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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少年、気を引き締め直す


 レンゲの料理指導から翌日の朝、メイシとサードは彼女の作る麺に見合うスープを作る為に夜更かしをし、寝不足気味の状態で彼女が来るのを待っていた。しかし、夜遅くまで厨房で奮闘した甲斐はありスープに関しては中々良い物が出来た。

 

 「スープの基盤は出来たし後はここから発展させていくだけね」


 メイシが厨房の方に目を向けながらレンゲの到着を待つ。

 それから数十分後、店の扉が開くとお目当てのレンゲが出勤して来た。


 「おはよーございまーす」


 やって来た彼女は店の中で待っていたメイシとサードの2人に軽く挨拶を交わす。


 「今日もよろしくお願いしますメイシさん」


 メイシに頭を下げながら今日一日の指導をお願いするレンゲ。

 だが、メイシは彼女の手に持っている小さな取っ手付きの鍋が気になって仕方がなかった。


 「それは何かしらレンゲ?」


 少し不穏に思いながら彼女の持ってきた物が何かを問うメイシ。

 すると彼女は笑いながら鍋の蓋を開けて中身を披露する。


 「実は私スープを作って来たんですよ。あのあと宿に戻ってから色々と私なりに試行錯誤して見て…」

 「そ…そう…」


 昨日の事から危険な物を見る眼で鍋の中身を警戒するメイシ。しかし対照的にサードは随分と落ち着いた様子で彼女の作って来たスープを観察していた。その理由は彼女が鍋の蓋を開けたにもかかわらず一切の異臭を感じなかったからである。少し遅れレンゲもその事に気付いたのか彼女の持ってきたスープに興味を示し出した。


 「レンゲ、そのスープあなたが作って来たの?」

 「はい、今回は結構自信作なんですよ! 実はこれ麺のスープをイメージして作ったんですよ」


 その言葉に2人は少し驚きを示した。

 昨日の夜、2人はレンゲには麺づくりの方面に光明があると思い自分たちもそれに見合うスープを作っていたのだが、当の本人もいま麺に合うスープを持ってきたからだ。

 しかし一番驚いたのは彼女の鍋から異臭が漂わない事実であった。


 「…少し味見していいかしら」


 僅かな警戒とそれ以上の興味心を抱きながら鍋の中身をスプーンですくい口に運ぶメイシ。レンゲの作ったスープを口に入れた彼女はそのままその中身を吐き出し――はしなかった。


 「美味しい…」


 とてつもなく美味…という訳でもないが、彼女の腕前を昨日十分理解しているメイシからすればこのスープをレンゲが作ったとは思えなかった。それ程までに今味見したスープは昨日の料理とは見違える程の成長を遂げていたのだ。

 メイシの好意的評価に嬉しそうにするレンゲ。


 「メイシさん、今美味しいって言いましたよね!」

 「え、ええ…」


 僅かに鼻息を荒くしながら興奮気味で喜びを表すレンゲ。そんな彼女に少したじろぎながらもメイシは冷静に彼女の料理の上達ぶりに考えを巡らせていた。

 

 「(どういう事かしら? 昨日までの腕前からどうしてここまで急に…)」


 レンゲの料理の腕前の飛躍的上昇の理由を思考していると、隣に居たサードが小さく肩を叩いてきた。

 

