれた手順でいいはずだ。ユイちゃんの魔力がいつまで続くか分からない。そう何回も挑戦する時間は無い。
「集中! 集中……」
私は目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。両腕を前に伸ばし、その掌に魔力を動かす。そして、魔力を体外へ移動させ、両手をユイちゃんの胸辺りに近づける。
私は大きく息を吸い、刻み込んだ詠唱を読み上げた。
「我が命を糧とし、矮小なる存在に今一度、立ち上がる力を与えん『癒しの光』!」
詠唱を唱え終わると、私の両手に留まっている魔力が光り出し、ゆっくりとユイちゃんの体に向かっていく。
緑、黄、赤、紫、青、白……沢山の鮮やかな色に変化する様子は、何とも言えないほど綺麗だった。
魔力とは命、魔力が無くなれば心は途絶え、体は滅びてしまう。誰もが、どんな生物もが大切な命。その光は、命と同じだった。どれだけ美しくても、いつかは必ず消えてしまう。それを知っていても、諦めず、自分に出来る事を探して、それでも儚く消えてしまう。
その光はユイちゃんの体の中に吸い込まれた。同時に光は消え、ユイちゃんの汗も高熱も引いていた。
「よしっ……」
ユイちゃんは私を見て笑うと、眠りについた。
私はくしゃくしゃになっていた毛布を、ユイちゃんにそっと掛ける。
「……コーヒー飲みたい」
台所に向かいながら、ユイちゃんの笑顔を思い出し、廊下で呟いた。
「魔女っていうのも、案外良いかも……」
■
「こんにちはー!」
「シャネル、久しぶり!」
私はシャネルをリビングへ連れていく。1ヶ月近く修行で遊べていなかったので、今日はオフ会として皆で騒ぎまくる。多少騒いでも迷惑にならないのが、一軒家のの良いところである。
「ユイさん、腕相撲で勝負です!」
「シャネルよ、受けて立つ!」
レディーゴーの数秒後にグハァーと唸って瞬殺されるシャネルを見ながら、手元のコーヒーを啜る。
「そういえば、最近ギルド内でドラゴンが噂になっているんですよ」
「ドラゴンって、神話に出てくるあれのこと?」
「はい、沢山の冒険者達が空を飛ぶドラゴンを見た、と」
「ドラゴンかぁ……取り敢えず、何も起きない事を祈るよ」
明日からは今度こそスローライフを始める。畝を作り、種を植えて、畑を作る。そして、念願の自給自足を作り上げるのだ!




