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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少女、灼熱の調理をする


 ナポリとレンゲの2人の料理対決が始まり二人が調理作業へと入ると、観客達の前まで歩いてきたフルドがマイクを持って眼前に居る観客達へと説明に入った。

 

 「お集りの皆さーん、この2人の対決の審査方法についてなのですが、この場に居る観客の皆様方から選びたいと思います!!」


 フルドの言葉に観客の皆だけでなく、安腹亭の3人も僅かに驚きを表した。


 「観客の中から選ぶ…?」


 てっきり審査員は既に決められている物だと思っていたサードが僅かばかりの怪訝感を露わにする。それは隣で一緒に話を聞いていたメイシも同じであった。思い返せば彼女は対決の日時を伝えたきり何も言ってはこなかった。普段ならばメイシからフルドにコンタクトを取って対決にまつわる話し合い位は行っていたのだろうが、今回はレンゲの特訓に集中して余裕がなかった、と言うより失念していたのだ。

 フルドの観客から審査員を選出するという提案はギャラリー側としては賛成という空気が流れており、観戦している女性達は盛り上がりを見せている。


 「(…これじゃ私が何を言っても無駄ね)」


 対決の日時や選手に飽き足らず、審査方法まで向こうサイドに決められてしまい、またしても後手に回る安腹亭とメイシ。場の盛り上がり方からしてここで不用意な発言をしてしまえば反感を抱かれコチラ側が不利になる危険もあり口をつぐむメイシ。

 

 「安腹亭チームもそれで良ろしいでしょうか?」


 フルドがマイクを使い大きくなった声で同意を求める。

 口元にうっすら笑みを浮かべながら尋ねて来るフルドに内心で白々しいと思いつつ「それで構わないわ」と返しておくメイシ。

 相手側も同意してくれたことで再びギャラリー側に目を向けるメイシ。


 「それでは料理が完成次第、お集りの皆様方から3名まで審査員として選出させてもらいます!」

 「………」


 審査方法が決まった事でメイシはその場から離れて元の位置へと戻った。その後ろ姿をメイシは無言で見つめており、そして…確かに見た。彼女が背を向ける瞬間、口元に大きく弧を描いていた事に……。

 

 「…嫌な予感がするわね」


 元の位置に戻ったフルドはナポリの調理を眺めながら外面は平静そうな表情をしているが、その内心では笑いをこらえていた。


 「(勝ったわね。この勝負…貰ったわ!!)」


 まだお互いの代表が調理を行っている最中であるにもかかわらずフルドは自分たちの勝利を半ば確信していた。

 観客側にチラリと目配せをするフルド、すると群衆の中に1人、彼女の視線に気付き数度瞬きをする女性が居た。そう、彼女こそはフルドが万一の保険の為に用意していた存在、つまりは八百長に加担しているフルドの息が掛かった女性であった。

 事前調べで相手のレンゲの料理の腕前が酷い事は把握済みである。しかしそれだけではまだコチラが勝てるとは限らない。もしかすれば対決までに相手の腕前が飛躍的に上昇する可能性も無い事も無い。故に、もしもの為の保険として自分の息がかかっている者を忍ばせておいたのだ。報酬にサードの写真を数枚撮って渡す事を条件にして…。


 「(この勝負、たとえ卑劣な手段を用いたとしても勝たせてもらうわよメイシ!)」


 勝利すれば貴重な男の子がこちらの店で期間限定とはいえ働いてくれるのだ。

 彼女個人としても異性に興味もあるが、サードがこちらの店に来れば客の増加は勿論の事、従業員達のモチベーションも上がりより自分の飲食店が繁盛する筈だ。


 「まあ、小細工なしでもナポリならきっと勝てるんだろうけど…」


 ナポリの腕前はフルドも信頼している。だからこそ、この勝負で彼女を代表として選んだのだ。しかも幸運な事にナポリは麺類で勝負するのに対し、相手のレンゲも同じく麺料理を作る事は調べてある。同じタイプの料理ならば優劣が付けやすい。