 「サード君?」

 「……」


 肩を叩かれ反応するメイシであるが、それとは対照的に無言のサード。

 彼はレンゲの手元に向けて顎を指した。それにつられて目線を彼と同じ方向の、レンゲの手元へと持って行くメイシ。


 「…!」


 そして彼女の手元を見て小さく体を揺らし反応を示す。

 サードに言われようやく彼女も気付くことが出来たのだ。


 彼女の指先の何本かに包帯が巻かれている事に……。


 「レンゲ…その手どうしたの?」

 「あ、コレですか」


 分かりきっている事ではあるが敢えて口にして聞く。

 それに対してレンゲは少し照れくさそうな顔をしながら答える。


 「あはは、実は昨日宿に戻った後も練習していたんですよ。ただ夜遅くまで練習していたせいか寝ぼけていて少し指を切っちゃって…」


 頭を掻きながら恥ずかしげな表情で受け答えするレンゲ。

 そう、自分たち同様にレンゲも昨日は宿に戻った後、少しでも上達する為に練習を積んでいた。彼女の傷ついているその手が如実にそれを物語っている。


 「でもレンゲ、眠い時はきちんと睡眠をとらないとダメだって。指先を軽く切ったぐらいだから良かったものの、手元が狂ってもっと酷い怪我をする危険だってあるから」

 「あはは、ゴメンね~」


 レンゲの手を取って心配そうに彼女の包帯が巻かれている指を見て軽く注意をするサード。

 それに対して軽いノリで返事をするのでメイシも少し強く指摘をする。


 「レンゲ、サード君も心配しているのだから」

 「あ…ごめんなさい。で、でもお蔭で料理対決で勝負する料理が決まりましたよ!」


 メイシにまで注意をされさすがに少し反省の色を見せる。だが、同時に料理対決の料理のテーマも決まった事を告げる。


 「さっき私言いましたよね。麺に合うスープだって…料理対決では〝麺料理〟で勝負しようと思っているんです」

 「麺料理…まあ麺のスープをイメージして作ったのならそりゃそうでしょ」

 「あっ、そっか。たはは」


 スープを味見してもらう際の自分のセリフがすでに答えを言っていた事に今更気づき彼女の頬が赤くなった。

 しかし、彼女自身麺料理を大会で出すつもりならばサードとメイシにとっても都合が良かった。何しろ2人もレンゲには麺料理で勝負してもらうつもりだったのだから。その為に夜遅くまでスープ作りに没頭していたのだから。

 サードはレンゲに自分たちも麺料理を進めるつもりであったその旨を伝えた。


 「レンゲ、実はオレたちもレンゲには麺類の料理で勝負してもらおうかと考えていたんだ」

 「えっマジ?」

 

 サードの言葉に僅かながら驚きを表すレンゲ。

 彼の言葉を引き継ぐようにメイシもまた同意した。


 「レンゲ、昨日はイロイロと料理を作っていたけどその中で麺も作っていたでしょ。昨日のあなたの作った中でも麺に関しての出来栄えはそこそこ良かったわ」

 「…そこはもっと…美味しかったやとても出来栄えが良かったって言ってほしかったな~…」

 

 口を尖らせながら少し不満を口にするレンゲだが、自身の料理の腕前の酷さは昨日の試食後の2人の姿を見てさすがに認めざる負えないのでそれ以上の不満を口にはしなかった。

 それに、一応お褒めの言葉を頂けたので悪い気はしない。


 「でもこれで少しは希望が見えて来たかな?」


 自分の事ながら料理対決までのごく短い期間、レンゲは自分がまともに戦えるか少し不安ではあったのだ。だが、今の2人の今までで一番試食後のまともな反応を見せられて希望が出て来た。

 少し自信が出て来たレンゲの表情を見て、今度はサードとメイシが昨晩作った試作スープの味見をお願いする。


 「オレたちの方でも昨日はスープを作ってみたんだ。だからレンゲも味見して見てくれ。そこから3人で麺作くりと並行してスープもより良い物へと仕上げて行こう」

 「りょーかい。じゃあ早速味見させてもらいまーす」


 意気揚々としながら厨房の方へ駆けて行くレンゲ。

 後ろからメイシが余り店の中で走らないように声を掛けている。

 そして、昨日よりも余裕が見れるその光景を見てサードは小さく息を吐いた。


 「(残り2日しかないけど…これならまだ希望は……)」


 わずかではあるが光明が見えて来た事に少し肩の荷が下りた気分になるが、すぐに気を引き締め直す。

 とりあえずは料理対決のテーマは見えてきたが、まだこちらの料理はあくまで土台が出来たに過ぎない。それに対し恐らく相手は既に料理のテーマは決めており料理の完成度もこちらよりも上であるだろう。たかだかテーマが決まっただけで慢心すれば簡単に足元をすくわれるだろう。


 「(最後まで気を抜かず全力で…!)」


 少し緩みつつあった気持ちを引き締めて2人の後に続いて厨房の方へと足を運ぶサード。


 料理対決まで残り2日。サード自身の命運もかけた決戦はすぐそばまで差し迫っていた。




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