 「相手も麺料理で来るのはこちらとしても嬉しい誤算だったわね♪」


 相手側の様子を見てみるとメイシやサード、そして料理の途中で気付いたレンゲもナポリが自分と同じ作業をしている事に気付いて驚いているようだ。




 「もしかして…私と同じく麺料理…?」


 レンゲが小麦粉に水を混ぜてこねていると、相手も自分と同じく小麦粉をこねていた。

 もちろんそれだけで相手が麺を作っているとは限らない。全く別の料理の可能性も否定できない。


 「っ…、集中集中!」


 相手の作業を観察して作られる料理が何かを考察するが、すぐに自分の料理に集中するレンゲ。

 相手がどんな料理を作ろうと関係は無い。自分はサードとメイシと共に特訓をして成果を十全にこの料理に注ぐだけだ。いくらアドバイスを貰いながら特訓したとはいえ他のことに気を取られている余裕など自分にあるはずがない。

 だがそれでも、もう一度だけ彼女がこねている生地へと目を向けるレンゲ。


 「(…それにしてもあの生地の色合い…なんか凄いな)」


 相手のこねている生地の色が気になり、つい意識が逸れてしまうレンゲ。何しろ、彼女のこねている生地はとてつもなく赤いのだ。目が痛くなるほどに。

 すると彼女はもう生地をこね終えたようで今度は生地をねかせ始めた。


 「ヤバッ! 見とれている場合じゃない!」


 相手の生地の色が気になり手の動きが疎かになっており、急いで手を動かし始めるレンゲ。

 一方、生地をねかせている間、今度は麺に絡めるスープの方の作成に取り掛かるナポリ。額の汗を拭い鍋の中に水を入れ始める。


 「さて…と…」


 鍋に火をかけ中の水を加熱すると、何やら紅く細長い果実を用意するナポリ。その用意した果実をすり鉢の中に入れると、すり棒で混ぜてすり潰し粉末状にしていく。今、彼女が混ぜているのは〝ゲキトウガラシ〟と呼ばれる果実だ。通常のトウガラシ以上の辛みを持つごく最近発見された新種の果実なのだ。

 相手の様子を観察していたメイシはナポリの持つ果実の正体に気付き僅かに驚く。


 「あれはゲキトウガラシ…。最近発見された新種じゃない。フルドのヤツ、あんなものまで仕入れていたなんて…」


 視線をフルドへ向けると、それに気付いた彼女はどこか得意げな顔をした。


 「(他にも珍しい食材や果実も用意してるわね。でもアレは全部…)」

 

 ナポリの調理台の上には他にもいくつか食材が用意してあるが、そのほとんどがメイシが知る限りでは辛み成分の強い物ばかりだ。しかもレンゲと違いずっと見ていたメイシはナポリの生地にも何やら事前に用意していた赤い粉末を混ぜていたところを目撃している。

 激辛料理を作っている事は分かったが、あんな物、普通の人間に食べれるかどうか怪しい物であった。


 「さて、次…」


 ゲキトウガラシを粉末にし終えると、すり鉢の中の粉末を熱した鍋の中に入れ、今度は別の果実をすり鉢に入れてかき混ぜ始める。

 額から流れる汗をタオルで拭いながら調理を続けるナポリ。見ているだけで辛そうな料理に観客達も出来上がりを想像したのか少し汗を掻く。

 

 「辛そ~…」

 「あれ、食べれんの?」


 観客達の声を聴きながらも作業を続けるナポリ。

 一見すると度を超えている激辛料理、食べれば美味しいや不味い以前に口の中を火傷するのではないかとすら疑わしく思える。大半の者達は自分が審査に選ばれないようにとすら心の中で祈り始めている。しかし、それとは対照的にフルドは取り立てて慌てる様子も見せずにナポリの調理を見守っている。


 「あの人何で止めないの? あんなの絶対食べれないって…」


 フルドが黙認している事を怪訝に思う観客達。

 しかし、観衆の声などフルドは気にも留めない。何故ならナポリがどのような料理を出すかは自分は当然知っているのだ。心配せずとも彼女の料理はここから化ける。


 「さて…そろそろ〝コレ〟の出番ね…」


 一通り調理台の上に置いてある辛い食材を鍋に入れた後、ナポリはある食材を取り出した。


 

 

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